• 行政法ー3.行政作用法
  • 4.行政上の強制措置
  • 行政上の強制措置
  • Sec.1

1行政上の強制措置

堀川 寿和2021/12/06 11:21

行政行為が行われた場合、国民は拘束力によって拘束され、行政行為に従わなければならないが、従わなかった場合はどうなるのかという問題である。そのような状態を放置することは公益に反することになるため、行政上の義務の不履行に対して実力行使を行い、行政行為の実効性を確保しようとする制度が行政上の強制措置の制度である。

強制措置の内容には大まかに、将来の必要な状態を実現しようとする「行政強制」と、義務違反に対する事後的な制裁である「行政罰」がある。




行政強制

行政強制には、義務の不履行を前提として将来の必要な状態を実現しようとする「行政上の強制執行」と、義務の不履行を前提とせずに、目前に迫った障害を除くために実力行使をする「即時強制」がある。


(1) 行政上の強制執行

行政上の強制執行の種類は以下のとおり。なお、行政上の強制執行は、私人の権利・義務に直接影響を与えるものであるので、侵害留保の原則により、必ず法律の根拠を必要とする。

① 代執行

代執行とは、義務者が、他人が代わってすることができる義務(代替的作為義務)を負っていてそれを履行しない場合に、行政庁または第三者が義務者に代わってこれを履行し、その費用を義務者から徴収することをいう。例えば、建築基準法に違反する違法建築物を撤去する義務が課されているにもかかわらず、その所有者がこれを行わない場合に、その所有者に代わって第三者が建築物を取り除くような場合をいう。

代執行については、その一般法として行政代執行法が定められている。一般法であるので、個別の特別法に代執行の規定があればそれを根拠とし、逆に個別の特別法が存在しなくても行政代執行法を根拠として行政代執行が可能である。

【行政代執行法】

(a) 代執行に関する一般法としての行政代執行法(行政代執行法1条)

「行政上の義務の履行確保に関しては、別に法律で定めるものを除いては、この法律の定めるところによる」(1条)。

(b) 代執行の要件(行政代執行法2条)

i) 法律または行政行為(命令)によって命じられた「代替的作為義務」の不履行

ii) 他の手段によってその履行を確保することが困難

iii) 不履行の放置が著しく公益に反する

「法律(法律の委任に基づく命令、規則及び条例を含む。以下同じ。)により直接に命ぜられ、又は法律に基づき行政庁により命ぜられた行為(他人が代わってなすことのできる行為に限る。)について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によってその履行を確保することが困難であり、且つその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者がなすべき行為をなし、又は第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる」(2条)。

(b) 代執行の手続(行政代執行法3条~6条)


【原則】

i) 文書による戒告

「前条の規定による処分(代執行)をなすには、相当の履行期間を定め、その期限までに履行がなされないときは、代執行をなすべき旨をあらかじめ文書で戒告しなければならない」(3条1項)。

ii) 期限内に履行なし → 代執行令書で通知

「義務者が、前項の戒告を受けて、指定の期限までにその義務を履行しないときは、当該行政庁は、代執行令書をもつて、代執行をなすべき時期、代執行のために派遣する執行責任者の氏名及び代執行に要する費用の概算による見積額を義務者に通知する」(3条2項)。

iii) 代執行の実施 → 執行責任者の証票の携帯および呈示

「代執行のために現場に派遣される執行責任者は、その者が執行責任者たる本人であることを示すべき証票を携帯し、要求があるときは、何時でもこれを提示しなければならない」(4条)。

iv) 費用の納付命令 → 文書による納付命令

「代執行に要した費用の徴収については、実際に要した費用の額及びその納期日を定め、義務者に対し、文書をもつてその納付を命じなければならない」(5条)。

なお、義務者が納付しない場合に、「代執行に要した費用は、国税滞納処分の例により、これを徴収することができる」(6条1項)。「代執行に要した費用を徴収したときは、その徴収金は、事務費の所属にしたがい、国庫又は地方公共団体の経済の収入となる」(6条3項)。

【非常の場合・危険切迫の場合】

原則のⅰ)およびⅱ)の手続を省略することができる。

「非常の場合又は危険切迫の場合において、当該行為の急速な実施について緊急の必要があり、前2項(=3条1項、3条2項)に規定する手続きをとる暇がないときは、その手続を経ないで代執行をすることができる」(3条3項)。


② 直接強制

直接強制とは、義務者が義務を履行しない場合に、直接に、義務者の身体または財産に実力を加え、義務の履行があったのと同一の状態を実現する作用をいう。

最も即効的に義務を実現することができるが、人権侵害のおそれが強いので、その実例は少ない。直接強制に関する個別法としては、「出入国管理及び難民認定法」に基づく退去強制のための収容や強制送還などがある。


