- 主な医薬品とその作用
- 9.鼻に用いる薬
- 鼻に用いる薬
- Sec.1
1鼻に用いる薬
■鼻に用いる薬
急性鼻炎は、鼻腔内に付着したウイルスや細菌が原因となって生じる鼻粘膜の炎症で、かぜの随伴症状として現れることが多い。アレルギー性鼻炎は、ハウスダストや花粉等のアレルゲンに対する過敏反応によって引き起こされる鼻粘膜の炎症で、スギ等の花粉がアレルゲンとなって生じるものは一般に「花粉症」と呼ばれる。副鼻腔炎は、こうした鼻粘膜の炎症が副鼻腔にも及んだもので、慢性のものは一般に「蓄膿(ちくのう)症」と呼ばれる。
鼻炎用点鼻薬は、急性鼻炎、アレルギー性鼻炎又は副鼻腔炎による諸症状のうち、鼻づまり、鼻みず(鼻汁過多)、くしゃみ、頭重(頭が重い)の緩和を目的として、鼻腔内に適用される外用液剤である。鼻炎用内服薬との主な違いとしては、鼻粘膜の充血を和らげる成分(アドレナリン作動成分)が主体となり、抗ヒスタミン成分や抗炎症成分を組み合わせて配合されていても、それらは鼻腔内における局所的な作用を目的とし、外用痔疾用薬(Ⅴ-1(痔の薬)参照。)や外皮用薬(Ⅹ(皮膚に用いる薬)参照。)で配合されている場合と同様である。
剤形はスプレー式で鼻腔内に噴霧するものが多い。
【スプレー式鼻炎用点鼻薬に関する一般的な注意事項】 噴霧後に鼻汁とともに逆流する場合があるので、使用前に鼻をよくかんでおくことのほか、使用後には鼻に接した部分を清潔なティッシュペーパー等で拭き、必ずキャップを閉めた状態で保管し清潔に保っておく必要がある。
また、汚染を防ぐために容器はなるべく直接鼻に触れないようにするほか、他人と点鼻薬を共有しないようにする必要がある。
1)代表的な配合成分、主な副作用
(a)アドレナリン作動成分
交感神経系を刺激して鼻粘膜を通っている血管を収縮させることにより、鼻粘膜の充血や腫れを和らげることを目的として、ナファゾリン塩酸塩、フェニレフリン塩酸塩、テトラヒドロゾリン塩酸塩等のアドレナリン作動成分が用いられる。アドレナリン作動成分が配合された点鼻薬は、過度に使用されると鼻粘膜の血管が反応しなくなり、逆に血管が拡張して二次充血を招き、鼻づまり(鼻閉)がひどくなりやすい。
点鼻薬は局所(鼻腔内)に適用されるものであるが、成分が鼻粘膜を通っている血管から吸収されて循環血液中に入りやすく、全身的な影響を生じることがある。交感神経系に対する刺激作用に伴う留意事項等に関する出題については、Ⅱ-1(咳止め・痰を出しやすくする薬)を参照して作成のこと。
(b)抗ヒスタミン成分
アレルギー性鼻炎の発生には、生体内の伝達物質であるヒスタミンが関与している(Ⅶ(内服アレルギー用薬)参照)。また、急性鼻炎の場合も、鼻粘膜が刺激に対して敏感になることから、肥満細胞からヒスタミンが遊離してくしゃみや鼻汁等の症状を生じやすくなる。
ヒスタミンの働きを抑えることにより、それらの症状の緩和することを目的として、クロルフェニラミンマレイン酸塩、ケトチフェン等の抗ヒスタミン成分が配合されている場合がある。
外用薬で用いられる抗ヒスタミン成分に関する出題については、Ⅹ(皮膚に用いる薬)を参照して作成のこと。
(c)ヒスタミンの遊離を抑える成分(抗アレルギー成分)
クロモグリク酸ナトリウムは、肥満細胞からヒスタミンの遊離を抑える作用を示し、花粉、ハウスダスト(室内塵(じん))等による鼻アレルギー症状の緩和を目的として、通常、抗ヒスタミン成分と組み合わせて配合される。
アレルギー性でない鼻炎や副鼻腔炎に対しては無効であり、アレルギーによる症状か他の原因による症状かはっきりしない人では、使用する前にその適否につき、専門家に相談する等、慎重な考慮がなされるべきである。3日間使用して症状の改善がみられないような場合には、アレルギー以外の原因による可能性が考えられる。
医療機関において減感作療法等のアレルギーの治療を受けている人では、その妨げとなるおそれがあるので、使用前に治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談がなされるなどの対応が必要である。
まれに重篤な副作用として、アナフィラキシーを生じることがある。その他の副作用として、鼻出血や頭痛が現れることがある。
なお、症状の改善がみられた場合であっても、2週間を超えて使用した場合の有効性、安全性に関する科学的データは限られていること、また、鼻アレルギーの要因に対する改善策(花粉、ハウスダスト等のアレルゲンの除去・回避)を講じることも重要であることから、使用の適否につき専門家に相談しながら慎重な判断がなされるべきである。
