- 刑法(各論)ー12.国家の作用に対する罪
- 4.犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪
- 犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪
- Sec.1
1犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪
■犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪
(1) 意義
犯人蔵匿及び証拠隠滅の罪は、国家の刑朿司法作用を妨げる犯罪である。次のとおり分類される。
① 犯人蔵匿罪(刑法103条)
② 証拠隠滅罪(刑法104条)
③ 証人威迫罪(刑法105条の2)
(2) 犯人蔵匿罪(刑法103条)
刑法103条(犯人蔵匿等)
罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
① 構成要件
罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させることである。
a) 主体
犯人又は逃走者以外の者である。
b) 客体
罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者である。ここでいう罰金以上の刑に当たる罪とは、法定刑として、罰金以上の刑が規定されている犯罪をさす。したがって、侮辱罪を犯した者を匿ったとしても、本罪は成立しない。侮辱罪の法定刑は拘留又は科料のみであるからである。
判例 |
(最S24.8.9) |
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罪を犯した者とはたとえ真犯人でなくても被疑者として捜査中の者や訴追されている者も含まれる。 |
⇒ 保護法益である国家の司法作用を妨げる点ではかわりないからである。
判例 |
(最S28.10.2) |
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捜査開始前であっても、罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた場合、本罪が成立する。 |
c) 行為
蔵匿又は隠避することである。「蔵匿」とは、官憲による発見・逮捕を免れるべき場所を提供して犯人をかくまうことをさす。(大T4.12.16)「隠避」とは、蔵匿以外の方法で官憲の発見・逮捕を妨げる一切の行為をさす。(大S 5. 9.18)例えば、旅費や変装用の衣服を与える行為のほか、逃げ道を教えたり、身代わり自首する行為等もすベて隠避である。
判例 |
(最H1.5.1) |
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すでに逮捕されている犯人の身代わりに自首する行為も隠避にあたる。 |
② 刑罰
3年以下の懲役又は30万円以下の罰金。親族についての特例(刑法105条)あり。
(3) 証拠隠滅罪(刑法104条)
刑法104条(証拠隠滅等)
他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造もしくは変造し、又は偽造•変造の証拠を使用した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
① 構成要件
他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造もしくは変造し、又は偽造•変造の証拠を使用することである。
a) 主体
当該刑事事件の被告人又は被疑者以外の者である。
b) 客体
他人の刑事事件に関する証拠である。
c) 行為
証拠を隠滅し、偽造もしくは変造し、又は偽造•変造の証拠を使用することである。
例えば、犯人に不利益な証人を遠方に連れ去り、出頭できないようにした場合は証拠隠滅罪である。
犯人蔵匿罪のような「罰金以上の刑に当たる」といった限定はないことから、罰金以下の刑に当たる証拠を隠滅した場合も本罪が成立する。
② 刑罰
3年以下の懲役又は30万円以下の罰金。親族についての特例(刑法105条)あり。
(4) 親族についての特例(刑法105条)
刑法105条(親族による犯罪に関する特例)
前2条の罪については、犯人又は逃走した者の親族がこれらの者の利益のために犯したときは、その刑を免除することができる。
① 刑の任意的免除
犯人蔵匿罪、証拠隠滅罪は、犯人・逃走者の親族が犯人・逃走者の利益のために犯したときは、その刑を免除することができる。(刑法105条)刑を免除することができるが犯罪としては成立する点に注意。
② 犯人自身が蔵匿・隠避・証拠隠滅の教唆をした場合
犯人又は逃走者が他人を教唆して自己を蔵匿・隠避させ、又は自己の刑事事件に関する証拠を隠滅させた場合、これら犯罪の教唆犯が成立するかについて、判例は、教唆犯の成立を認めている。
隠避罪につき(大S8.10.18)、証拠隠滅罪につき(大M45.1.15)