• 憲法―15.憲法保障
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1憲法保障の類型

堀川 寿和2021/12/01 13:12

 『憲法保障』とは、憲法より下位の法や政府機関その他の活動によって、憲法規範の意味内容が変更・侵害されることを事前に予防し、又は事後に是正して、憲法秩序の存続と安定を保つことをいう。

 憲法は、国の基本法であることから、その安定した運用が望まれる。また、最高法規であることから、下位の法規範や法的措置により無視され、踏みにじられることがあってはならない。ところが、憲法自体が極めて政治的な性格を有していることから、現実の政治変動に伴って規範の意味から外れた運用がなされる可能性が大きい。そこで、憲法と現実の格差から、憲法それ自体を守るための保障となる仕組みが求められる。そのような仕組みを『憲法保障』として定めているのである。


 憲法保障には、(1) 憲法自体に規定のある保障制度と、(2) 憲法自体に規定はないが、超憲法的根拠によって認められる保障制度がある。


(1) 憲法に規定のある憲法保障


事前的保障宣言的保障・最高法規性(98条1項)
・憲法尊重擁護義務(99条)
・人権の不可侵・永久性(97条)
手続的保障硬性憲法(96条)
機構的保障・権力分立制(41条、65条、76条1項)
・議院内閣制(66条3項等)
・選挙制度(15条1項、47条)
・二院制(42条)
・地方自治制(第8章)
事後的保障違憲審査制(81条)


(2) 憲法には規定のない憲法保障

・抵抗権

・国家緊急権


事前的憲法保障

(1) 最高法規性の宣言(98条1項)

 98条1項は、憲法は国法秩序の段階構造において最高位にあり、これに反する国家行為は全て効力を有しないことを明らかにすることで、憲法保障を図っている。


(2) 実質的最高法規性(97条

 97条は、基本的人権の永久性・不可侵性を述べる。これは、近代立憲主義の法秩序の中で、国家権力を制限して基本的人権を保障する日本国憲法が、実質的な最高法規となることを示す。


(3) 憲法尊重擁護義務(99条)

 99条は、公務員に対して憲法尊重擁護義務を課し、権力の担い手が憲法によって支配されることを定めることで、憲法保障を図っている。

 なお、本条において『国民』が憲法尊重擁護義務の主体に含まれていない点は注視すべきである。この点、この憲法によって恩恵を受ける立場にある国民が、この憲法を擁護するのは当然のことで、あえて明示されていないとする考え方もある。しかし、近時の有力説は、近代立憲主義憲法は権力への制限規範なのであるから、権力の側でない国民が果たすべき役割は、権力の側が憲法を守っているかどうかの『監視』であって、それ以上の義務はないから、本条の主体には含まれないと捉えている。


(4) 硬性憲法(96条)

 改正に法律などの法形式よりも厳格な要件が設けられている憲法を『硬性憲法』という。硬性憲法であることは、憲法が安易に変更されることを防ぎ、また、憲法を国法秩序の中で形式的な最高位に置くことにもなり、憲法保障の手段のひとつとなる。


抵抗権・国家緊急権

(1) 抵抗権

 国家権力が重大な憲法侵害を行い、合法的な救済が不可能になった場合に、私人が、自らの権利自由を守るため実力を持って抵抗し、憲法秩序の回復を図る権利を『抵抗権』という。

 抵抗権は、近代市民革命期には自然権思想から人権宣言の中で認められていたが、本来非合法的なものであるため、憲法保障制度が実定法により整備されていくとともに、各国の憲法典から消えていった。

 日本国憲法も、現実に実力を行使する抵抗権を直接保障しているとまでは解されていない。ただ、憲法の背後にある自然法思想や12条の「国民の不断の努力によって、これを保持」すべきとの規定に、人権侵害に対する抵抗の理念を読み取ることができる。


(2) 国家緊急権

 戦争、内乱、大規模な自然災害など、平時の統治機構をもっては対処できない非常事態において、政府が国家の存立を維持するために、憲法秩序を一時停止して非常措置をとる権限を『国家緊急権』という。

 これは、非常事態において国家の存立を維持し、憲法秩序の回復を目指すという意味では憲法保障の一形態であるが、他方、立憲的な憲法秩序を停止して危機を乗り切ろうとするものであるから、立憲主義を破壊する危険性も秘めているといえる。

 日本国憲法には、旧憲法とは異なり、国家緊急権に関する規定がない。戦前に国家緊急権が濫用されたことなどを考慮して、意識的に除外したものとされる。従って、明文の規定なしに自然権的緊急権を認めるべきではなく、緊急の事態に対処すべき方法を法律で定める場合でも、人権保障や権力分立を停止してしまう内容であってはならない。