• 行政法ー3.行政作用法
  • 5.行政手続法
  • 行政手続法
  • Sec.1

1行政手続法

堀川 寿和2021/12/06 11:28

行政手続法の意義

「行政手続」とは、行政の意思決定が行われるまでの「事前手続」のことである。

 たしかに、行政の意思決定が行われた後であっても、行政不服申立てや裁判によって、その違法性を争うことができる。しかし、決定がなされる前の段階で手続的なコントロールを及ぼすことによって、違法または不当な行政の意思決定が行われることを事前に回避することができれば、結果として、国民の権利利益は保護され、紛争を未然に防ぐことができる。

 そこで、行政活動の事前手続を規律する一般法として制定されているのが、行政手続法である。


総則

(1) 行政手続法の目的等

① 目的

 行政手続法は、その目的を、次のように定めている(行手法1条1項)。

 この法律は、処分、行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性(略)の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする。


② 行政手続法の対象となる手続

 行政手続法は、すべての行政活動を規律するのではなく、対象を以下の4つに絞り込んでいる。

(a) 処分(申請に対する処分・不利益処分)
(b) 行政指導
(c) 届出
(d) 命令等を定める行為


③ 一般法と特別法

 行政手続法は、処分、行政指導、届出、命令等の各行為の事前手続を規律する一般法である。したがって、これらの各行為の事前手続について、特別法を定めることもできる。そこで、個別の法律に行政手続法と異なる定めがある場合は、その定めが行政手続法に優先して適用される(行手法2条)。


(2) 定義

 行政手続法では、用語の定義がなされている。


① 法令

 法令とは、下記のものをいう(行手法2条1号)。

(a) 法律
(b) 法律に基づく命令(告示を含む。)
(c) 条例
(d) 地方公共団体の執行機関の規則(規程を含む。以下「規則」という。)


② 処分

 処分とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいう(行手法2条2号)。


③ 申請

 申請とは、法令に基づき、行政庁の許可、認可、免許その他の自己に対し何らかの利益を付与する処分(以下「許認可等」という。)を求める行為であって、当該行為に対して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう(行手法2条3号)。


Point 行政手続法の対象となる申請に対する処分とは、自己に何らかの利益を付与する処分を求める申請に対して下される行政庁の許可、認可、免許などの処分のことをいう。なお、申請に対して下される処分であれば、処分をするか否かについて行政庁の裁量が認められない場合も、申請に対する処分である。


④ 届出

 届出とは、行政庁に対し一定の事項の通知をする行為(申請に該当するものを除く。)であって、法令により直接に当該通知が義務付けられているもの(自己の期待する一定の法律上の効果を発生させるためには当該通知をすべきこととされているものを含む。)をいう(行手法2条7号)。


Point 申請も届出も、行政庁に対して一定事項を通知する行為である点では共通するが、申請については、行政庁は申請者からの申請行為に対して諾否の応答行為を行わなければならないが、届出については、行政庁は諾否の応答行為を行う必要がない点が異なる。

⑤ 不利益処分

 不利益処分とは、行政庁が、法令に基づき、特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、またはその権利を制限する処分をいう(行手法2条4号本文)。


Point 申請により求められた許認可等を拒否する処分その他申請に基づき当該申請をした者を名あて人としてされる処分は、不利益処分に含まれない(行手法2条4号ロ)。これは、申請に対する処分に該当するからである。


⑥ 行政指導

 行政指導とは、行政機関がその任務または所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為または不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう(行手法2条6号)。


Point 一定の作為または不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であっても、不特定の者を対象とする場合は、行政指導ではない


⑦ 命令等

 命令等とは、内閣または行政機関が定める下記のものをいう(行手法2条8号)。

(a) 法律に基づく命令(処分の要件を定める告示を含む。)または規則
(b) 審査基準(申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準をいう。)
(c) 処分基準(不利益処分をするかどうかまたはどのような不利益処分とするかについてその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準をいう。)
(d) 行政指導指針(同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときにこれらの行政指導に共通してその内容となるべき事項をいう。)


(3) 地方公共団体の行政活動と適用除外

① 適用除外となる地方公共団体の行政活動

 地方自治を尊重する趣旨から、地方公共団体における下記の行為には行政手続法の規定が適用されない(行手法3条3項)。

(a) 地方公共団体の機関がする処分(処分の根拠となる規定が条例・規則に置かれているものに限る。)
(b) 地方公共団体の機関がする行政指導
(c) 地方公共団体の機関に対する届出(届出の根拠となる規定が条例・規則に置かれているものに限る。)
(d) 地方公共団体の機関が命令等を定める行為


【地方公共団体の行為に対する行政手続法の適用の有無】


② 地方公共団体の措置

 地方公共団体は、行政手続法の規定を適用しないこととされた処分、行政指導および届出ならびに命令等を定める行為に関する手続について、行政手続法の規定の趣旨にのっとり、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図るため必要な措置を講ずるよう努めなければならない(行手法46条)。これを受けて、各地方公共団体は、行政手続条例を定めて対応している。


申請に対する処分に関する手続

 申請に対する処分の手続は、申請→審査→処分の決定という流れになる。


(1) 審査基準(行手法5条)

 行政庁は、審査基準を定めるものとする。これは、必ず定めるということである。申請に対する処分は、申請者が誰であるかにかかわらず、公平に行う必要があるからである。また、行政庁は、審査基準を定めるに当たっては、許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。

