• 専門土木
  • 12.鋼橋塗装
  • 鋼橋塗装
  • Sec.1

1鋼橋塗装

堀川 寿和2022/04/15 14:37

鋼橋塗装

 「鋼橋塗装」では、特に「塗装による防食」からの出題が多い。

鋼橋の防食法

(1) 鋼橋の防食法

 鋼橋の腐食を防止する方法は、被覆、耐食性材料の使用、環境改善、電気防食の4つに大別できる。

 

① 被覆による防食

 被覆による防食は、鋼材を腐食の原因となる環境(水や酸素)から遮断することによって腐食を防止する方法であるが、これには塗装などの非金属被覆亜鉛めっき金属溶射などの金属被覆による方法がある。

 

② 耐食性材料の使用による防食

 耐食性材料の使用による防食は、使用材料そのものに腐食速度を低下させる合金元素を添加することによって改質した耐食性を有する材料を使用する方法がある。たとえば、鋼材表面に緻密なさび層が形成されることで耐食性を発揮するいわゆる耐候性鋼材はこれに分類される。

 

③ 環境改善による防食

 環境改善による防食は、鋼材周辺から腐食因子を排除するなどによって鋼材を腐食しにくい環境条件下に置くものであり、構造の改善による水や酸素などを排除する方法と除湿による方法がある。

 

④ 電気防食

 電気防食は、鋼材に電流を流して表面の電位差をなくし、腐食電流の回路を形成させない方法であり、流電陽極方式外部電源方式がある。

 

(2) 塗装

 塗装は、鋼材表面に形成した塗膜が腐食の原因となる酸素と水や、塩類などの腐食を促進する物質を遮断し鋼材を保護する防食法である。

 

(3) 溶融亜鉛めっき

 溶融亜鉛めっきは、鋼材表面に形成した亜鉛皮膜が腐食の原因となる酸素と水や、塩類などの腐食を促進する物質を遮断し鋼材を保護する防食法である。

 溶融亜鉛めっきは、一旦損傷を生じると部分的に再めっきを行うことが困難であることから、損傷部を塗装するなどの溶融亜鉛めっき以外の防食法で補修しなければならない。

 

(4) 金属溶射

 金属溶射は、鋼材表面に形成した溶射皮膜が腐食の原因となる酸素と水や、塩類などの腐食を促進する物質を遮断し鋼材を保護する防食法である。

 金属溶射の施工にあたっては、温度や湿度などの施工環境条件の制限があるとともに、下地処理と粗面処理の品質確保が重要である。

 

(5) 耐候性鋼材

 耐候性鋼は、腐食速度を低下できる合金元素を添加した低合金鋼であり、鋼材表面に生成される緻密なさび層保護性さび)によって腐食の原因となる酸素や水から鋼材を保護するものである。

 耐候性鋼材では、初期の段階でさびむらやさび汁が流出する場合があるが、通常の場合には時間の経過とともに鋼材表面には緻密なさび層が形成されて暗褐色となりさび汁の流出もなくなる

 

Point 耐候性鋼は、初期の段階でさびむらやさび汁が生じても、通常は補修の必要はない

 

塗装による防食

(1) 鋼橋に用いる塗装系

 鋼橋に用いる塗装系の基本的な考え方は次のとおり。

 

① 重防食塗装系

 鋼材の板厚減少にいたる腐食を防止するため、ジンクリッチペイントなどの防食下地を用いた耐食性に優れた重防食塗装系を使用する。

 

② 環境にやさしい塗装系

 塗料中の揮発性有機化合物VOC)は、塗装中に大気中へ放出され光化学スモッグの原因1つと考えられている。VOCを削減するため、塗替え塗装には光化学スモッグの発生が少ないとされる弱溶剤型塗料を用いることが良い。またVOC量を大幅に削減した低溶剤型塗料や水性塗料を用いた環境にやさしい塗装系の適用を検討することが良い。

 

