• 法令上の制限税その他ー2.建築基準法
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1総則

堀川 寿和2021/11/25 09:10

 「建築基準法」は、建築物の安全、衛生面についての規制により、人の生命・健康を守ろうという法律である。例年2問出題される。

 総則・建築確認・単体規定から1問、集団規定(建蔽率、容積率、用途規制等)から1問という出題パターンが多い。いずれも規制の概要や数値に関する正確な記憶が求められる。逆にそれさえできてしまえば比較的簡単に得点できる問題が多いので、面倒くさがらずに暗記作業に努めよう。


建築基準法の目的と仕組み

(1) 建築基準法の目的

 建築基準法は、建築物の敷地、構造、設備および用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康および財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的としている。


(2) 建築基準法の仕組み

 建築基準法が定める「建築物の敷地、構造、設備および用途に関する基準」は、おおきく「単体規定」と「集団規定」に分かれる。


① 単体規定

 「単体規定」とは、個々の敷地や建築物の安全性や衛生面について規定するものである。建築物は、日本全国どこにあっても安全、かつ衛生的でなくてはならないので、単体規定は都市計画区域や準都市計画区域の内外を問わず、全国の建築物に適用される。建築物が単体(1つだけ)であっても適用されるということである。


② 集団規定

 「集団規定」は、建築物相互の利用を調整し、良好な市街地の環境を確保するためのものである。たとえば、自宅の南側の隣人が、北側いっぱいに10階建ての建物を建てたら、まったく日照がなくなってしまう。そこで、近隣同士で建築に関する利害の調整が図れるよう、最低の基準を定めたのが「集団規定」である。集団規定は、建築物が集中している場所、すなわち、原則として「都市計画区域および準都市計画区域内に限り」適用される。隣家が5キロも先であれば、隣人の迷惑は考えなくてよいということである。


建築基準法が適用されない建築物

 建築基準法は全ての建築物に適用されるわけではない。建築基準法が適用されない建築物は、次の通り。


(1) 国宝・重要文化財等に指定等されている建築物

文化財保護法の規定によって国宝、重要文化財、重要有形民俗文化財、特別史跡名勝天然記念物または史跡名勝天然記念物として指定され、または仮指定された建築物には、建築基準法の規定は適用されない。

 たとえば、建築基準法には、木造では、原則として13mを超える建築物は建てられないとの規定がある。この規定が文化財にも適用されると、東大寺の大仏殿も、奈良の五重塔も違反建築物となり取り壊さなければならなくなり不都合である。そこで、文化的価値を優先させ、建築基準法を適用しないのである。


(2) 既存不適格建築物

 「既存不適格建築物」とは、建築基準法ができる前(昭和25年)からあった建築物で、現行の建築基準法の規定には適合しない建築物や、建築基準法の改正前からあった建築物で、改正後の建築基準法の規定に適合しなくなった建築物のことである。既存不適格建築物には、その適合しない規定は適用されない。したがって、その建築物が違反建築物になることはなく、その後の法の規定に適合させる必要もない。法律は原則として遡って適用されないという「法律不遡及の原則」のあらわれである。


用語の定義

(1) 建築物

土地に定着する工作物のうち、次のものをいう。
① 屋根および柱もしくは壁を有するもの(これに類する構造のものを含む)
② ①に付属する門・塀など
③ 建築物に設ける建築設備

 「土地に定着する」とは、土地にしっかりとくっついて簡単には離れないことを意味する。また、「工作物」とは、人間が作ったものである。つまり、土地に定着する工作物とは、土地にしっかりとくっついたもので、人間が作ったものを意味するのである。したがって、いくら居住性能がよくても自動車や船舶内の部屋などは土地に定着していないし、自然にできた洞窟は工作物ではないため、建築物ではないということになる。

 そして、建築物というためには、原則として風雨をしのぐための屋根、柱、壁があるものでなければならない。さらに、建築物に付属する門や塀などは建築物に含めて建築基準法の規制を受けるということである。


