• 民法ー7.親族
  • 4.親権等
  • 親権等
  • Sec.1

1親権等

堀川 寿和2021/12/03 15:34

 親権とは、未成年の子を保育・監護・教育する、親の権利・義務の総称である。親権の内容として、子の身上監護や財産管理などが挙げられ、夫婦が共同して親権を行うことが原則とされている(818条)。

総則

(1) 親権の意義

 親権とは、父母の養育者としての地位・職分から流出する権利義務をいう。未成年者は、社会的に未成熟な者として、その身上の養育監護および財産の保護をする者が必要になる。その役割を担うのは、第一に親権者、すなわち父母・養親(818条)である。ただし、親権者が欠けた場合には、未成年後見人がその任務にあたることになる(838条1号)。


(2) 親権に服する子

 親権に服するのは、「成年に達しない子」すなわち未成年者に限られる(818条1項)。未成年者であれば、実子、養子(同条2項)、非嫡出子を問わない。


(3) 親権者

 親権者となる者は、原則としてその未成年者の父母であり(818条1項)、その未成年者が養子である場合には、養父母が親権者となる(同条2項)。ただし、父母あるいは養父母の一方が死亡等により親権を行うことができないときは、他の一方が親権を行う(同条3項)。

 なお、父母あるいは養父母の双方が死亡した場合には、後見が開始する(838条1号、先例S23.11.12-3585)。


(4) 親権共同行使の原則

① 原則

 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同して行う(818条3項)。したがって、父母の一方が単独で子の財産に関してなした行為は無効となる(最判S42.9.29)。

 ただし、父母の一方が、共同名義で子に代わって法律行為をなし、または子がこれをすることに同意をしたときには、その行為は、他の一方の意思に反したときでも、相手方が悪意でない限りその効力を妨げられない(825条)。これは、善意の相手方を保護し、取引の安全を図ったものである。

 また、父母の一方が単独名義で代理行為をすることを他方が同意している場合には、単独名義でした代理行為も有効となる(最判S32.7.5)。

② 単独行使の例外

 父母の一方が、法律上の障害(後見開始の審判(7条)あるいは親権喪失宣告(834条)を受けるなど)、あるいは事実上の障害(行方不明など)により親権を行うことができないときは、他の一方が行う(818条3項但書)。


(5) 離婚および父が認知した場合の親権者

① 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で父母の一方を親権者と定める(819条1項)。この場合、「親権者は、子が小学校に入学するまでは母、その後は父とする」等の指定をすることはできない。

なお、何らかの事情で親権者の指定を欠く離婚届が受理された場合、離婚は有効である(765条2項)が、この場合は、子は父母の共同親権に服さなければならないため、早急に単独親権者の指定を追完し、または協議・審判で親権者を定めその届出をしなければならない(先例S24.3.7-499)。

裁判上の離婚の場合には、裁判所が父母の一方を親権者と定めることになる(819条2項)。

② 子の出生前に、父母が離婚した場合には、その後に生まれた子については、母が親権者となる(819条3項本文)。ただし、子の出生後に、父母の協議で父を親権者と定めた場合には、父が親権者となることができる(同条3項但書)。

③ 嫡出でない子の親権者は母であるが、父が認知した後に父母の協議で父を親権者と定めた場合には、父が親権者となることができる(819条4項)。

④ 父母の協議が調わない場合、または協議することができない場合は、家庭裁判所が、父または母の請求によって協議に代わる審判をする(819条5項)。

また、家庭裁判所は、子の利益のために必要があると認めるときは、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる(同条6項)。


親権の効力

(1) 子の身上に関する権利義務

親権を行う者は、子の監護および教育をする権利を有し、義務を負う(820条)。この監護教育権の具体的な内容として、民法は、居所指定権(821条)、懲戒権(822条)、職業許可権(823条1項)を定めている。


(2) 子の財産に関する権利義務

① 財産管理権

親権者は、子の財産を管理し、また、その財産に関する法律行為について、その子を代表する(824条本文)。すなわち、親権者は、原則として子のすべての財産について管理権を有し、自己のためにするのと同一の注意をもって(827条)、その子の財産を保存・利用・改良し、また処分することができる。

ただし、親権者が目的を定めて処分を許した財産(5条)、営業の許可を受けた子が管理する営業財産(6条)については、親権者の管理には属しない。また、無償で子に財産を与えた第三者が、親権を行う父または母にこれを管理させない意思を表示したときも、親権者である父または母の管理には属しないことになる(830条1項)。


② 代理権

親権者の子の財産に対する行為についての代理権は、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合(824条但書)、あるいは利益相反行為となる場合(826条)を除いて、原則として制限がない。


③ 親権者の収益権

親権者は、子の財産から収益があれば、これを監護教育・財産管理の費用に充てることができる(828条但書)。


④ 管理権の終了

子が成年に達すれば親権は終了し、管理権も消滅する。この場合、親権者は遅滞なく管理の計算をしなければならない(828条本文)。


⑤ 子に代わる親権の行使

親権を行う者は、その親権に服する子に代わって親権を行う(833条)。


(3) 利益相反行為

① 意義

利益相反行為とは、単に親権者と未成年の子とが各一方当事者となりその間でなされる法律行為に限らず、親権者のために利益となり未成年の子のために不利益となる法律行為をいう(大判T10.8.10)。

