• 民法ー3.物権(担保物権を除く)
  • 3.動産物権変動と引渡し
  • 動産物権変動と引渡し
  • Sec.1

1動産物権変動と引渡し

堀川 寿和2021/12/02 11:35

動産物権変動の対抗要件(引渡し)

(1) 動産物権変動の対抗要件としての引渡し

 動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない(178条)。


事例 BはAからA所有の時計を購入したが、BがAからその時計の引渡しを受ける前に、Aがその時計をCに売却してしまった。

 この場合、BまたはCいずれか先にAから時計の引渡しを受けたほうが、売買による所有権の取得を対抗することができる。




(2) 引渡しの種類

 対抗要件として認められる引き渡しには、現実の引渡し、簡易の引渡し、占有改定、指図による占有移転の4つがある。


① 現実の引渡し

 現実の引き渡しとは、占有物を引渡すことである(182条1項)。


事例 BはAからA所有の時計を購入し、Aからその時計の引渡しを受けた。




② 簡易の引渡し

  簡易の引渡しとは、譲受人(またはその代理人)が現に占有物を所持する場合に、当事者の意思表示のみによって引渡すことである(182条2項)。


事例 BはAからA所有の時計を借りて使用していたが、その状態のまま、その時計をAから購入した。このような場合も、BはAからの引渡しを受けたことになる。



③ 占有改定

 占有改定とは、譲渡人が自己の占有物を以後譲受人のために占有する意思を表示することによって、その譲受人への引渡しがあったことにすることである(183条)。


事例 BはAからA所有の時計を購入したが、そのままその時計をBがAに貸して、Aが引き続き使用している。このような場合も、BはAから引渡しを受けたことになる。



④ 指図による占有移転

 指図による占有移転とは、譲渡人が占有代理人によって占有する物を譲渡する場合において、譲渡人がその占有代理人に対して以後譲受人のためにその物を占有することを命じ、その譲受人がこれを承諾したときに、その譲受人への引渡しがあったことにすることである(184条)。


事例 BはAからA所有の時計を購入したが、その時計をAはCに預けていてCが保管していた。この場合に、AがCに対して以後Bのためにその物を占有することを命じ、Bがこれを承諾したとき、BはAから引渡しを受けたことになる。




動産の即時取得

 売買によって買主に所有権が移転するのは、売主に所有権があるからである。しかし、動産が貸借されている場合のように、動産の占有者に必ずしも所有権があるとは限らない。それなら、取引のつど売主に所有権があることを確認するればよいが、動産の取引は頻繁に行われるため、これは現実的でない。そこで、動産の取引においては、占有の事実を信頼して無権利者から動産を取得した者を保護することで、取引の安全を守ることにした。これが即時取得である。

 一方、不動産の取引では、真の権利者の保護の方が優先されるため、虚偽の登記を信頼して取引を行った者は保護されない。


Point 動産の占有には公信力がある。「公信力」とは、権利の外観を信頼して取引するもののために、実際には外観に対応する権利が存在しない場合であっても、権利が存在する場合と同じ法律効果を認める効力をいう。それに対して、不動産の登記には公信力がない


(1) 即時取得

 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する(192条)。


事例 CはBから時計を購入し、引き渡しを受けたが、実はこの時計はBがAから借りていたA所有の時計であった。

 この場合に、Cがこの時計はB所有の時計だと信じ、そう信じたことについて過失がなければ(Bが無権利者であることにつき善意無過失であれば)、Cはこの時計の所有権を取得することができる。このような効果が認められるのは、AがBを信頼して時計を貸してしまったという点に、Aにも落ち度があるからである。



(2) 即時取得の要件

① 目的物が動産であること

 即時取得は「動産の取引」の安全を守るための制度であるので、目的物が動産である場合に限り、即時取得が認められる。


Point 目的物が不動産土地・建物)である場合は、即時取得は認められない


② 取引による取得であること

 即時取得は「取引の安全」を守るための制度であるので、売買契約などの「取引」によって動産を取得する場合に限り、即時取得が認められる。


Point1 他人の物を自分の物と誤信して持ち去ったとしても、「取引」による取得ではないので、即時取得は認められない


Point2 山林に生育する立木を自己の所有するものであると誤信して伐採し、動産である木材を取得したとしても、「取引」による取得ではないので、即時取得は認められない


Point3 取引行為は「有効なもの」でなければならない。たとえば、売買契約が無効であったり、取り消されたりして、所有権がある者からであっても所有権を取得できないような場合は、即時取得は認められない


③ 取引の相手方が無権利者であること

 賃借人などのように、処分権限のない者からの取得の場合に、即時取得が認められる。


④ 占有を取得すること

 即時取得が成立するには、動産の占有を始める必要がある。占有は引渡しによって取得することができるが、判例によると、「現実の引渡し」、「簡易の引渡し」、「指図による占有移転」の場合に即時取得が認められ、「占有改定」の場合には即時取得は認められない(最判昭35.2.11)。


判例 占有取得の方法が外観上の占有状態に変更を来たさない占有改定にとどまるときは、即時取得の適用はない(最判昭35.2.11)。


⑤ 占有の取得が平穏・公然・善意・無過失であること

民法は、占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する(186条1項)。したがって、即時取得を主張する者は、平穏・公然・善意について立証する必要はない。

 また、判例によると、占有者の無過失も推定されるので(最判昭41.6.9)、即時取得を主張する者は、無過失についても立証する必要はない。

判例 占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定される以上(188条)、譲受人たる占有取得者がそのように信ずることについては過失のないものと推定され、占有取得者自身において過失のないことを立証することを要しない(最判昭41.6.9)。


(3) 即時取得の効果

 取得者は即時に目的物に行使する権利を取得する(192条)。この権利の取得は、前の所有者の所有権を承継して取得するのではなく、新たな所有権の取得となる。このような権利取得を、原始取得という。


(4) 盗品・遺失物に関する特則

① 原則

 即時取得が成立する場合でも、占有物が盗品または遺失物であるときは、被害者または遺失者は、盗難または遺失の時から2年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる(193条)。

所有者AがBに貸した動産を善意無過失で購入したCに即時取得が認められるのは、所有者AにもBを信頼して動産を貸してしまった(所有者自らの意思で占有を失った)という落ち度があるからであった。しかし、所有者Aが動産を盗まれた場合や、紛失してしまった場合(所有者自らの意思によらずに占有を失ってしまった場合)は、Aに落ち度はない。そこで、盗品・遺失物の所有者を保護するために、このような特則を置いている。


Point1 占有者に対してその物の回復を請求することができるのは、「盗難または遺失の時から」2年間である。


Point2 この場合でも被害者または遺失者によって盗難または遺失の時から2年以内に回復の請求がされなければ、即時取得により所有権を取得することができる。


② 例外(代価の弁償が必要)

 盗品・遺失物であっても、盗品・遺失物だと知らずに商人などから購入して取得されている場合は、購入時に支払った代金相当の金銭を穴埋めしたうえで返還を請求させないと不公平である。そこで、占有者が、盗品または遺失物を、競売もしくは公の市場において、またはその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者または遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができないとする(194条)。


Point 占有者に対してその支払った代価を弁償する必要があるのは、「競売」(オークションなど)もしくは「公の市場」(一般の店舗など)において、または「その物と同種の物を販売する商人」から、買い受けたときである。したがって、占有者が盗品・遺失物を、単なる面識のない個人などの商人ではない者から買受けている場合は、その支払った代価を弁償する必要はない