- 憲法―5.経済的自由権
- 1.居住・移転の自由
- 居住・移転の自由
- Sec.1
1居住・移転の自由
職業選択の自由、居住・移転の自由、財産権を総称して経済的自由権という。経済的自由権は、封建的な支配関係から脱して、自由な経済活動を求める近代市民階級によって主張されたものであり、市民革命当初は、不可侵の人権として厚く保護された。しかし、現代においては、社会国家理念に基づき、自由な経済活動、自由競争により生ずる弊害を是正するため、経済的自由は社会的に拘束を負ったものとして、社会的公共の見地から法律によって積極的に規制しうるものとされている。
人権に対する制約原理としての『公共の福祉』は、基本的には内在的制約を意味し、内在的制約を超えて人権に対して制約を加えることは許されない。ただ、経済的自由については、内在的制約に加えて、経済的・社会的弱者の生存の保障という観点からする政策的制約も認められる。社会国家理念を実現するための社会権の保障は、必然的に、経済的自由(とくに経済的・社会的強者の経済的自由)に対する規制を伴うことになるからである。
22条1項及び29条2項が、とくに『公共の福祉』による制約を明記しているのは、政策的制約を確認するためだと解されている。
■居住・移転の自由の意義
居住・移転の自由とは、自己の欲する地に住所または居所を定める自由、あるいはそれを変更する自由及び自己の意に反して居住地を変更されない自由をいう。
■居住・移転の自由の法的性格
居住・移転の自由は、複合的性格を有する権利であって、次の3つの性格を有すると解されている。
(1) 経済的自由権としての性格
自己の労働の場を自由に選択することは資本主義経済の基礎であり、職業選択の自由の当然の前提である。沿革的にも、居住・移転の自由は、経済的自由の一環として考えられてきた。
(2) 人身の自由としての性格
人が一定の場所から移動できないのでは、直接的拘束ではないにしろ、人身の自由が保障されているとはいえない。
(3) 精神的自由としての性格
自己の欲する場所に移動し、広く人々と接触の機会を得て意見・情報の交換を行うことは、個人の人格形成と人間的成長にとって重要である。その意味で、精神的自由としての性格をもつといえる。
cf. 一時的な人の移動(旅行の自由)が、居住・移転の自由に含まれるか否かが問題となる。居住・移転の自由は、精神的自由としての性格をも有することから考えると、旅行の自由は居住・移転の自由に含まれると解される。ただし、海外旅行の自由は、22条2項で保障されるとするのが判例・通説である。
■居住・移転の自由に対する制約
(1) 経済的自由の側面に向けられた制約
① 破産者の居住制限(破産法147、152)
→破産状態の究明という立法目的達成手段として最も有効であり、合憲
② 自衛隊員の居住制限(自衛隊法55)
→自ら志願して自衛官という職業を選択した以上、合憲
(2) 人身の自由の側面に向けられた制約
① 懲役・禁錮による拘禁
② 親権者の子に対する居所指定権(民法821)
③ 夫婦同居の義務(民法752)
④ 特定の病気の患者等が、当人の保護と社会衛生上の見地から、居住・移転を制限され、強制入院・隔離される場合(感染症予防法19、結核予防法29、精神保健福祉法29)
→放置した場合に生ずる害悪発生の蓋然性が高く、規制の緊急性と必要性を認めうるものであり、合憲