親権を行う父または母とその子の間で利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない(826条1項)。また、数人の子に対して親権を行う場合において、その1人と他の子との利益が相反する行為についても、その一方のために特別代理人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない(同条2項)。これらの場合には、親権者に親権の公正な行使が期待できないことから、親権者の代理権および同意権を制限し、家庭裁判所の選任する特別代理人によってこれらの権利を行使させることにより、未成年者の子の利益を保護しようとするものである。


② 利益相反行為となるか否かの判断基準

具体的にどのような行為が利益相反行為に該当するかの判断基準をめぐっては、形式的判断説と実質的判断説の対立がある。この点について判例は、利益相反行為に該当するかどうかは、親権者が未成年の子を代理してなした行為自体を外形的・客観的に判断すべきであって、親権者の動機・意図をもって判断すべきでないとして、形式的判断説に立っている(最判S37.102、同S42.4.18)。


③ 判例において利益相反行為にあたるとされたもの

(a) 子の財産を親権者に譲渡する行為(大判S10.9.20)

(b) 親権を行う者の債務につき、子を連帯債務者とし(最判S45.11.24)、または、保証人とすること(大判S11.8.7)。また、養育費に充てるためであっても、親権者自身が金銭を借り受け、その借金債務について子の財産に抵当権を設定し(最判S37.10.2)、または、子の財産をもって代物弁済契約を締結すること(最判S35.2.25)。

(c) 他人の債務について子と共に連帯保証人になり、それと共に子との共有不動産の全部について物上保証をすること(最判S43.10.8)。

(d) 親権者が共同相続人である数人の子を代理して遺産分割の協議をすること(826条2項、最判S48.424)。

(e) 共同相続人である親権者がその親権に服する未成年の子に代わって相続の放棄をすること(最判S53.2.24)。なお、先例S25.4.27第1021号においては、利益相反行為にあたらないとされている。


④ 判例・先例等において利益相反行為にあたらないとされたもの

(a) 親権を行う者が子に財産を無償で譲渡すること(大判S14.3.18)。

(b) 未成年者が自己を債務者として第三者から金銭を借り入れ、その際親権者が連帯保証人となること(最判S42.4.18)。

(c) 未成年である子を債務者として金銭を借り入れ、その担保のために子所有の不動産に抵当権を設定すること(大判S9.12.21)

(d) 親権者である母が未成年の子の継父である夫の債務の担保のため、未成年の子の法定代理人として、未成年の子所有の不動産に抵当権を設定すること(最判S35.7.15)。この場合に、親権者が自己のために消費する意図を有していたとしても結論は異ならない。

(e) 会社の代表取締役である親権者が、その会社の債務を担保するため、未成年の子所有の不動産に抵当権を設定すること(先例S36.12.7-1042)。

(f) 第三者の債務のために、親権者と未成年の子が共に物上保証人となること(先例S37.10.9-2819)。

(g) 共同相続人である親権者が自ら相続の放棄をした後または同時に未成年者全員を代理して相続の放棄をすること(最判S53.2.24参照)。


⑤ 親権者の一方とのみ利益相反関係となる場合の代理方法

未成年である子と親権者の一方とのみ利益が相反する場合には、利益の相反する親権者については特別代理人の選任を請求し(826条1項)、その特別代理人と他方の親権者が共同して代理をする(最判S35.2.25)。


⑥ 数人の子の間の利益相反の場合の代理方法

親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その1人と他の子との利益が相反する行為については、その一方のために、特別代理人を選任することを裁判所に請求しなければならない(826条2項)。


⑦ 利益相反行為の効力

利益が相反する行為について親権者が代理してなした行為は、無権代理行為となり(最判S46.4.20)、子が成年に達した後はこれを追認することができる(最判S35.10.11)。

特別代理人の同意を得ることなく、親権者の同意に基づいて子が自ら行った利益相反行為は、適法な同意がなかったものとして取り消し得べき法律行為となる(大判S9.5.2)。


⑧ 親権者とその子との利益相反行為と親権者の法定代理権濫用




親権の喪失

(1) 親権および管理権の喪失

父母の行状が、子の福祉および子の財産の保全を図る目的からみて親権者として相当でない場合、あるいは管理が失当であったことにより子の財産を危うくした場合には、その意思に反してでも、親権あるいは財産管理権を喪失させる必要がある。そこで、家庭裁判所は、子の親族または検察官の請求によってその親権あるいは財産管理権を剥奪することができるものとした(834条、835条)。

ただし、その後、親権あるいは管理権の喪失の事由が止んだときには、家庭裁判所は、本人またはその親族の請求によって宣告を取り消すことができる(836条)。


(2) 親権および管理権の辞任

親権は、義務的性格を内容とする権能であるから、みだりに辞任することは許されない。しかし、やむを得ない事由があるときは家庭裁判所の許可を得て、親権または管理権を辞することができる(837条1項)。家庭裁判所の許可を要するものとしたのは、子の福祉を考えないで辞任したり、他からの不当な圧力による不本意な辞任がされることを防ぐためである。

ただし、その後、その事由が止んだときは、父または母は、家庭裁判所の許可を得て、親権または管理権を回復することができる(同条2項)。