(2) 特殊建築物

学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、市場、ダンスホール、遊技場、公衆浴場、旅館、共同住宅、寄宿舎、下宿、工場、倉庫、自動車車庫、危険物の貯蔵場、と畜場、火葬場、汚物処理場その他これらに類する用途に供する建築物をいう。

 建築物の中でも、不特定多数の人や自動車が出入りする建築物、危険性のあるものを貯蔵する建築物、公害発生の危険のある建築物等を「特殊建築物」といい、特別な規制がされている。

なお、一般の住宅でも、共同住宅(マンションを含む)は特殊建築物に分類される。


(3) 建築設備

建築物に設ける電気、ガス、給水、排水、換気、暖房、冷房、消火、排煙もしくは汚物処理の設備または煙突、昇降機もしくは避雷針をいう。

 前の項で述べたように、基本的に屋根、柱、壁があって土地に定着していれば建築物だが、大昔と違って現在では、それだけでは利用するのに少々不便である。物を貯蔵しておくにしても、生活するにしても、風雨をしのげればそれだけで良しとすることはできない。やはり、物を貯蔵するなら空調設備くらいは必要であり、生活するには電気・ガス・水道などの設備がなければ困ることになる。そして、これらの設備は常に順調に利用できるものでなければならない。

 そこで、建築物には建築設備があることが当然だということで、建築物には建築設備も含むものとして建築基準法の規制をかけようということになっているのである。

 「建築物に設ける」とあるように、これらの設備が単体で建築設備として扱われるわけではなく、建築物に固定されたもので、例えば、電気であれば電線、ガスや水道であればその配管などが建築設備であることに注意。


(4) 居室

居住、執務、作業、集会、娯楽その他これらに類する目的のために継続的に使用する室をいう。

 建築基準法にいう「居室」とは、次のものである。居室は、人が継続して利用するものだからこそ、その環境の保全・維持に注意を払わなければならない。

 住宅の中では、居間、寝室、台所などが、そして住宅以外では事務所の事務室、工場の作業場などが居室にあたる。「人が継続的に使用する」とは、特定の人が継続的に使用することだけでなく、不特定多数の人が入れ替わりで継続的に使用する場合も含まれる。

 これに対して便所や浴室などは、人が日々使用するものであっても、その使用の仕方が一時的なものに過ぎず、継続的ということはできないので居室には含まれないのである。


(5) 主要構造部

壁、柱、床、はり、屋根または階段をいう。
ただし、建築物の構造上重要でない間仕切壁、間柱、付け柱、揚げ床、最下階の床、回り舞台の床、小ばり、ひさし、局部的な小階段、屋外階段その他これらに類する建築物の部分を除く。

 「主要構造部」という言葉をそのまま素直に読めば、建築物の構造上、その中心となる重要な部分といった意味となる。しかし、この言葉はもともと防火上の観点に着目して建築物の構造を見た場合の用語である。

 「構造上重要でない」という表現がされているが、ここでいう「構造上」とは、構造耐力の強度を意味するものではない。構造耐力上の問題とは無関係に、あくまで防火上の観点から「重要」かどうかが判断されるのである。

 よって、室ごとの用途が異なる場合にその区画として用いる壁や、居室と避難廊下の間の間仕切壁など、構造耐力上は重要な部分ということはできない壁でも、防火上重要な構造部分であれば、それは主要構造部に含まれるのである。


(6) 構造耐力上主要な部分

基礎、基礎ぐい、壁、柱、小屋組、土台、斜材(筋かい、方づえ、火打材その他これらに類するものをいう)、床版、屋根版または横架材(はり、けたその他これらに類するものをいう)で、建築物の自重もしくは積載荷重、積雪荷重、風圧、土圧もしくは水圧または地震その他の震動もしくは衝撃を支えるものをいう。

