• 民法ー1.民法の概要
  • 2.契約と私的自治の原則
  • 契約と私的自治の原則
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1契約と私的自治の原則

堀川 寿和2021/12/01 14:25

契約

 民法では、すべての関係を権利と義務の関係として表現している。このような権利と義務の関係を法律関係という。

 権利や義務が発生したり、消滅したりする原因として最も重要で典型的なものが「契約」である。そこで、まずは「契約」について学習する。


(1) 契約の成立

契約は、「申込み」と「承諾」の意思表示が合致することで成立する。

契約が成立すれば、その他の問題がない限り、有効な契約となる。

いったん契約が成立すると、当事者は契約に拘束される。


事例 A所有の不動産につき、Bが買い受けの申込をし、Aがこれを承諾することにより、AB間に売買契約が成立する。



 契約は、「申込み」(契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示)に対して相手方が「承諾」をしたときに成立する(522条1項)。

 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない(522条2項)。


Point 契約は、原則として、当事者の間での口約束だけでも成立する。契約書を作らなくても、口頭によって合意さえすれば、契約は成立するのである。




Point 契約が成立すると、その効果として「債権」が発生したり、「物権」が移転したりする。


(2) 物権と債権の意味

① 物権とは

物に対する権利である。

特定の物を直接に支配することができる排他的な権利をいう。

物権は誰に対しても主張できる権利である。


② 債権とは

人に対する権利である。

特定の人に対して一定の行為を請求することができる権利をいう。

債権は特定の人に対してのみ主張できる権利である。


(3) 契約の有効性

 契約が成立すると、次に問題になるのが契約の有効性である。

成立した契約に特に問題がなければ、契約は完全に有効となる。

 ただし、問題がある契約については、取り消すことができる場合や、無効となる場合がある。


① 取り消すことができる契約

1. 制限行為能力者が単独で行った契約

2. 錯誤による契約

3. 詐欺・強迫による契約

契約は一応有効なものとして扱われるが、後にこれを取り消すことができる。契約が取り消されると、契約は成立時に遡って、無効になる。


② 無効となる契約

1. 意思無能力者が行った契約

2. 公序良俗(公の秩序または善良の風俗)に反する契約

3. 心裡留保による契約

4. 虚偽表示による契約



取消し・いったん有効に成立した契約をなかったことにすることであり、契約を取り消すと、その契約は最初からなかったことになる。
・取り消すことができる契約は、取り消されるまでは有効である。
無効はじめから何も効力を生じないことであり、何もいわなくても当然になかったことになる。


私的自治の原則

(1) 私的自治の原則

 「私的自治の原則」とは、私法の分野においては、個人が、自由意思に基づいて自律的な法律関係を形成することができるという原則である。契約におけるこの原則の現われを契約自由の原則という。この原則のもとでは、当事者間で約束をしない限り義務を負わされることはないことになる。反面、自らの意思で約束した場合には義務を負わされてもやむを得ない。ここに意思の合致から権利、義務が発生する根拠がある。この原則は、「当事者以外の者は当事者の私的自治に干渉してはならない」という意味を含んでいる。よって、特に公権力は私的自治に干渉してはならないという考え方に結びつく。


(2) 契約自由の原則

 契約自由の原則とは、そもそも契約を締結するかどうか、契約を締結するにしても誰とどのような内容の契約をするのか、どのようにして契約を締結するのかは、契約当事者の自由であるという原則である。

 契約自由の原則は、次の4つの原則で構成される。


① 契約締結の自由

 契約を締結するかどうかを自由に決定できるという原則である。気がすすまない 契約の締結を強制されることはない。


② 相手方選択の自由

 契約を締結する場合は、誰と契約を締結するのかを自由に決定できるという原則である。気がすすまない相手との契約の締結を強制されることはない。


③ 契約内容の自由

 契約の内容は当事者が自由に決定できるという原則である。契約の内容について国家が干渉することは許されない。


④ 契約方式の自由

 当事者の合意だけで有効な契約が成立するという原則である。契約の成立に、書面の作成などは原則として不要である。


(3) 契約の内容に関する要件

 契約自由の原則のもとでは、いかなる内容の契約も締結することができるのが原則である。

 しかし、契約が成立すれば、当事者に権利義務が発生しそれを裁判で強制的に実現することができるという強い効力を生じる。そうすると、そのような効力を与えるにふさわしい内容を持ったもののみを有効な契約として扱うべきということになる。そこで、契約の内容に関する有効要件が問題となる。


① 確定性

内容が確定できない契約は無効である。


② 実現可能性

実現不可能なことを目的とする契約は無効である。


③ 適法性

法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定(任意規定)と異なる意思を表示したときは、その意思に従う(91条)。ここから、法令中の公の秩序に関する規定(強行規定)に違反する契約は無効であるという考え方が導かれる。


無効とされた事例
民法678条は、組合員は、やむを得ない事由がある場合には、組合の存続期間の定めの有無にかかわらず、常に組合から任意に脱退することができる旨を規定しているものと解されるところ、同条のうち右の旨を規定する部分は、強行法規であり、これに反する組合契約における約定は効力を有しないものと解するのが相当である(最判平11.2.23)。


④ 社会的妥当性

公の秩序または善良の風俗(公序良俗)に反する法律行為は、無効である(90条)。


無効とされた事例
・男子の定年年齢を60歳、女子の定年年齢を55歳とする旨の会社の就業規則は、経営上の観点から男女別定年制を設けなければならない合理的理由が認められない場合、公序良俗に反して無効である(最判昭56.3.24)。
・食品の製造販売を業とする者が、有害物質の混入した食品を、食品衛生法に抵触するものであることを知りながら、あえて製造販売し取引を継続していた場合には、当該取引は、公序良俗に反して無効である(最判昭39.1.23)。
・貸与される金銭が賭博の用に供されるものであることを知ってする金銭消費貸借契約は公序良俗に違反し無効である(最判昭61.9.4)。
・他人の窮迫、軽率もしくは無経験を利用し著しく過当な利益を獲得することを目的とする法律行為は公序良俗に違反し無効である(大判昭9.5.1)
無効でないとされた事例
・債権の管理または回収の委託を受けた弁護士が、その手段として訴訟提起や保全命令の申立てをするために当該債権を譲り受ける行為は、たとえそれが弁護士法に違反するものであったとしても、司法機関を利用して不当な利益を追求することを目的として行われた等の事情がない限り、直ちにその私法上の効力が否定されるものではない(最決平21.8.12)。


Point 契約が公序に反することを目的とするものであるかどうかは、当該契約が成立した時点における公序に照らして判断すべきである(最判平15.4.18)。


(4) 契約以外の法律行為

 契約は向かい合った2つの意思表示の合致という法律要件を満たすことで成立し、法律効果を発生させる。このように、「意思表示」を要素として法律要件を満たし、法律効果を発生させる行為を「法律行為」という。ここでは、契約以外の法律行為は何があるのか確認しておく。

1. 単独行為

1個の意思表示で成立するもの。遺言、取消しなど。

2. 合同行為

同方向の複数の意思表示が合致することで成立するもの。社団法人の設立行為など