- 民法ー3.物権(担保物権を除く)
- 1.物権とは
- 物権とは
- Sec.1
1物権とは
財産権には、物に対する権利である「物権」と、人に対する権利である「債権」がある。
ここでは、そのうち「物権」を学習する。
■物権の性質
物権とは、特定の物を直接支配する排他的な権利である。
物権は、次のような性質を有する。
(1) 直接支配性
物権を行使するのに、他人の力を借りる必要はなく、物を直接支配することができる。所有権は物権の1つであり、具体的には、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益および処分をする権利であるが(206条)、たとえば、自分が購入して所有する土地であれば、自分で使用することも(使用)、他人に貸して賃料を得ることも(収益)、売ってしまうことも(処分)、自分の意思だけで自由にでき、その際に、他人の力を借りる必要はない。このような性質を、直接支配性という。
(2) 絶対性
物権は、誰に対しても主張することができる。たとえば、自分が購入して所有する土地であれば、誰に対しても、その土地は自分の所有物であると主張することができる。このような性質を、絶対性という。
(3) 排他性(「一物一権主義」)
同一の物について、同じ内容の物権が並存することはない。つまり、1つの土地が2人に二重に譲渡されてしまった場合、その土地に2人の所有権が並存して成立することはなく、2人のうちどちらか一方しか所有権を取得することができない。たとえば、自分が購入して所有する土地が、同時に誰かの所有物になることはありえないということである。このような性質を排他性という。これは「一物一権主義」とも呼ばれる。
■物権法定主義
(1) 物権法定主義
物権は、民法その他の法律に定めるもののほか、創設することができない(175条)。このような原則を、物権法定主義という。
物権は、直接的・排他的な権利なので、その種類や内容を法律で明確にしておかないと、取引の安全が害されてしまうからである。
(2) 物権の種類
物権は、大きく本権と占有権に分けられる。
本権とは、物を支配(占有)することを法律上正当づける権利のことである。本権は、物に対する絶対的支配権である所有権と、所有権の内容(所有物を使用・収益・処分する権利)を制限する制限物権とに分けられる。
制限物権は、一定の目的のために他人の土地を使用収益するための用益物権(所有者の使用・収益を制限する)と、債権を担保するための担保物件(所有者の処分を制限する)に分けられる。
占有権は、物を事実上支配する権利である。
ここでは、担保物権以外の物権を扱い、担保物権の詳細については章を改める。
■物権的請求権
物権には直接支配性や排他性があるのだから、たとえばA所有の土地はAのみが使用することができ、A以外の者がその土地に重ねて所有権を持つことはできない。しかし、この土地にBが勝手に建物を建て始めた場合に、AがBに対して何もすることができないとなると、所有権に排他性があるといっても、無意味なものになってしまう。そこで、このような場合に、Aは、その所有権に基づいて、Bに対して建物の除去や土地の明渡しを請求することができる。これを、物権的請求権という。なお、物権的請求権について、民法に明文の規定はないが、物権の性質上当然に認められるとされている。
物権的請求権には、次の3つがある。
(1) 物権的返還請求権
物権的返還請求権とは、他人が物権の目的物を占有することによって物権を有する物の占有が妨害されている場合に、物権を有する者が占有の回復を図るためにその目的物の返還を請求する権利をいう。
たとえば、賃貸借契約終了後も賃借人であった者が賃貸建物を不法占有している場合に、建物所有者が賃借人であった者に対して建物の明渡しを求めることなどがこれにあたる。
(2) 物権的妨害排除請求権
物権的妨害排除請求権とは、占有侵奪以外の方法によって物権の支配が妨害されている場合に、物権を有する者が妨害状態を生じさせている者に対して妨害の排除(除去)を請求するる権利をいう。
たとえば、自己所有の土地に隣地所有者が勝手に材木を運び込んだ場合に、隣地所有者に材木の撤去を求めることなどがこれにあたる。
(3) 物権的妨害予防請求権
物権的妨害予防請求権とは、物権の支配が妨害されるおそれがある場合に、物権を有する者が相手方に対して、妨害のおそれを生じさせている原因を除去して、妨害の予防(妨害を未然に防ぐ措置を講じること)を請求する権利をいう。
たとえば、自己所有の土地に隣地の崖がくずれそうになっている場合に、隣地所有者に補強工事を求めることなどがこれにあたる。
【発展・判例】物権的請求権の行使の相手方が問題となった事例(最判平6.2.8)
土地所有権に基づく物上請求権を行使して建物収去・土地明渡しを請求するには、現実に建物を所有することによってその土地を占拠し、土地所有権を侵害している者を相手方とすべきである。もっとも、他人の土地上の建物の所有権を取得した者が自らの意思に基づいて所有権取得の登記を経由した場合には、その建物を他に譲渡したとしても、引き続き登記名義を保有する限り、土地所有者に対して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできない。 |