• 憲法ー8.国務請求権(受益権)
  • 4.国家賠償請求権
  • 国家賠償請求権
  • Sec.1

1国家賠償請求権

堀川 寿和2022/03/14 15:02

国家賠償請求権の意義

 国家賠償請求権は、広く公務員の不法行為に基づく損害について、国家に対し賠償を求める権利である。なお、国家の適法行為による損害については293項、40条による補償が認められる。

 

cf. 旧憲法下では、『国家無答責の原則』により、憲法はもとより法律にも国家賠償に関する規定はなく、国家の私経済的な活動の分野で、民法上の損害賠償請求が認められていたにすぎなかった。

国家賠償請求権の性格と内容

(1) 17条の法的性格

 17条の法的性格については争いがあるが、これをプログラム規定と解し、同条を実施する法律によって初めて具体的な賠償請求権が発生するとするのが、判例(下級審)・通説の見解である。

cf. 17条を具体化する法律として、1947年(昭和22年)に国家賠償法が制定された。

 

(2) 国の不法行為責任の性格

 公務員の不法行為に基づく国の賠償責任の性格については、国自身が負担すべき直接の責任なのか(自己責任)、公務員の民事責任を国が肩代わりするもの(代位責任)なのか争いがあるが、通説は代位責任と解している。また賠償責任を負うのは「国又は公共団体」であり、公務員自身は「被害者に対しては直接の賠償責任を負わないものとされる。ただし、公務員に故意・重過失があった場合、国または公共団体は公務員に対して求償することができる(国賠法1条)。

 

(3) 『何人も』の意味

 公務員の不法行為によって損害を受けた者を意味する。外国人については、国賠法6条は、「相互の保証があるときに限り」賠償請求を認めると規定し、相互保証主義を採用している。

 

(4) 『不法行為』の意味

 17条にいう『不法行為』は、①人の行為による場合(国賠法1条)であっても、②物の瑕疵による場合(国賠法2条)であってもよい。

 

(5) 『公務員』の意味

 17条、国家賠償法1条の『公務員』の範囲について、国会議員や内閣の構成員が含まれることはほぼ争いがない。裁判官が含まれるかについては争いがあるが、含まれるとするのが判例・通説である。

【裁判官のなす職務上の行為には一般に国家賠償法の適用があり、裁判官の行う裁判についても、その本質に由来する制約はあるが、本法の適用が当然に排除されるものではない】(最判S43.3.15

 

(6) 『公権力の行使』の意味

 公権力の行使に、国会の立法行為や立法不作為が含まれるかが問題となる。下級審では含まれるとした例があるが、最高裁は、国会の立法行為や立法不作為は原則として国家賠償法上の違法の問題を生じさせないとして、実際上その追及の途を封じている。

 

判例

在宅投票制度事件(最判S60.11.21

 

寝たきりの状態にあった原告は、在宅投票制度を廃止したまま復活しないことは、国会議員による違法な公権力の行使にあたり、それによって選挙権を行使することができず、精神的苦痛を受けたとして国家賠償を請求した。

 

《争点》

国会議員の立法行為(不作為)は国家賠償の対象となるか?

《判旨》

立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにも関わらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定しがたいような例外的な場合でない限り、国家賠償法11項の規定の適用上違法の評価を受けない。

     

 

 

(7) 立法による賠償責任の制限

 個別の立法によって、国家賠償請求権が制限されているものの合憲性については、郵便法の規定について、最高裁が違憲と判断した。

 

判例

郵便法違憲事件(最大判H14.9.11

 

郵便法68条及び73条のうち書留郵便物について、故意または重過失による不法行為に基づく国の損害賠償責任を免除し又は制限している部分、及び、特別送達郵便物について、国家賠償法に基づく国の損害賠償責任(軽過失を含む)を免除し又は制限している部分が、憲法17条に違反しているのではないかが問題となった事件。

 

   

《争点》

郵便物に関する損害賠償に対象及び範囲に限定を加えている郵便法68条及び73条は憲法17条に反し、違憲か?

《判旨》

(最高裁は、郵便物に関する損害賠償に対象及び範囲に限定を加えている郵便法68条及び73条の立法目的を正当なものとしながら、次のように判示した)

書留郵便物について、郵便業務従事者の故意又は重過失による不法行為に基づき損害が生ずるようなことは、ごく例外的な場合にとどまるはずであり、このような例外的な場合にまで国の損害賠償責任を免除し、又は制限する規定に合理性があるとは認め難い。以上によれば、(郵便)法68条、73条の規定は、憲法17条が立法府に付与した裁量の範囲を逸脱したものであるといわざるを得ず、同条に違反し、無効である。

特別送達郵便物は、書留郵便物全体のうちのごく一部にとどまることがうかがわれる上に、書留料金に加えた特別の料金が必要とされている。また、裁判関係の書類についていえば、特別送達郵便物の差出人は送達事務取扱者である裁判所書記官であり、その適正かつ確実な送達に直接の利害関係を有する訴訟当事者等は自らかかわることのできる他の送付の手段を全く有していないという特殊性がある。これら特別送達郵便物の特殊性に照らすと、特別送達郵便物については、郵便業務従事者の軽過失による不法行為から生じた損害の賠償責任を肯定したからといって、直ちに、(『郵便の役務をなるべく安い料金で、あまねく、公平に提供することによって、公共の福祉を増進する』という郵便法1条の)目的の達成が害されるということはできず、(郵便法68条、73条)に規定する免責又は責任制限に合理性、必要性があるということは困難であり、そのような免責又は責任制限の規定を設けたことは、憲法17条が立法府に付与した裁量の範囲を逸脱したものであるといわなければならない。

そうすると、(郵便)法68条、73条の規定のうち、特別送達郵便物について、郵便業務従事者の軽過失による不法行為に基づき損害が生じた場合に、国家賠償法に基づく国の損害賠償責任を免責し、又は制限している部分は、憲法17条に違反し、無効であるというべきである。