- 法令上の制限税その他ー5.宅地造成等規制法
- 2.宅地造成工事規制区域内における宅地造成に関する工事等の規制
- 宅地造成工事規制区域内における宅地造成に関する工事等の規制
- Sec.1
1宅地造成工事規制区域内における宅地造成に関する工事等の規制
■宅地造成に関する工事の許可
宅地造成等規制法は、宅地造成に関する工事に許可制度を設けて、その安全を図っている。まず、がけくずれ等の危険な地域を、「宅地造成工事規制区域」として指定し、その区域内で宅地造成に関する工事をする場合には、都道府県知事の許可を要するとするものである。
(1) 許可の対象となる「宅地造成」
宅地造成工事規制区域内において宅地造成に関する工事を行う場合に、都道府県知事の許可が必要になる。そこで、許可が必要な宅地造成に関する工事とは何かが問題になる。
① 「宅地」の意味
まず、「宅地造成」に関する工事で造成される「宅地」の意味が問題になる。
「宅地」とは、次に該当する土地以外の土地をいう。
① 農地、採草放牧地および森林の用に供する施設の用に供されている土地
② 道路、公園、河川その他一定の公共の用に供する施設の用に供されている土地 |
宅建業法の「宅地」と意味が違うので注意しよう。たとえば、ゴルフ場は上記のいずれにも該当しないので、建物の敷地ではないが「宅地」になる。
Point1 たとえば、公園は「宅地」ではないので、公園造成工事は、「宅地」の造成ではない。
② 「宅地造成」の意味
次に、「宅地造成」の意味が問題になる。
「宅地造成」とは、宅地以外の土地を宅地にするためまたは宅地において行う土地の形質の変更で次のいずれかに該当するもの(宅地を宅地以外の土地にするために行うものを除く)をいう。
① 切土であって、その切土部分に高さが2mを超える崖を生ずることとなるもの
② 盛土であって、その盛土部分に高さが1mを超える崖を生ずることとなるもの ③ 切土と盛土とを同時にする場合に、その盛土部分は②に該当しないが、その切土および盛土をした部分に高さが2mを超える崖を生ずることとなるもの ④ ①②③のいずれにも該当しない切土または盛土であって、その切土または盛土をする土地の面積が500㎡を超えるもの |
Point2 宅地を宅地以外の土地にするために行う土地の形質の変更は、一定規模以上のものであっても、宅地造成に該当しない。
(2) 宅地造成に関する工事の許可
宅地造成工事規制区域内において行われる宅地造成に関する工事については、造成主は、当該工事に着手する前に、都道府県知事の許可を受けなければならない。 |
ただし、都市計画法の開発許可(29条1項または2項の許可)を受けて行われる当該許可の内容に適合した宅地造成に関する工事については、許可を受ける必要はない。
Point3 許可の申請をするのは造成主である。造成主とは宅地造成に関する工事の請負契約の注文者または請負契約によらないで自らその工事をする者をいう。
(3) 許可または不許可の通知
都道府県知事は、許可の申請があった場合は、遅滞なく、許可または不許可の処分をしなければならない。この処分をするには、文書をもって申請者に通知しなければならない。
Point4 許可をする都道府県知事は、その許可に、工事の施行に伴う災害を防止するため必要な条件を付することができる。
(4) 宅地造成に関する工事の技術的基準
宅地造成工事規制区域内において行われる宅地造成に関する工事は、政令で定める技術的基準に従い、擁壁、排水施設等の設置など、宅地造成に伴う災害を防止するため必要な措置が講ぜられたものでなければならない。 |
これに適合しない工事は、許可されない。
Point5 都道府県知事は、その地方の気候、風土または地勢の特殊性により、政令で定める技術的基準のみによっては宅地造成に伴う崖崩れまたは土砂の流出の防止の目的を達し難いと認める場合においては、都道府県の規則で、宅地造成に関する工事の技術的基準を強化し、または必要な技術的基準を付加することができる。
(5) 資格を有する者の設計によらなければならない措置
次の工事は、政令で定める資格を有する者の設計によらなければならない。
① 高さが5mを超える擁壁の設置
② 切土または盛土をする土地の面積が1,500㎡を超える土地における排水施設の設置 |
