- 憲法―1.総論
- 3.前文
- 前文
- Sec.1
1前文
■日本国憲法の基本原理
(1) 前文の意義
前文とは、一般的に法律の最初に付され、その法律の目的や精神を述べる文章のことをいう。日本国憲法前文では近代憲法に内在する価値、原理を確認しており、重要な意義を持つ。
日本国憲法の3大原理: 「基本的人権の保障」 「国民主権」 「平和主義」
(2) 前文の法的性質
前文は、憲法典の一部を構成し、本文と同じく法規範性を有する。前文は98条にいう最高法規の一部であり、96条の憲法改正手続によらなければ改正できない。
このように、法規範性が認められるとしても、さらに前文に裁判規範性が認められるか否かについては争いがある。
具体的には、自衛隊基地建設の合憲性が問題となった『長沼ナイキ事件』において、前文で規定する『平和的に生存する権利』が裁判規範となりうるのかが議論となった。
判例 | 長沼ナイキ事件第二審判決(札幌高判S51.8.5) |
北海道夕張郡長沼町に航空自衛隊の「ナイキ地対空ミサイル基地」を建設するため、農林大臣が1969年、森林法に基づき国有保安林の指定を解除。これに対し反対住民が、基地に公益性はなく「自衛隊は違憲、保安林解除は違法」と主張して、処分の取消しを求めて提訴。 |
《争点》 | 憲法前文に裁判規範性はあるか? |
《判旨》 | 平和的生存権は、何ら現実的・個別的内容を持つものとして具体化されているものではなく、裁判規範性は認められない。 |
《POINT》
前文の裁判規範性について
1. 否定説(通説) 裁判規範性は認められない。前文は憲法の理想・原則を抽象的に宣明したものであり、具体性を欠くからである。 2. 肯定説 裁判規範性は認められる。本文中にも抽象的な規定はあり、前文と本文との抽象性の相違は相対的なものに過ぎない。 「平和のうちに生存する権利」(前文2項)の裁判規範性について 1. 否定説(上記裁判例) 裁判規範性は認められない。上記参照。 2. 肯定説 裁判規範性は認められる。そもそも前文自体に裁判規範性を認めるべき。 |