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  • Sec.1

1商業使用人

堀川 寿和2021/12/07 10:42

意義

 事業規模が大きくなると、商人がその営業活動をすべて自ら行うことが困難になるため、その業務を補助する者が必要になってくる。

 商業使用人とは、雇用契約によって特定の商人または会社(以下この節では「営業主」という)に従属し(=営業主の指揮監督に服し)、企業から営業に関する代理権を与えられて、その商業上の業務を対外的に補助する者である。なお、雇用契約は被用者に自然人を予定しているため、商業使用人になることができるのは自然人のみである。


商業使用人の種類

 商業使用人には、支配人(商法20条以下・会社法10条以下)、ある種類または特定の事項の委任を受けた使用人(商法25条・会社法14条)および物品の販売等を目的とする店舗の使用人(商法26条・会社法15条)の3種類がある。

支配人

(1) 支配人

 支配人とは、商人(または会社)に代わってその営業(または事業)に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する商業使用人である(商法21条1項、会社法11条1項)。

 名称や肩書によって決まるわけではないので、「支店長」や「マネージャー」という名称や肩書であっても、商人(または会社)に代わってその営業または事業に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する者は、支配人である。つまり、支配人とは、商人(または会社)からこのような包括的な代理権が与えられた商人(または会社)の代理人である。


(2) 支配人の選任・退任と支配人の登記

① 支配人の選任

 商人は、その営業所の営業の主任者として、支配人を選任し、その営業所において、その営業を行わせることができる(商法20条)。

 会社(外国会社を含む。)は、その本店または支店の事業の主任者として、支配人を選任し、その本店または支店において、その事業を行わせることができる(会社法10条)。


Point 商人によって支配人に選任された者は、商人の代理人になるのであって、支配人に選任されたからといって、商人資格を取得するわけではない。

② 支配人の退任

 支配人の代理権が消滅したとき、支配人は退任したことになる。支配人の退任については、民法の代理および委任の規定が適用される。


Point 商行為の委任による代理権は、本人の死亡によっては、消滅しない(商法506条)。したがって、商人が死亡しても支配人の代理権は消滅しない


③ 支配人の登記

 商人(または会社)が支配人を選任し、またはその代理権が消滅したときは、その登記をしなければならない(商法22条、会社法918条)。


(3) 支配人の代理権

① 包括的代理権

 支配人は、商人(または会社)に代わってその営業(または事業)に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する(商法21条1項、会社法11条1項)。

 「裁判上の行為」とは、訴訟行為である。「裁判外の行為」とは、訴訟行為以外の営業に関する法律行為である。取引行為も、裁判外の行為に含まれる。一切の行為をすることができるので、このような代理権を、包括的代理権という。このような包括的代理権が支配人に与えられるのは、商人(または会社)の取引活動を円滑に進めるためだけではなく、第三者の取引の安全を確保するためでもある。


② 使用人の選任・解任権

 支配人は、他の使用人を選任し、または解任することができる(商法21条2項、会社法11条2項)。


③ 代理権に加えた制限

 支配人には、商法(または会社法)によって、包括的代理権が与えられているが、商人(または会社)は、支配人の代理権に制限を加えることができる。ただし、支配人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない(商法21条3項、会社法11条3項)。これは、支配人の包括的代理権が制限されていることを知らなかった第三者を保護するためである。


Point 支配人の代理権の範囲は法定されているが、商人(または会社)は、これに制限を加えることができる。そして、支配人の代理権に加えた制限は、悪意の第三者に対しては対抗することができる

(4) 支配人の競業の禁止

① 支配人の競業の禁止

 支配人は、商人(または会社)の許可を受けなければ、次の行為をしてはならない(商法23条1項、会社法12条1項)。

(a) 自ら営業を行うこと。
(b) 自己または第三者のためにその商人(または会社)の営業(または事業)の部類に属する取引をすること。
(c) 他の商人または会社の使用人となること。
(d) (他の)会社の取締役、執行役または業務を執行する社員となること。

 上記の(b)を競業避止義務、(a)、(c)および(d)を精力分散防止義務という。支配人は商人(または会社)のために忠実に職務を遂行しなければならない。支配人がこのような義務を負うのは、支配人が広範な代理権をもち、また商人(または会社)の機密に通じる地位にあることから、その地位を利用して自己や第三者の利益を図るおそれがあるからである。


Point 支配人は、商人(または会社)の許可を得れば、上記(a)~(b)の行為することができる


② 競業避止義務に違反した場合の損害額の推定

 支配人が上記①(b)の競業避止義務に違反した場合は、当該行為によって支配人または第三者が得た利益の額が、商人(または会社)に生じた損害の額と推定される(商法23条2項、会社法12条2項)。


(5) 表見支配人

① 表見支配人

 「表見支配人」とは、商人の営業所の営業の主任者であることを示す名称を付した使用人(または会社の本店または支店の事業の主任者であることを示す名称を付した使用人)をいう(商法24条、会社法13条)。つまり、「支配人」ではないにもかかわらず、「営業所長」や「本店長」「支店長」などの、いかにも「支配人」らしき名称や肩書を付された者のことをいう。


② 表見支配人の取扱い

 使用人に、いかにも「支配人」らしき名称や肩書が付されていると、相手方は、その使用人を「支配人」と信じて取引するおそれがある。そこで、「表見支配人」を次のように扱うことにした。

(a) 原則

 「表見支配人」は、当該営業所の営業(または当該本店または支店の事業)に関し、一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなされる(商法24条本文、会社法13条本文)。つまり、取引行為などの裁判外の行為については支配人と同様に扱うということである。

(b) 例外

 相手方が悪意であったときは、「表見支配人」は、一切の裁判外の行為をする権限を有するものとはみなされない(商法24条ただし書、会社法13条ただし書)。取引の相手方が、その使用人が「支配人」ではないということを知っていた場合は、相手方を保護する必要がないからである。


Point 「表見支配人」は、一切の「裁判外の行為」をする権限を有するものとみなされるが、「裁判上の行為」をする権限については、有するものとみなされない。したがって、「支配人」とみなされるわけではない。