これに適合しない工事は、許可されない。
(6) 国または都道府県の特例
国または都道府県(指定都市または中核市の区域内においては、それぞれ指定都市または中核市を含む)が、宅地造成工事規制区域内において行う宅地造成に関する工事については、国または都道府県と都道府県知事との協議が成立することをもって、許可があったものとみなされる。
(7) 変更の許可
宅地造成に関する工事の許可を受けたあとで、工事の計画を変更しようとするときは、一定の場合を除き、改めて都道府県知事の許可を受けなけれなならない。
宅地造成に関する工事の許可を受けた者は、その許可に係る宅地造成に関する工事の計画の変更をしようとするときは、国土交通省令で定める軽微な変更を除き、都道府県知事の許可を受けなければならない。 |
(8) 変更の届出
国土交通省令で定める軽微な変更をしようとするときは変更の許可を得る必要がないが、次の届出が必要になる。
宅地造成に関する工事の許可を受けた者は、国土交通省令で定める軽微な変更をしたときは、遅滞なく、その旨を都道府県知事に届け出なければならない。 |
国土交通省令で定める軽微な変更は、次の通り。
① 造成主、設計者または工事施行者の変更
② 工事の着手予定年月日または工事の完了予定年月日の変更 |
(9) 工事完了の検査
① 工事完了の検査
宅地造成に関する工事の許可を受けた者は、許可に係る工事を完了した場合においては、その工事が技術的基準に適合しているかどうかについて、都道府県知事の検査を受けなければならない。
② 検査済証の交付
都道府県知事は、工事完了の検査の結果、工事が技術的基準に適合していると認めた場合においては、検査済証を、許可を受けた者に交付しなければならない。
(10) 監督処分
① 許可の取り消し
都道府県知事は、次の者に対して、その許可を取り消すことができる。
1. 偽りその他不正な手段により宅地造成に関する工事の許可または変更の許可を受けた者
2. 宅地造成に関する工事の許可または変更の許可に付した条件に違反した者 |
② 工事の施行停止命令等
都道府県知事は、宅地造成工事規制区域内において行われている宅地造成に関する工事が、次のいずれかに該当する場合は、その造成主または工事の請負人(請負工事の下請人を含む)もしくは現場管理者に対して、工事の施行の停止を命じ、または相当の猶予期限を付けて、擁壁等の設置その他宅地造成に伴う災害の防止のため必要な措置をとることを命ずることができる。
1. 宅地造成に関する工事の許可または変更の許可を受けていない場合
2. 宅地造成に関する工事の許可または変更の許可付した条件に違反している場合 3. 技術的基準に適合していない場合 |
③ 宅地の使用禁止命令等
都道府県知事は、次のいずれかに該当する宅地については、宅地の所有者、管理者もしくは占有者または造成主に対して、宅地の使用を禁止し、もしくは制限し、または相当の猶予期限を付けて、擁壁等の設置その他宅地造成に伴う災害の防止のため必要な措置をとることを命ずることができる。
1. 宅地造成に関する工事の許可または変更の許可を受けないで宅地造成に関する工事が施行された宅地
2. 工事完了の検査を受けていない宅地 3. 工事完了の検査の結果、工事が技術的基準に適合していないと認められた宅地 |
【監督処分(まとめ)】
都道府県知事は、次の処分をすることができる。
処分の内容 | 処分ができる場合 | 処分の相手 |
・ 許可の取消し | ① 偽りその他不正の手段によって許可を受けた
② 許可につけられた条件に違反した | 造成主 |
・ 工事停止命令
・ 災害防止のために 必要な措置の命令 | ① 無許可工事
② 許可につけられた条件に違反した工事 ③ 技術的基準に達していない工事 | ① 造成主
② 請負人 ③ 現場管理者 |
・ 使用禁止
・ 使用制限 ・ 災害防止のために 必要な措置の命令 | ① 無許可で宅地造成された宅地
② 工事完了の検査を受けていない宅地 ③ 検査の結果、技術的基準に達していない宅地 | ① 所有者
② 管理者 ③ 占有者 ④ 造成主 |
■工事等の届出
