• 民法ー3.物権(担保物権を除く)
  • 2.不動産物権変動と登記
  • 不動産物権変動と登記
  • Sec.1

1不動産物権変動と登記

堀川 寿和2021/12/02 10:41

 不動産物権変動(所有権移転など)は、当事者の意思表示のみによって起こる。しかし、その変動した権利関係を第三者に対抗するためには、「登記」を必要とする。この登記を対抗要件という。

物権変動

(1) 物権変動とは

 物権変動とは、物権の発生、移転、変更または消滅をいう。

 たとえば、建物を新築すればその建物に所有権が発生し、この建物を売却すれば所有権が移転し、また、この建物が火災で焼失すれば所有権は消滅する。このような所有権の発生・移転・消滅が物権変動である。

物権変動は、契約や相続、時効などによって生じる。


(2) 契約による物権変動

 物権の設定および移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる(176条)。

 これは、物権変動が生ずるためには、当事者の意思表示だけでよく、ほかに登記や引渡しなどの特別な手続きは必要ないということである。このような考え方を意思主義という。



Point 売買契約によって売主から買主に所有権が移転する時期は、所有権の移転時期に関する特約がない限り、売買契約成立時である。



不動産物権変動の対抗要件(登記)

 不動産に関する物権の得喪および変更(不動産物権変動)は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない(177条)。

たとえば、不動産売買において所有権が売主から買主に移転するのは売買契約成立時であるので、売買契約が成立すれば買主は売主に対して自分の所有権を主張することができるが、登記を備えていないと、買主は当事者間で生じた自分への所有権の移転を第三者に対しては対抗することができないということである。

このように、登記を備えると第三者に不動産物権変動を対抗できるようになる。登記のこの効力を対抗力といい、登記のことを不動産物権変動の対抗要件という。


(1) 登記がなければ対抗できない第三者

① 不動産の二重譲渡の譲受人

対抗要件が問題となる典型的な事例が、不動産の二重譲渡があった場合である。

 不動産の二重譲渡の譲受人に対しては、登記がなければ所有権の取得を対抗することができない。


事例 Aは自己所有地をBに売却し、さらに、その土地を、すでにAB間の売買契約が存在していることを知っている悪意のCにも売却した。




Point1 第三者は善意であることを要しない(最判昭32.9.19)。したがって、登記がないと、第三者が悪意の場合であっても、物権変動を対抗することはできない。


Point2 上記のようなBとCの関係を、「対抗関係」という。


② 差押債権者

 不動産を差し押さえた債権者に対しては、登記がなければ所有権の取得を対抗することができない(最判昭39.3.6)。


事例 BはAから甲土地を購入したが、所有権移転登記がなされていない間に、Aの債権者Cが甲土地を差し押さえた。

 この場合、Bは登記がないので、差押債権者Cに対して、所有権の取得を対抗することができない。




Point 差押え前の一般債権者に対しては、登記がなくても所有権の取得を対抗することができる



取得時効と登記

(1) 取得時効の完成による所有権の取得

 取得時効の完成により所有権を取得した場合に、元の所有者に対して取得時効が完成したことを主張するのに、登記は不要である。元の所有者と所有権の時効取得者とは、元の所有者と現在の所有者という、あたかも土地の譲渡があったときのような、当事者同様の関係にあるからである。


事例 A所有地を、Bが20年間占有し、取得時効が完成した。



(2) 取得時効完成前に所有権を取得した第三者

 取得時効の完成により所有権を取得した場合に、時効完成前に土地を譲り受けた者に対して取得時効が完成したことを主張するのに、登記は不要である。時効完成前に土地を譲り受けた者と所有権の時効取得者との関係も、元の所有者と現在の所有者という、あたかも土地の譲渡があったときのような、当事者同様の関係にあるからである。


事例 A所有地をBが長期に占有しているが、Bの取得時効が完成する前に、Aがその所有地をCに売却した。その後、Bの取得時効が完成した。




(3) 取得時効完成後に所有権を取得した第三者

 時効による所有権の取得は、登記をしなければ、第三者に対抗することができない。


事例 A所有地をBが20年間占有しBの取得時効が完成した。

その後、Aがその所有地をCに売却した。


Point 取得時効完成の時期を定めるにあたっては、必ず時効の基礎たる事実の開始した時(占有開始時)を起算点として時効完成の時期を決定しなければならず、取得時効を援用する者において任意にその起算点を選択し、時効完成の時期を早めたり遅らせたりすることはできない(最判昭35.7.27)。