(2) 塗料の機能

 塗料には、その機能に応じて一次防せいプライマー防食下地下塗り塗料中塗り塗料上塗り塗料があるが、塗装はこれらを適切に組み合わせた複合的な防食方法である。

 

① 一次防せいプライマー

 ミルスケール(黒皮)をブラスト処理で除去した鋼材はさびが発生しやすい。これを防ぐために直ちに塗装するプライマーを一次防せいプライマーといい6か月程度の防せい性を持つ。

 

Point 一時防せいプライマーは、ブラスト処理した直後の鋼材の発せいを防ぐために塗装される。

 

② 防食下地

 防食下地は、鋼材の腐食を防ぐものであり、現在は従来のさび止めペイントより防せい性が格段に優れている塗料が用いられている。例えば、鋼材よりも卑な電位をもつ金属である亜鉛末を主成分として含有し、亜鉛末の犠牲防食作用によって鋼材の腐食を防ぐジンクリッチペイントがある。

 

Point 一時防錆プライマーは防食下地に含まれない。

 

③ 下塗り塗料

 下塗り塗料は、防食下地と良好な付着性を有し、水と酸素の腐食因子と塩化物イオンなどの腐食促進因子の浸透を抑制して、防食下地の劣化、消耗を防ぐ機能がある。エポキシ樹脂塗料や、鋼材面や旧塗膜などとの付着性に優れた変性エポキシ樹脂塗料などがある。

 下塗り塗料として使用される鉛・クロムフリーさび止めペイントは、重金属量がJISで規定されて、環境への負荷が低減でき、従来の鉛系さび止めペイントと同等の防せい(錆)性を有している

 

④ 中塗り塗料

 中塗塗料は、下塗塗料と上塗塗料の付着を確保し、色相を調整して下塗塗料の色相を隠蔽する機能がある。

 

⑤ 上塗り塗料

 上塗塗料は、耐候性のよい樹脂と顔料により、長期間にわたって鋼構造物の光沢や色相を維持し、下層塗膜を紫外線から保護する機能がある。

 

(3) 環境にやさしい塗料

 環境にやさしい塗料として、VOC量を低減した低溶剤型塗料や水性塗料が開発されている。

 

① 低溶剤形変性エポキシ樹脂塗料

 製作工場で防食のための下塗りとして使用される低溶剤形変性エポキシ樹脂塗料は、溶剤を削減することができるので、環境にやさしい塗装仕様として使われている。

 

② 水性塗料

 水性塗料は、水で希釈できる塗料で、VOCを低減する観点からは非常に有利であるが、主成分が水のために乾燥に時間がかかりやすく換気不良時や湿度が高い場合には工期が長くなる傾向がある。このため、現状では橋における実績が少ない。

 

Point 水性塗料は、溶媒として水を主成分に使うことで、VOCの含有率を下げた塗料である。VOCを全く使用していないわけではない。

 

(4) 塗付作業

① 塗料品質の確認

 塗装の開始前に使用する塗料の品質を確認する必要がある。

 

② 塗料のかくはん

 塗料を使用する際は、かくはん機やかくはん棒を用いて十分にかくはんして、缶内の塗料を均一な状態にする必要がある。

 

③ 可使時間

 塗料は、可使時間を過ぎる性能が十分でないばかりか欠陥となりやすくなる。このため、可使時間を守る必要がある。

 

④ 粘度と希釈

 塗料を、塗装作業時の気温、塗付方法、塗付面の状態に適した塗料粘度に調整する場合は、塗料に適したシンナーで適切に希釈する必要がある。

 

⑤塗布方法

 鋼橋の塗装作業には、スプレー塗りはけ塗りローラーブラシ塗りの方法がある。

 