(d)局所麻酔成分
鼻粘膜の過敏性や痛みや痒みを抑えることを目的として、リドカイン、リドカイン塩酸塩等の局所麻酔成分が配合されている場合がある。
局所麻酔成分に関する出題については、Ⅴ-1(痔の薬)を参照して作成のこと。
(e)殺菌消毒成分
鼻粘膜を清潔に保ち、細菌による二次感染を防止することを目的として、ベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物、セチルピリジニウム塩化物のような殺菌消毒成分が配合されている場合がある。いずれも陽性界面活性成分で、黄色ブドウ球菌、溶血性連鎖球菌又はカンジダ等の真菌類に対する殺菌消毒作用を示す。結核菌やウイルスには効果がない。
(f)抗炎症成分
鼻粘膜の炎症を和らげることを目的として、グリチルリチン酸二カリウムが配合されている場合がある。グリチルリチン酸二カリウムに関する出題については、Ⅰ-1(かぜ薬)を参照して作成のこと。
2)相互作用、受診勧奨
【相互作用】 アドレナリン作動成分は、鎮咳去痰薬に気管支拡張成分として配合されているほか、外用痔疾用薬に止血成分として配合されていたり、点眼薬にも結膜の充血を取り除く目的で配合されている場合もある。また、抗ヒスタミン成分は、かぜ薬の鼻汁止めや睡眠改善薬又は乗り物酔い防止薬の成分としても配合されている。これらの医薬品との併用がなされた場合、同種の作用を有する成分が重複し、効き目が強すぎたり、副作用が現れやすくなるおそれがある。
【受診勧奨】 一般用医薬品の鼻炎用点鼻薬の対応範囲は、急性又はアレルギー性の鼻炎及びそれに伴う副鼻腔炎であり、蓄膿症などの慢性のものは対象となっていない。鼻炎用点鼻薬には、それらの症状を緩和する働きはあるが、その原因そのものを取り除くわけではない。また、アドレナリン作動成分のように、鼻以外の器官や臓器に影響を及ぼすおそれがある成分も配合されていることから、長期連用は避けることとされており、3日位使用しても症状の改善がみられない場合には、漫然と使用を継続せずに医療機関(耳鼻科)を受診するなどの対応が必要である。
かぜ症候群等に伴う鼻炎症状の場合、鼻炎が続くことで副鼻腔炎や中耳炎などにつながることもあるため、そのような症状の徴候に対しても注意を促すとともに、中耳炎が発生した場合などは医療機関を受診するよう勧めるべきである。
鼻粘膜が腫れてポリープ(鼻茸=はなたけ)となっている場合には、一般用医薬品により対処を図ることは適当でなく、医療機関における治療(ステロイド性抗炎症成分を含む点鼻薬の処方等)が必要となる。
■鼻に用いる薬ー問題
【問23】アレルギー及びアレルギー用薬に関する次の記述の正誤について、正しい組合せはどれか。
a 皮膚症状が治まると喘息が現れるというように、種々のアレルギー症状が連鎖的に現れる場合は、一般用医薬品によって一時的な対処を図るよりも、医療機関で総合的な診療を受けた方がよい。 b 一般用医薬品には、アトピー性皮膚炎による慢性湿疹等の治療に用いることを目的とするものがある。 c 一般の生活者では、使用目的となる症状(蕁麻疹等)と副作用の症状(皮膚の発疹・発赤等の薬疹)が見分けにくいことがあり、医薬品の販売等に従事する専門家において適宜注意を促していくことが重要である。
|
|||||
|
a |
b |
c |
|
|
1 |
誤 |
正 |
誤 |
|
|
2 |
正 |
正 |
正 |
|
|
3 |
正 |
誤 |
正 |
|
|
4 |
誤 |
誤 |
誤 |
|
|
5 |
正 |
正 |
誤 |
|
|
【問24】鼻炎用内服薬に関する次の記述について、( )の中に入れるべき字句の正しい組合せはどれか。
鼻炎用内服薬では、( a )系を刺激して鼻粘膜の血管を収縮させることによって鼻粘膜の充血や腫れを和らげることを目的として、( b )等の( c )成分が配合されている場合がある。 |
|||||
|
a |
b |
c |
|
|
1 |
交感神経 |
フェニレフリン塩酸塩 |
アドレナリン作動 |
|
|
2 |
交感神経 |
クロルフェニラミンマレイン酸塩 |
抗コリン |
|
|
3 |
副交感神経 |
フェニレフリン塩酸塩 |
アドレナリン作動 |
|
|
4 |
副交感神経 |
クロルフェニラミンマレイン酸塩 |
抗コリン |
|
|
5 |
副交感神経 |
フェニレフリン塩酸塩 |
抗コリン |
|
|