• 民法ー3.物権(担保物権を除く)
  • 7.占有権
  • 占有権
  • Sec.1

1占有権

堀川 寿和2021/12/02 13:17

 占有とは、物を事実上支配することをいう。物を占有する者は、ふつう、所有権や賃借権など、その占有を正当づける権利(本権)を持っているはずだが、占有権とは、そのような権利の有無とは無関係に、物を事実上支配する状態そのものを法律上保護するために、占有者に認められる権利である。

 たとえば家主からアパートを借りて使っている借家人は占有権を有しているということになる。


所有権: 法令の制限内においてその所有物を自由に使用収益および処分できる権利。

占有権: 自己のためにする意思で物を所持している状態を法律上保護する権利。


占有権の取得および承継

(1) 占有権の取得

 占有権は、自己のためにする意思をもって物を所持することによって取得する(180条)。なお、所持とは、物を事実上支配していることをいう。

 占有権は、代理人(占有代理人)によって取得することができる(181条)。これを代理占有という。これに対して、占有者本人がみずから物を所持する占有を自己占有という。


Point1 土地の所有者が自己所有地を他人に賃貸して土地を引渡しても、所有者は土地の占有権を失わない。土地所有者は賃借人(占有代理人)の所持を通じて占有を取得している(代理占有)。


Point2 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定される(186条1項)。


(2) 占有権の承継

① 占有権の譲渡

 占有権は譲渡によっても取得される。

 占有権の譲渡は、占有物の引渡しによって行われる。引渡しは、「現実の引渡し」のほかに、「簡易の引渡し」、「占有改定」、「指図による占有移転」の方法も認められている。


② 占有権の相続

 占有権は相続によっても取得される。したがって、たとえば土地賃借人が死亡した場合に、その相続人は、賃借地を現実に支配していなくても、賃借人の死亡により当然に賃借地の占有権を取得する。


占有権の効力

(1) 占有訴権

 物の占有者には、占有訴権が認められる(197条)。占有訴権には、占有保持の訴え、占有保全の訴え、占有回収の訴えの3つがある。


① 占有保持の訴え

占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止および損害の賠償を請求することができる(198条)。

占有保持の訴えは、妨害の存する間またはその消滅した後1年以内に提起しなければならない(201条1項本文)。


② 占有保全の訴え

占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防または損害賠償の担保を請求することができる(199条)。

占有保全の訴えは、妨害の危険の存する間は、提起することができる(201条2項前段)。


③ 占有回収の訴え

占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還および損害の賠償を請求することができる(200条1項)。

 ただし、占有を侵奪した者の特定承継人に対しては、その承継人が侵奪の事実を知っていたときを除き、占有回収の訴えを提起することができない(200条2項)。

占有回収の訴えは、占有を奪われた時から1年以内に提起しなければならない(201条3項)。


Point 占有回収の訴えを提起することができるのは、占有者がその占有を「奪われたとき」である。判例によると、「奪われたとき」とは、占有者の意思に基づくことなく占有を奪われた場合をいい、だまされて任意に物を引き渡した場合これに含まれない(大判大11.11.27)。


(2) 占有物について行使する権利の適法の推定

占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定される(188条)。

Point 推定されるのであり、みなされるわけではない。


占有権の消滅

(1) 占有権の消滅事由

 占有権は、占有者が占有の意思を放棄し、または占有物の所持を失うことによって消滅する(203条本文)。ただし、占有者が占有回収の訴えを提起したときは、消滅しない(203条ただし書)。


(2) 代理占有の場合の占有権の消滅事由

 代理人によって占有をする場合には、占有権は、次の①~③の事由によって消滅する(204条1項)。

① 本人が代理人に占有をさせる意思を放棄したこと。

② 代理人が本人に対して以後自己または第三者のために占有物を所持する意思を表示したこと。

③ 代理人が占有物の所持を失ったこと。

なお、占有権は、代理権の消滅のみによっては、消滅しない(204条2項)。