⑥ 塗り重ね間隔

 塗装を塗り重ねる場合の塗装間隔は、付着性を良くし良好な塗膜を得るために重要な要素であり、塗料ごとに定められている

 塗重ね間隔が短い下層の未乾燥塗膜は、塗り重ねた塗料の溶剤によって膨潤してしわが生じやすくなる。また、塗料の乾燥が不十分なうちに次層の塗料を塗り重ねると、下層の塗膜の乾燥が阻害されたり、下層塗膜中の溶剤の蒸発によって上層塗膜にあわや膨れが生じることがある。

 逆に、塗重ね間隔が長いと下層塗膜の乾燥硬化が進み、上に塗り重ねる塗料との密着性が低下し、後日塗膜間で層間剝離はがれが生じやすくなる

 

Point 塗重ね間隔が長すぎても、にじみは生じやすくならない。

 

(5) 塗膜劣化

 塗膜は、日射、降雨や鋼材の腐食因子である飛来塩分などの作用によって徐々に劣化する。塗膜の経時的な劣化現象は避けられず、点検と適切な時期における塗り替え塗装は避けられない。

 主要な塗膜変状は次のとおり。

 

① さび

 さびは,塗膜劣化の中で最も重要な劣化指標となるものである。さびには膨れを伴わないさびと、膨れが破れて発生する膨れさびがある。

 

② はがれ

 はがれは、塗膜と鋼材面又は、塗膜と塗膜間の付着力が低下した時に生じ、塗膜が欠損している状態である。結露の生じやすい下フランジ下面などに多く見られる。

 

③ 割れ

 塗膜の割れチェッキングクラッキング)は、塗膜内部のひずみによって生じる。

 

(a) チェッキング

 チェッキングは、塗膜の表面に生じる比較的軽度な割れで、目視でやっとわかる程度のものである。

 

(b) クラッキング

 クラッキングは、塗膜の内部深く、又は鋼材面まで達する割れで、目視で容易に確認できるものである。

 

④ 膨れ

 膨れは、塗膜の層間や鋼材面と塗膜の間に発生する気体又は液体による圧力が、塗膜の付着力や凝集力より大きくなった場合に発生し、膜内への浸水又は高湿度条件で起きやすい。

 

⑤ 白亜化(チョーキング)

 チョーキングは、塗膜の表面が粉化して次第に消耗していく現象で、紫外線などによって塗膜表面が分解して生じ、耐久性が低下するものである。塗膜の変退色と密接な関係がある。

 

⑥ 変退色

 塗膜中の着色顔料が紫外線などによって変質したり、塗膜中の特定顔料の脱落などによって着色度合のバランスが崩れるなどして、塗膜の色調が変化することを変色という。退色とは、紫外線などにより塗膜表面が分解して粉状になる白亜化を起こしたり、塗膜中の顔料の性能が低下するなどして、塗膜の色が薄れることをいう。

 

(6) 現場塗膜除去の施工

① 現場塗膜除去

 一般塗装系で塗装された鋼橋を重防食塗装系へ移行するためには、現在塗装されている旧塗膜を完全に除去しなければならない。一般塗装系旧塗膜には、鉛化合物、六価クロム化合物などの有害な物質が含まれていることがあるため、これらを飛散なく、安全に塗膜除去作業をする必要がある。

 

② 環境対応型塗膜はく離剤による現場塗膜除去

 環境対応形塗膜はく離剤による塗膜除去は、塗膜を溶解して除去する従来の塗膜はく離とは異なり、高級アルコールを主成分とするため毒性及び皮膚刺激性が少なく塗膜をシート状に軟化させ塗膜を回収するので、塗膜ダストや騒音が発生しない

 環境対応形塗膜はく離剤は、塗膜にはく離剤成分を浸透させるので、既存塗膜の膜厚が大きい場合塗付時及び塗膜浸透時の気温が低い場合には塗膜はく離がし難いことがある。このため、対象とする橋の塗膜で事前に試験して浸透条件を把握することがよい。

 なお、さび黒皮長ばく形エッチングプライマーのような鋼材と化学的に反応している塗膜などは除去できないため、必要に応じて別途除去方法を検討する。