 前述した「主要構造部」とは異なり、防火上の観点ではなく、さまざまな圧力や震動、衝撃を支えることに着目したものが「構造耐力上主要な部分」である。

 わが国は地震が多い上、地域によっては積雪や台風などの影響で建築物が倒壊することもあり得るため、建築物はそれらに耐えられるほど強くなければならない。また、建築物自体の重さ(自重)や、内部に持ち込まれる物品や人の重さ(積載荷重)にも耐えられる強度が要求される。建築基準法は、「建築物は、自重、積載荷重、積雪、風圧、土圧および水圧ならびに地震その他の震動および衝撃に対して」安全な構造でなければならないと定めており、これを受けて、構造耐力上主要な部分が定められている。


(7) 建築

 建築という用語は一般的にもよく使われる。その際は、いわゆる新築、増築、改築の意味で使われる場合がほとんどであろう。建築基準法ではそこにさらに意味が加わっている。

建築物を新築し、増築し、改築し、または移転することをいう。

上記の4つの言葉の意味を順に検討してみよう。


① 新築

 新築とは、何も建築されていない土地(更地)に、新しく建築物を作ること、つまり、建てることをいう。そのため、ある土地にあった建築物を取り壊して、その材料を使って別な土地(更地)に建築物を建てることも新築にあたる。④の移転との違いに注意が必要。


② 増築

 すでに建築物が存在している土地上で、その建築物を取り壊すことなく手を加えて、床面積を増加させる行為をいう。


③ 改築

 すでに建築物が存在している土地上で、その土地上の建築物の全部または一部を取り壊し、取り壊した建築物と規模、構造、用途がほぼ同様の建築物を建てることをいう。


④ 移転

 すでに建築物が存在している土地上で、すでに建っている建築物の所在場所・位置を変更することをいう。①の解説で述べたように、移転はあくまで「同一敷地内で」行うことが前提。すでにある建築物を別の土地に移設することは「新築」にあたるので、注意が必要である。


(8) 大規模の修繕・大規模の模様替

 大規模な建築物について大規模の修繕や大規模の模様替を行う場合には、その防火性能が変わる可能性があるため、改めて「建築確認」(次節で学習)を受けなければならない。


① 大規模の修繕

建築物の主要構造部の1種以上について行う過半の修繕をいう。

 修繕とは、経年劣化した建築物の部分について、既存のものとおおむね同じ位置に、おおむね同じ材料、形状、寸法のものを用いて原状回復することをいう。


② 大規模の模様替

建築物の主要構造部の1種以上について行う過半の模様替をいう。

  模様替とは、建築物の構造、規模、機能の同一性を損なわない範囲で改造することをいう。模様替は、一般的に原状回復は目的とせず、性能の向上を図ることを目的とする。

(9) 用途変更

 「用途」とは使い方のことであり、建築物の用途変更とは、建築物の使い方を変更することである。例えば、共同住宅を下宿に変更したり、百貨店をスーパーマーケットに変更したり、また、倉庫を体育館に変更する場合などは用途変更にあたる。

 建築基準法は、建築物の用途が何であるかによって、避難施設の設置や構造強度の確保等について異なる規制をしている。そのため、用途の変更があった場合には、新しい用途に応じた規制を受けなければならないのである。

用途の変更があったにもかかわらず何のチェックもしないのであれば、まず規制の緩い用途で建築物を建築し、その後こっそり規制の厳しい用途に変更するなどの脱法行為が行われる可能性がある。

 そこで、大規模な特殊建築物については建築物自体には手を加えない場合でも、用途を変更する際に建築確認を受けることが義務付けられている。ただし、特に規制内容に変更がない類似の用途変更の場合には、建築確認は必要ない(後述)。


(10) 建築主

建築物に関する工事の請負契約の注文者または請負契約によらないで自らその工事をする者をいう。


(11) 特定行政庁

建築主事を置く市町村の区域については当該市町村の長をいい、その他の市町村の区域については都道府県知事をいう。

 建築主事は、建築確認に関する事務を担当する都道府県または市町村の職員である。都道府県と一定の市町村に置かれている。