• 民法ー6.担保物権
  • 8.留置権
  • 留置権
  • Sec.1

1留置権

堀川 寿和2021/12/03 15:03

留置権

(1) 意義

 留置権とは、他人の物を占有している者が、その物に関して発生した債権を有する場合に、弁済を受けるまでその物を手元に留めておく(留置する)ことができる担保物権をいう(295条)。

 例えば、時計の修理業者は、時計を修理した後、修理代を支払ってもらうまではその時計を手元に置いておくことができ、支払いを受けるまでは時計の引渡しを拒むことができる。


(2) 成立要件

① 他人の物を占有していること(295条1項本文)

② 債権がその物に関して発生したものであること(295条1項本文)

当たるとされた事例(留置権の成立を認める)
・ 賃借中の家屋に、賃借人が支出した必要費・有益費などの返還請求権(大判昭14.4.28、大判昭10.5.13)
・ 不動産の買主が売買代金を支払わずにその不動産の所有権を第三者に譲渡した場合の代金請求権(最判昭47.11.16)
・ 建物買取請求権の行使によって生じた建物代金債権(最判昭33.6.6) ← 判例は建物だけでなく敷地についても留置権の成立を認めている(大判昭18.2.18)。
・ 建物の売買契約が取り消された場合の、不当利得による売買代金の償還請求権
・ 偶然に傘を取り違えて帰った場合の返還請求権
当たらないとされた事例(留置権の成立を認めない)
・ 借家人の敷金返還請求権(最判S49.9.2) ← 判例は敷金返還請求権の発生時期を明渡時とする。
・ 譲渡担保権者が目的物を第三者に売却した場合の、設定者の有する債務不履行による損害賠償請求権(最判昭34.9.3)
・ 不動産が二重譲渡され、第二の買主が先に所有権移転登記を経由したため、第一の買主が所有権を取得できなくなったことにより、売主に対して取得した履行不能による損害賠償請求権(最判昭43.11.21)
・ 他人物売買の買主が、その物の真の所有者から返還請求を受けた場合の、売主の売買契約不履行に基づく損害賠償請求権(最判昭51.6.17)

③ 債権が弁済期にあること(295条1項ただし書)

④ 占有が不法行為によって始まったものでないこと(295条2項)

 例えば、泥棒が盗んだ物について必要費を支払った場合に、留置権が認められることはないのが当然である(必要費の返還請求自体はできる)。

 判例は、本項を拡張して、賃借人が賃貸借終了後に目的物に必要費・有益費を支払った場合、占有のはじめに不法行為がなくても、その占有が不法になった後においては、その占有物について留置権は成立しないとした(最判昭41.3.3、最判昭46.7.16)。


(3) 効果

 債権の弁済があるまで目的物を留置することができる(留置的効力)。ただし、他人の物であることには変わりないので、善良な管理者の注意をもって留置物を保管する義務がある(298条、善管注意義務)。

 留置物から果実を生じた場合は、これを債権の回収にあてることができる(297条)。事実上の優先弁済を受けることができる効力である。

 留置物に必要費・有益費を支出したときは、所有者に対してその償還を請求することができる(299条)。

 留置権を行使しても、被担保債権自体を行使していることにはならないので、債権の消滅時効を更新することはできない(300条)。


(4) 留置権の消滅

① 留置権者に保管義務等の違反があり、債務者が留置権の消滅請求をしたとき(298条3項)。

② 債務者が相当の担保を提供して留置権の消滅請求をしたとき(301条)。

③ 留置権者が留置物の占有を失ったとき(302条)。


(5) 留置権の存在を第三者に対抗するための要件

 目的物を占有し続けることである。目的物の占有は、留置権の成立要件であり、存続要件であるとともに、対抗要件ともなる。不動産の場合でも登記をする必要はない。