- 行政法ー3.行政作用法
- 3.行政計画・行政指導・行政契約
- 行政計画・行政指導・行政契約
- Sec.1
1行政計画・行政指導・行政契約
■行政計画
(1) 行政計画とは
行政計画とは、行政機関の定立する計画(プログラム)であって、一定の目標を設定するとともに、その目標に到達するための諸々の手段・方策の間の総合的調整を図ることを目的とするものをいう。
【行政計画の機能】
① 総合的科学的な行政目的を設定する。
② 行政の整合性を確保する。
③ 国民誘導的機能
(2) 拘束的計画と非拘束的計画
行政計画には、私人の権利・義務に直接影響を与える(私人の行為を拘束する)「拘束的計画」と、そうでない「非拘束的計画」がある。たとえば、拘束的計画としては、都市計画や土地区画整理事業計画(計画が策定されると、計画対象区域内で土地利用などが制限される)があり、非拘束的計画としては、男女共同参画基本計画などがある。
拘束的計画は、私人の権利・義務に影響を与えるため、侵害留保の原則によると、その策定については法律の根拠が必要であるとされる。他方で、非拘束的計画の策定に関しては、法律の根拠は必要ない。
(3) 行政計画と権利救済
① 取消訴訟
行政計画は、原則として、取消訴訟の対象とはならない。しかし、行政計画も、その内容によって私人の権利・義務に直接影響を与える法効果を持つため、行政計画に対する取消訴訟を認めた判例もある。
たとえば、土地区画整理事業の事業計画の決定に関して、従来の判例では、その計画決定段階では取消訴訟の対象とすべき処分性が認められないと判断していた(最判S41.2.23)。これは、いわゆる「青写真判決」と呼ばれるものであり、土地区画整理事業の事業計画は、その事業の基本的事項を一般的、抽象的に決定するものであって、いわばその事業の青写真としての性質を有するに過ぎず、私人の権利変動を具体的に確定するものではないので、一定の建築制限等の効果があったとしても、抗告訴訟(取消訴訟)の対象となる行政処分には当たらないとした。
これに対して、近年になって、最高裁判所は、土地区画整理事業の事業計画の決定は、抗告訴訟(取消訴訟)の対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(行政事件訴訟法3条2項)に当たると判断して、従来の判例の考え方を変更した。すなわち、事業計画が決定されると、特段の事情がない限り事業計画通りに事業がすすめられ、最終的に換地処分が行われるところ、換地処分の公告がある日まで、宅地所有者等には建築制限等の一定の制限が課され、その違反に対しては原状回復命令が命じられたり、刑罰が科されるなどの法的強制力を伴っていることから、事業計画の決定に伴う法的効果は一般的、抽象的であるということはできず、宅地所有者等の法的地位に直接的な影響が生ずるものであり、また、換地処分後に換地処分の取消訴訟を提起することは可能であるが、事情判決がされる可能性も相当あるため、土地所有者等の権利救済の実効性を図るためには、事業計画決定段階での抗告訴訟の提起を認めるべきとした。
② 国家賠償
行政計画の変更や中止によって、私人に不利益が生じた場合には、損害賠償を求めることができる。判例によると、行政計画の変更や中止が適法であったとしても、私人の信頼保護を理由に損害賠償を認めているものがある。
■行政指導
(1) 行政指導とは
行政指導とは、行政主体が行政目的を実現するため、相手方の一定の行為(協力)を期待して行う指導・助言・勧告等の働きかけをいう。つまり、行政指導は法的拘束力を持たない事実行為である。そのため、侵害留保の原則によると、行政指導を行うのに法律の根拠は不要である。行政指導の内容は私人の任意の協力により実現されるものなので、行政指導に従わない者に対して不利益を課して事実上強制したり、罰則を科したりすることはできない。
行政指導は、非権力的であるため、権力的な行政手段を回避したいという行政の意図に沿って、わが国では広く行われている。当事者の納得を得つつ柔軟な対応を可能にするという積極的な意義も認められる。
判例 | 武蔵野市マンション給水拒否事件(最判H1.11.8) |
武蔵野市はマンション建設の急増に対応するため、宅地開発指導要綱を定めた。これは、中高層建築物について住民の同意を得ること、教育施設負担金を市に寄付することを事業主に求め、従わない場合には上下水道などについての協力を行わないというものである。A建設は、市内にマンションを建設しようとして住民の同意を得る努力をしたが得られなかったので、市長の承認を得ずに東京都に建築確認申請をして確認を得た。市はAからの給水契約の申し込みを拒否したが、Aは建設を強行した。Aは何度も給水契約の申し込みをしたが市は書類を受理しなかった。こうした市の対応が水道法第15条第1項に違反するとして、市長が起訴された。 |
《判旨》 | 原判決の認定によると、被告人らが本件マンションを建設中のA建設及びその購入者から提出された給水契約の申込書を受領することを拒絶した時期には、既に、A建設は指導要綱に基づく行政指導には従わない意思を明確に表明し、マンションの購入者も、入居に当たり給水を現実に必要としていたというのである。