 審査基準を定めても、それが公開されていなければ、行政の判断過程が不透明となり、公平に処分が行われているかどうかわからない。そこで、行政庁は、行政上特別の支障があるときを除き、法令により申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならない。


Point1 審査基準設定および公開は、ともに法的義務である。したがって、審査基準を設定していない場合や、審査基準を公開していない場合は、違法となる。ただし、行政上特別の支障がある場合は、審査基準を公開していなくても違法とならない


Point2 ここでいう行政庁は、処分行政庁を意味する(以下においても同様)。したがって、処分の根拠となる規定が国の法律であっても、処分行政庁が都道府県知事であれば、原則として、都道府県知事が審査基準を設定することになる。


Point3 審査基準は、行政規則である(法規命令ではない)。したがって、審査基準に違反して行われた処分は、当然に違法となるわけではない。


(2) 標準処理期間(行手法6条)

 申請に対する処分は、申請者が誰であるかにかかわらず、迅速に行う必要がある。また、申請から処分までにかかるおおよその期間については、申請者にとっても関心事である。そこで、行政庁は、申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間を定めるよう努めなければならない。また、これを定めたときは、これらの当該申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により公にしておかなければならない。


Point1 標準処理期間の設定努力義務である。法的義務ではないので、審査基準のように、必ず設定しなければならないものではないので、設定していなくても違法とならない。処分によっては、申請から処分までの期間にばらつきがあるなど、設定が困難な場合もありうるからである。しかし、標準処理期間を設定した場合公開法的義務である。


Point2 標準処理期間とは、申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間をいう。申請が行政庁によって「受理されてから」ではない。審査開始義務は、原則として、申請が事務所に到達した時点から生じるからである。

Point3 申請に対する処分が標準処理期間内に行われない場合であっても、この不作為が直ちに違法となるわけではない。あくまで「標準的な」期間であり、特殊事情のある事例であれば、期間内に処分を行うことができない場合もありうるからである。


(3) 申請に対する審査、応答(行手法7条)

 申請が行政庁の事務所に到達したにもかかわらず、行政庁がその申請を受け取らなかったり、審査せずに放置するなどの取扱いが行われると、申請者も困ってしまう。そこで、行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならず、かつ、申請書の記載事項に不備がないこと、申請書に必要な書類が添付されていること、申請をすることができる期間内にされたものであることその他の法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請者に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求め、または当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない。


Point 申請の形式上の要件に適合しない申請について、行政庁は、当該申請の補正を求めるか、または、申請により求められた許認可等を拒否するか、いずれかを選択することができる


(4) 理由の提示(行手法8条)

 申請に対する処分が拒否された場合に、申請者としては、どのような理由で拒否されたのかがわからないと、行政庁によって公正な判断が行われたのかどうか、判断のしようがない。また、不服申立てをする場合も、拒否の理由がわからなければ、どの点について争ったらいいのかがわからない。そこで、行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない。ただし、法令に定められた許認可等の要件又は公にされた審査基準が数量的指標その他の客観的指標により明確に定められている場合であって、当該申請がこれらに適合しないことが申請書の記載または添付書類その他の申請の内容から明らかであるときは、申請者の求めがあったときにこれを示せば足りる。これは、行政庁の負担を軽減するためである。

 申請により求められた許認可等を拒否する処分を書面でするときは、その理由は、書面により示さなければならない(2項)。


Point1 理由の提示法的義務である。したがって、理由を提示しなかった場合は、違法となる。


Point2 理由の提示は、拒否処分と同時にしなければならず、その後に理由が明らかにされても、理由の不備という違法は治癒されない(最判S47.12.1)。


Point3 理由の提示が必要なのは、許認可等を拒否する処分をする場合であり、許認可等を認容する処分をする場合は、理由を提示する必要はない。


Point4 申請の全部を拒否する場合だけでなく、その一部を拒否する場合も、理由の提示は必要である。

(5) 情報の提供(行手法9条)

 申請に必要な情報や申請の処理状況等は、これから申請しようとする者や申請者にとって、強い関心事である。そこで、行政庁は、申請者の求めに応じ、当該申請に係る審査の進行状況および当該申請に対する処分の時期の見通しを示すよう努めなければならない。行政庁は、申請をしようとする者または申請者の求めに応じ、申請書の記載および添付書類に関する事項その他の申請に必要な情報の提供に努めなければならない。


Point1 情報の提供努力義務である。したがって、情報の提供を行わなかったとしても、違法とはならない。


Point2 情報の提供は、申請者等の求めに応じて行うものである。したがって、求めがない場合にまで行う必要はない。


Point3 申請の処理が標準処理期間を超える場合に、申請者の求めがあっても、行政庁は、その理由を申請者に通知する義務はない。


(6) 公聴会の開催等(行手法10条)

 申請に対する処分が、申請者以外の第三者の権利利益に対して影響を及ぼすことがある。そこで、行政庁は、申請に対する処分であって、申請者以外の者の利害を考慮すべきことが当該法令において許認可等の要件とされているものを行う場合には、必要に応じ、公聴会の開催その他の適当な方法により当該申請者以外の者の意見を聴く機会を設けるよう努めなければならない。


Point1 公聴会の開催努力義務である。


Point2 公聴会は、申請者以外の者の意見を聴く場である。


【申請に対する処分に関する手続】

手続の内容法的義務か努力義務か
審査基準設定法的義務
公開法的義務
標準処理期間設定努力義務
公開(設定した場合)法的義務
申請に対する審査、応答法的義務
理由の提示(拒否処分をする場合)法的義務
情報の提供努力義務
公聴会の開催等努力義務