③ 強制徴収

強制徴収とは、私人が、国または地方公共団体に対して負う公法上の金銭給付義務を履行しない場合に、行政庁が強制手段によって、その義務が履行されたのと同様の結果を実現するためにする作用をいう。強制徴収は、直接強制の一種といえ、金銭債権の強制執行手続きに関して、特に簡単な方法を定めたものである。強制徴収に関する一般法はなく、個別の法律で認められた場合のみ行うことができる。国税の強制徴収に関しては、国税徴収法が定められている。国税徴収法は国税債権の徴収に関する手続きを定めたものであり、それ以外の金銭債権の徴収に適用されるものではないが、上記のように、「国税滞納処分の例による」というような定めをおく法律もある。なお、公法上の債権について、行政上の強制徴収の規定が定められているときは、民事上の強制執行手続を採用することはできない。


④ 執行罰(間接強制)

執行罰とは、他人が代わってすることができない義務(不作為義務または非代替的作為義務)を義務者が履行しないときに、その履行を強制するために課する過料をいう(現在は砂防法36条のみに存在)。行政庁が一定の期限を示し、一定期間内に履行しないと過料を課す旨を予告して、義務者に心理的圧迫を加えることで、間接的に義務の履行を強制するものである。間接強制ともよばれる。執行罰は、義務の履行を確保するための手段であるため、義務が履行されるまで複数回にわたって科すことができる。

「罰」の字が付くため、行政罰の一つであると勘違いしやすいが、義務を履行させることを目指して課される点に着目して正確に分類することが必要である。


(2) 即時強制

即時強制とは、目前急迫の障害を除く必要上あらかじめ義務を命じる余裕のない場合、またはその性質上義務を命じることによっては目的を達しがたい場合に、直接に国民の身体または財産に実力を加え、もって行政上必要な状態を実現する作用をいう。たとえば、消防法に基づく消火活動のための破壊消防や警察官職務執行法に基づく警察官による身柄の拘束などがある。

即時強制は、行政上課された義務の不履行を前提としない点で、行政上の強制執行とは異なる。なお、即時強制は義務の不履行を前提としないが、国民の身体や財産に対する重大な侵害行為であるので、これを行うために法律の根拠は必要になる。


行政罰

 行政罰とは、行政上の義務の懈怠(行政上の目的のための命令・禁止違反)に対して制裁として科される罰をいう。行政罰は過去の行為に対して制裁を科すものであり、将来にわたる行政上の目的を実現するためのものではない点が行政強制との違いである。

行政罰には、刑法に適用される「法律なければ刑罰なし」という罪刑法定主義の原則が適用されるため、法律の根拠がなければ行政罰を課すことができない。また、憲法により二重処罰も禁止されているため、反復して行政罰を課すこともできない。

行政罰には「行政刑罰」と「秩序罰」の2種類がある。

【特徴】

① 行政強制と行政罰は、その目的が異なるので、併用することができる。

② 行政強制の一つである執行罰は、義務が履行されるまで複数回にわたって科すことができるのに対し、行政罰は一つの違反につき一度だけしか科すことができない(二重処罰の禁止 憲法39条)。


(1) 行政刑罰

行政刑罰とは、行政法上の義務違反を犯罪として、これに対する制裁として刑罰(刑法上の刑名)を科すことをいう。具体的には、懲役、禁錮、罰金、拘留、および科料がある。比較的重大な義務違反が対象となる。

行政刑罰に対しては、刑法総則の規定が適用される。また、原則として刑事訴訟法の適用があり、検察官が起訴し、裁判所が審理をして刑罰を科す。

行政刑罰については、いわゆる「両罰規定」、つまり、違反行為者だけにとどまらず、その使用者や事業主にも刑罰を科す規定が置かれることがある。


(2) 秩序罰

秩序罰とは、行政上の秩序に障害を与える危険がある義務違反に対して科される罰をいい、過料が科される。届出義務を怠る行為のように、犯罪には至らない、違反の程度が比較的軽微な行為が対象となる。

過料は刑法上の罰ではないので、刑法総則および刑事訴訟法の適用はない。過料は、原則として、非訟事件手続法に従って地方裁判所により科される。ただし、地方公共団体の条例または規則に基づく場合は、地方自治法に従って、その長が行政処分として科する。


【『科料』と『過料』】
科料:便宜上、「とがりょう」と読むことがある。刑罰の一種である。
過料:便宜上、「あやまちりょう」と読むことがある。刑罰ではないので、金額的にも科料に比べて安価な場合が多い。


【行政刑罰と秩序罰との比較】


行政刑罰秩序罰
刑法総則の適用の
有無
適用される適用されない
科罰手続刑事訴訟法による(例外:交通反則通告制度、国税犯則通告処分)地方自治法等に別段の定めがある場合を除き、非訟事件手続法による
法律の根拠必要