- 刑法(各論)ー12.国家の作用に対する罪
- 2.公務の執行を妨害する罪
- 公務の執行を妨害する罪
- Sec.1
1公務の執行を妨害する罪
■意義
公務の執行を妨害する罪は国家機関の公権力の行使を妨害することにより、国家の機能を害する罪である。
さらに次のように分類される。
① 公務執行妨害罪(刑法95条1項)
② 職務強要罪・辞職強要罪(刑法95条2項)
③ 封印破棄罪(刑法96条)
④ 強制執行妨害目的財産損壊罪(刑法96条の2)
⑤ 強制執行行為妨害罪(刑法96条の3)
⑥ 強制執行関係売却妨害罪(刑法96条の4)
⑦ 加重封印等破棄等罪(刑法96条の5)
⑧ 公契約関係競売入札妨害罪(刑法96条の6第1項)
⑨ 談合罪(刑法96条の6第2項)
■公務執行妨害罪(刑法95条1項)
刑法95条(公務執行妨害)
1.公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、3年以下の懲役もしくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
国家の作用は公務員によって担われるのが通常であることから、公務員による公務の執行を妨害する行為を処罰することによって国家作用たる公務を保護しようとしたものである。なお、暴行・脅迫が加えられるのは公務員であるが、保護法益はあくまで公務である。
(1) 構成要件
公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えることである。
① 主体
限定なし。必ずしも公務員の職務執行の対象となっている者に限らず、それと無関係な第三者でも主体となり得る。
② 客体
公務員である。ここでいう公務員とは、国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員、その他の職員をさすとされる。外国の公務員は本罪の客体とはならないため、例えば、日本国内で職務を遂行中の外国の外交官に対して故意に暴行又は脅迫を加えたとしても公務執行妨害罪は成立しない。
③ 行為
公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行・脅迫を加えることである。
本罪は公務員が職務を執行するに当たり暴行・脅迫が加えられることが必要である。
ここでいう「職務を執行するに当たり」とは、職務の「執行に際して」の意味であり、現に執行中の場合はもちろん、執行直前の状態も含まれる。(大M42. 4.26)職務執行が完全に終了した時は含まれない。(東京高S33. 6.26)なお、本罪によって保護される職務は適法なものでなければならない。
判例 |
(大阪高S53.12.15) |
|
|
起番及び休憩の交代制で警察官の当直勤務が実施される場合において、休憩をとっていた警察官は、職務の執行中であるとはいえない。 |
⇒ これに対し、警ら中にたまたま他人と雑談を交わした警察官は、原則として、職務の執行中であるといえる。(東京高S30. 8.18)
判例 |
(最決 H1.3.10) |
|
|
職務を執行するにあたり、県議会委員会委員長が委員会において、昼食のため休憩を宣するとともに審議の打ち切りを告げて委員会室から退出しようとしたところ、陳情者が審讓の打ち切りに抗議し、同委員長を引きとめるべくその右腕等をつかんで引っ張る等の暴行を加えた場合、同委員長は休憩宣言により職務の執行を終えたものではなく、休憩宣言後もその職責に基づき、委員会の秩序を保持し、右紛議に対処するための職務を現に執行していたものであるから、右暴行は公務執行妨害罪にあたる。 |
本罪の手段は、暴行・脅迫に限られる。したがって例えば、池袋駅構内に爆弾をしかけたとの偽電話を警察署にかけて多数の警察官を出動させても、本罪は成立しない。手段が偽計であり、暴行・脅迫がないからである。
(イ)暴行の意義
暴行はいわゆる「広義の暴行」あることから、公務員の身体に直接加えられる必要はなく、直接的には物に加えられた暴行でも、公務員の身体に対し物理的に感応する場合でよい。(間接暴行)例えば、職務執行中の警察官の耳元で空き缶を数回激しくたたいて大きな音を出す行為も暴行にあたるので公務執行妨害が成立する。公務員の補助者に加えられた場合でもよい。
判例 |
(最S34.8.27) |
|
|
覚せい剤取締法違反の現行犯逮捕現場で、司法巡査に証拠物として差し押さえられた覚せい剤注射液入りアンプルを踏みつけて破壊する行為は、本罪における暴行に当たる。 |
判例 |
(最S33.9.30) |
|
|
投石行為が命中しなかった場合でも相手方の行動を阻害すべき性質のものであるから、一回の瞬間的なものでも「暴行」に当たり、公務執行妨害が成立する。 |
(ロ)暴行の内容
暴行・脅迫は公務員に対して向けられたものでなければならない。したがって例えば、警察官が強盗犯人を現行犯逮捕しようとしたところ、持っていた日本刀を喉にあてて「こっちに来ると死ぬぞ」と大声で叫び、警察官がひるんだすきに逃げても、公務執行妨害罪は成立しない。暴行が公務員に向けられていないからである。
(ハ)暴行・脅迫の程度
本条の暴行・脅迫は、公務員の職務の執行を妨害するに足る程度のものでなければならない。
(2) 既遂時期
暴行・脅迫が加えられたことによりただちに既遂に達する。妨害の結果が生じたことは必要ではない。(大T6.12.20 抽象的危険犯)
(3) 故意
相手方が公務員であること及びその職務を執行するに当たってこれに暴行・脅迫を加えることの認識が必要である。したがって例えば、薬物犯罪を取り締まるために、張り込み中の私服警察官を変質者と誤解して、その者に暴行を加えても公務執行妨害罪は成立しない。公務員たることの認識がなく、故意がないからである。
判例 |
(最S53.6.29) |
|
|
当該公務員が職務執行中であることの認識は必要であるが、具体的にいかなる内容の職務であるかの認識は要しない。 |
(4) 刑罰
3年以下の懲役もしくは禁錮又は50万円以下の罰金。
(5) 罪数
本罪の保護法益は公務であることから1つの公務を共同執行している数人の公務員に対し暴行・脅迫を加えても一罪にすぎない。
(6) 職務執行の適法性
本罪によって保護される職務は適法なものでなければならない。適法であるためには次の要件が必要である。
① 行為が当該公務員の抽象的(一般的)職務権限に属すること
② 当該公務員がその職務行為を行う具体的職務権限を有すること
③ その行為が法律上重要な条件・方式を踏んでいること
例えば、令状が必要なのにそれがない場合は、重要な条件・方式を備えない不適法な職務であることから、本罪は成立しない。