宅地造成等規制法は、許可制によって災害を防止しようとするのであるが、許可が必要な宅地造成にはあたらなくとも、やはり危険が伴う場合もある。そこで、そのような場合は、届出によって、災害を防止しようとする。
(1) 宅地造成に関する工事の届出
宅地造成工事規制区域の指定の際、当該宅地造成工事規制区域内において行われている宅地造成に関する工事の造成主は、その指定があった日から21日以内に、当該工事について都道府県知事に届け出なければならない。 |
宅地造成工事規制区域に指定された際すでに工事中であった場合が届出でよいのは、法律の不遡及の現れである。法律は、それが適用されるまでにすでに行われていたことには干渉しないのが原則である。
(2) 擁壁等の除却の工事の届出
宅地造成工事規制区域内の宅地において、高さが2mを超える擁壁、地表水等を排除するための排水施設または地滑り抑止ぐい等の全部または一部の除却の工事を行おうとする者は、その工事に着手する日の14日前までに、その旨を都道府県知事に届け出なければならない。 |
擁壁等に関する工事が「宅地造成」に該当する場合は許可が必要になる。擁壁等に関する工事が「宅地造成」に該当しない場合に、この届出が必要になる。
(3) 宅地への転用の届出
宅地造成工事規制区域内において、宅地以外の土地を宅地に転用した者は、その転用した日から14日以内に、その旨を都道府県知事に届け出なければならない。 |
宅地以外の土地の宅地への転用が「宅地造成」を伴わない場合は許可を受ける必要はないが、この届出が必要になる。
【工事等の届出(まとめ)】
どのような場合に | 誰が | いつまでに |
宅地造成工事規制区域指定の際に既に行われていた造成工事 | 造成主 | 宅地造成工事規制区域指定の日から21日以内 |
高さ2mを超える擁壁、排水施設、滑り防止ぐい等の除去工事 | 工事を行う者 | 工事着手の14日前まで |
宅地以外の土地を宅地に転用した場合
(造成を伴わないもの) | 転用した者 | 転用した日から14日以内 |
Point 届出をしなければならないにもかかわらず、それをしなかった場合は、6月以下の懲役または30万円以下の罰金である。
■宅地の保全等
宅地造成工事規制区域内は、災害の危険区域であるから、その指定前からの宅地であっても常に安全には気を配るべきである。そこで、宅造法は、規制区域の指定前になされた宅地造成の場合も含めて次のような規定を置いている。
(1) 宅地の保全
宅地造成工事規制区域内の宅地の所有者、管理者または占有者は、宅地造成(宅地造成工事規制区域の指定前に行われたものを含む)に伴う災害が生じないよう、その宅地を常時安全な状態に維持するように努めなければならない。
Point1 保全の対象になるのは宅地であり、宅地以外の土地は対象外である。
(2) 勧告
都道府県知事は、宅地造成工事規制区域内の宅地について、宅地造成(宅地造成工事規制区域の指定前に行われたものを含む)に伴う災害の防止のため必要があると認める場合においては、その宅地の所有者、管理者、占有者、造成主または工事施行者に対し、擁壁等の設置または改造その他宅地造成に伴う災害の防止のため必要な措置をとることを勧告することができる。
(3) 改善命令
都道府県知事は、宅地造成工事規制区域内の宅地で、宅地造成(宅地造成工事規制区域の指定前に行われたものを含む)に伴う災害の防止のため必要な擁壁等が設置されておらず、または極めて不完全であるために、これを放置するときは、宅地造成に伴う災害の発生のおそれが大きいと認められるものがある場合においては、その災害の防止のため必要であり、かつ、土地の利用状況その他の状況からみて相当であると認められる限度において、当該宅地または擁壁等の所有者、管理者または占有者に対して、相当の猶予期限を付けて、擁壁等の設置もしくは改造または地形もしくは盛土の改良のための工事を行うことを命ずることができる。
(4) 報告の徴取
都道府県知事は、宅地造成工事規制区域内における宅地の所有者、管理者または占有者に対して、当該宅地または当該宅地において行われている工事の状況について報告を求めることができる。
Point2 「宅地において行われている工事」の状況が報告の聴取の対象となっているが、この工事は宅地造成に関する工事に限定されない。