そうすると、原判決が、このような時期に至ったときは、水道法上供給契約の締結を義務付けられている水道事業者としては、たとえ右の指定要綱を事業主に順守させるため行政指導を継続する必要があったとしても、これを理由として事業主らと給水契約の締結を留保することは許されないというべきであるから、これを留保した被告人らの行為は、給水契約の締結を拒んだ行為にあたると判断したのは、是認することができる。 原判決の認定によると、被告人らは、右の指導要綱を順守させるための圧力手段として、水道事業者が有している給水の権限を用い、指導要綱に従わないA建設らとの給水契約の締結を拒んだものであり、その給水契約を締結して給水することが公序良俗違反を助長することとなるような事情もなかったのである。 そうすると、原判決が、このような場合には、水道事業者としては、たとえ指導要綱に従わない事業主からの給水契約の申し込みであっても、その締結を拒むことは許されないというべきであるから、被告人らには本件給水契約の締結を拒む正当の理由がなかったと判断した点も、是認することができる。 |
(2) 行政指導と権利救済
① 取消し
違法な行政指導であっても、行政指導は法的拘束力を有しないことから、処分性が認められず、原則として、取消訴訟によって救済を求めることはできない。
ただし、行政指導に従わない場合の不利益の度合い等の諸事情を勘案して、行政指導を抗告訴訟の対象となり得ることを認めた判例もある(最判平17.7.15)。すなわち、医療法に基づく行政指導である病院開設中止の勧告は、これに従わない場合に相当程度の確実さをもって保険医療機関の指定を受けることができなくなるという結果をもたらし、この指定を受けることができない場合には、事実上病院の開設自体を断念せざるを得なくなるのであり、これらを併せて考えると、この勧告は「行政庁の処分その他公権力の行使」にはあたると解することができるとする。
② 国家賠償
国家賠償法1条1項の「公権力の行使」は、行政行為などの権力的作用だけでなく、行政指導などの非権力的作用を含んでおり、違法な行政指導により損害を受けた者は、損害賠償を求めることができる。また、行政指導自体は違法でなくても、例えば行政指導に従わないことのみを理由に、建築確認処分を保留するような場合は、この確認処分の保留の違法を理由に損害賠償を請求することができる。
判例 | 品川建築確認留保事件(最判S60.7.16) |
Xは、マンションを建築するために東京都の建築主事Aに建築確認申請を行ったが、Aは周辺住民がマンションの建築に反対であることを考慮し、Xに対し周辺住民との話し合いによる解決を指導し、当時既に可能であった建築確認の審査等を留保した。しかし、話し合いは長期に亘り、Xはその後行政指導に従わない意思を明らかにし、Aが建築確認を違法に遅滞させたことから生じた損害賠償を請求するとして提訴した。 |
《判旨》 | 確認処分の留保は、建築主の任意の協力・服従の下に行政指導が行われていることに基づく事実上の措置にとどまるものであるから、建築主において自己の申請に対する確認処分を留保されたままでの行政指導には応じられないとの意思を明確に表明している場合には、かかる建築主の明示の意思に反してその受忍を強いることは許されない筋合いのものであるといわなければならず、建築主が右のような行政指導に不協力・不服従の意思を表明している場合には、当該建築主が受ける不利益と右行政指導の目的とする公益上の必要とを比較衡量して、右行政指導に対する建築主の不協力が社会通念上正義の観念に反するものといえるような特段の事情が存在しない限り、行政指導が行われているとの理由だけで確認処分を留保することは、違法であると解するのが相当である。
したがって、いったん行政指導に応じて建築主と附近住民との間に話し合いによる紛争解決をめざして協議が始められた場合でも、右協力の進行状況および四囲の客観的状況により、建築主において建築主事に対し、確認処分を留保されたままでの行政指導にはもはや協力できないとの意思を真摯かつ明確に表明し、当該確認申請に対し直ちに応答すべきことを求めているものと認められるときには、他に前記特段の事情が存在するものと認められない限り、当該行政指導を理由に建築主に対し確認処分の留保の措置を受忍せしめることの許されないことは前述のとおりであるから、それ以後の右行政指導を理由とする確認処分の留保は、違法となるものといわなければならない。 |
■行政契約
行政契約とは、国や地方公共団体等の行政主体が、その活動の過程において一方または双方の当事者として締結する契約をいう。例:公共施設の利用に関する契約、私有地を道路にするための契約等
【行政契約の特殊な特徴】
法律の根拠 | 原則、法律の根拠は不要(契約には意思の合致が必要なので、不当に国民の利益を害さないから。)
※ 行政主体同士で事務を委託する場合は、法律に定める権限配分に変更を加えるものであるから、法律の根拠が必要となる。 |
法的規制 | 1. 公共的サービスの提供等、契約自体が義務づけられる場合がある。
例:水道法15条 「水道事業者は、事業計画に定める給水区域内の需要者から給水契約の申込みを受けたときは、正当の理由がなければ、これを拒んではならない。」 2. 行政庁が恣意的に契約相手を選択することができず、原則として、一般競争による入札または競り売りの手続をとる(会計法)。 |