- 憲法―10.国会
- 7.議院の権能
- 議院の権能
- Sec.1
1議院の権能
各議院が単独で行使できる権能は、次のとおりである。(国会の権能ではないことに注意)
■議院自律権
(1) 各議院の組織に関する自律権
① 会期前に逮捕された議員の釈放要求権、会期中の議員逮捕の許諾権
議院は、国会の開催にあたって、会期前に逮捕された議員を会期中釈放するよう要求できる(50条)。また、会期中の議員逮捕の許諾権は、「各議院の議員は、院外における現行犯罪の場合を除いては、会期中その院の許諾がなければ逮捕されない」(国会法33条)という不逮捕特権を有することに対応したものである。
② 議員の資格争訟の裁判権
「両議院は、各々議員の資格に対する争訟を裁判する」(55条)。
③ 役員選任権
「両議院は、各々議長その他の役員を選任する」(58条1項)。
(2) 各議院の運営に関する自律権
① 議院規則制定権
両議院は、各々会議その他の手続および内部の規律に関する規則を定めることができる(58条2項)。国会中心立法の原則の例外である。
② 議員懲罰権
両議院は、各々院内の秩序を乱した議員を懲罰することができる(58条2項)。議員に対する懲罰は、刑罰とは性質が異なり、院内の秩序を乱した議員に対して、組織体としての秩序を維持し、その機能を円滑にするために科す懲戒罰であるため、裁判所の裁判による必要はなく、各議院が自律的に科すことができる。
■国政調査権
両議院は、各々国政に関する調査を行い、これに関して、証人の出頭、証言および記録の提出を要求することができる(62条)。
(1) 国政調査権の性質
国政調査権の性質については、次のとおり争いがある。
① 独立権能説
国政調査権は、国権を統括するための手段として議院に付与された独立の権能であるとする説。「国権の最高機関」=統括機関説と結びつく。
② 補助的権能説(通説)
国政調査権とは、国会の諸権能を行使するために、議院に対して補助的に与えられた事実の調査権能であるとする説。「国権の最高機関」=政治的美称説と結びつく。
ただし、独立権能説をとったとしても、他の国家機関の権能を行使することはできないと解され、また、補助的権能説をとったとしても、国会の権能は広範囲に及び、したがって国政調査権も国政のほぼ全般にわたって行使することができると解されるから、どちらの説をとっても調査権の内容、範囲や限界にそれほど大きな違いが生ずるわけではない。
(2) 国政調査権行使の手段
議員の派遣 (国会法103条)、内閣・官公署その他からの報告または記録提出の要求(国会法104条1項)などである。強制的手段は、証人の出頭、証言及び書類の提出に限られる(議院証言法1条)。
(3) 国政調査権の範囲ないし限界 (他の国家権力などとの関係)
① 行政権との関係
(a) 職務上の守秘義務との関係
法律により守秘義務が課せられている公務員が職務上知り得た事実について、本人または当該公務所から職務上の秘密に関するものである旨の申し立てがあった場合、当該公務所またはその監督庁の承認がなければ、証言および書類の提出を求めることができない。ただし、当該公務所または監督庁が承認を拒む場合は、その理由を疎明しなければならない。議院等はその理由が受諾できない場合、証言または書類の提出が国家の重大な利益に悪影響を及ぼす旨の内閣声明を要求することができる。この要求があったときから10日以内に、内閣が声明を出さない場合は、要求された証言をし、または書類を提出しなければならない(議員証言法5条)。
(b) 検察権との関係
検察権の行使は、行政権の作用に属するものの、裁判と密接に関連する準司法的作用の性質を有するから、司法権に類似した独立性を認める必要があるといわれることがある。この考え方によると、起訴や不起訴に関する検察権の行使に政治的圧力を加えることが目的と考えられる調査、起訴された事件に直接関連する事項、公訴追行の内容を対象とする調査、捜査の続行に重大な障害をきたすような方法による調査などは許されないことになる。
② 司法権との関係
司法権に対する国政調査については、司法権の独立の要請との関係上、国政調査が裁判官に対して及ぼす影響を十分考慮し、慎重を期することが必要であり、裁判官の裁判活動に事実上重大な影響を及ぼすような調査は許されないと考えられている。したがって、(a)現に裁判所に係属中の事件について、裁判官の訴訟指揮を対象とする国政調査、(b)裁判の内容について、もっぱらその当否を判断するための国政調査などは許されないと考えられている。
かつて、国政調査と司法権との関係が問題となる事件があった。(b)に当たる事件であり、いわゆる浦和充子事件である。
cf. 浦和充子事件
夫が生業をかえりみないので、前途を悲観して親子心中を図り、子供を殺したが自分は死にきれず、自首した母親(浦和充子)に対して、裁判所は懲役3年、執行猶予3年の判決を下した(浦和地方裁判所S23.7.2)。
参議院法務委員会は、「裁判官の刑事事件不当処理等に関する調査」という院議に基づいて「検察及び裁判の運営等に関する調査」を行い、上記判決を採り上げ、被告人であった者その他の者を証人として出頭させて調査した結果、この判決の量刑不当(軽すぎる)を決議した。
これに対して、最高裁判所は裁判官会議を開いて、「個々の具体的裁判について、事実認定もしくは量刑等の当否を審査批判し、又は司法部に対し指摘勧告する等の目的をもって、行動におよんだことは、司法権の独立を侵害し、まさに憲法上国会に許された国政に関する調査権の範囲を逸脱する措置と謂わなければならない」などと参議院法務委員会に対して抗議を行った。これに対して、参議院法務委員会は、本件国政調査が司法権の独立と抵触するものではなく、また、最高裁判所が訴訟外で憲法問題についてその意見を発表したことは越権であるなどと反論を行った。
cf. 学説は、そのほとんどが最高裁の見解を支持している。
国会の権能 | 議院の権能 |
憲法改正の発議権(憲法第96条) | 逮捕された議員の釈放要求権(憲法第50条) |
法律の議決権(憲法第59条) | 議員の資格争訟の裁判権(憲法第55条) |
条約の承認権(憲法第61条) | 秘密会の開催(憲法第57条1項但書) |
内閣総理大臣の指名権(憲法第67条) | 役員選任権(憲法第58条1項) |
内閣の報告を受ける権能
(憲法第72条、90条、91条) | 議院規則制定権(憲法第58条2項) |
弾劾裁判所の設置権(憲法第64条) | 議員懲罰権(憲法第58条2項) |
財政監督権(憲法第7章等) | 国政調査権(憲法第62条) |
大臣出席要求権(憲法第63条) |