- 刑法(各論)ー9.風俗に対する罪
- 2.わいせつ及び重婚の罪
- わいせつ及び重婚の罪
- Sec.1
1わいせつ及び重婚の罪
■公然わいせつ罪(刑法174条)
刑法174条(公然わいせつ)
公然とわいせつな行為をした者は、6月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金もしくは拘留もしくは科料に処する。
(1) 構成要件
① 主体
限定なし。
② 行為
公然とわいせつな行為をすること。
「公然」とは、不特定又は多数が認識しうる状態をいい、現に不特定又は多数人に認識されたことは必要なく、その可能性があれば足りる。
「わいせつ」とは、判例(最S26.5.10)によると、いたずらに性欲を興奮させ、又は刺激し、かつ普通人の正常な羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為であるとする。わいせつ行為か否かは社会通念により判断される。
(2) 刑罰
6月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金もしくは拘留もしくは科料。
判例 |
(大M43.11.17) |
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強制わいせつ行為を公然と行ったときは、強制わいせつ罪と公然わいせつ罪の観念的競合となる。 |
■わいせつ物頒布・公然陳列罪(刑法175条)
刑法174条(わいせつ物頒布等)
1.わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役もしくは250万円以下の罰金もしくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
2.有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。
(1) 構成要件
わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布すること又は公然とこれを陳列することである。
① 主体
限定なし
② 客体
わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物である。判例(最S45.4.7)によると、英文文書も、その読者たる英語の読める日本人及び在日外国人の平均人を基準としてわいせつ性があるとされるとわいせつ文書となる。
わいせつの概念は、強制わいせつ罪と同様に、いたずらに性欲を興奮させ、又は刺激し、かつ普通人の正常な羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為であるとする。
わいせつ図画とは、絵画、映画、写真等をさす。その他の物の例としては、彫刻(東京高S29.11.12)、置き物、録音テープ(東京高S46. 12.23)等をいう。
芸術作品がわいせつ物に当たるか否かについて、文書のわいせつ性と芸術性・思想性とは次元を異にし、芸術的・思想的価値の高い作品であっても刑法上わいせつ文書とすることができる。(チャタレイ判決最大S44.10.15、マルキ・ド・サド悪徳の栄え事件 最S55.11.28四畳半襖の下張事件等)
③ 行為
わいせつ物を頒布(電磁的記録の電気通信の送信による方法を含む)、公然と陳列する、又は有償で頒布する目的をもって所持もしくは電磁的記録の保管を行うことである。
(イ)頒布
頒布とは、不特定又は多数人に交付すること(電磁的記録の場合には、それらの者の記録媒体に電磁的記録を存在させること)をいう。
(ロ)公然陳列
公然陳列とは、不特定又は多数人の認識できる状態におくことをいう。外部との交通を遮断した部屋で数人の観客にわいせつ映画を閲覧させた場合、その数名が不特定人であるときは、公然陳列罪に該当する。
判例 |
(大阪地H3.12.2) |
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いわゆる「ダイヤルQ2」回線を利用したアダルト番組の再生行為は公然陳列に該当する。 |
⇒ 誰でも、いつでも所定の電話番号にかけることによって録音内容を聞くことができる状態にしたからである。
(ハ)所持
所持とは、わいせつ物を自己の事実上の支配下におくことをいう。現に握持している必要はない。
所持は有償で頒布する目的でなされる場合にのみ犯罪となる。(刑法175条2項)
判例 |
(最S52.12.22) |
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有償頒布(販売)の目的は日本国内で有償頒布(販売)する目的をさし、国外で有償頒布(販売)する目的を含まない。 |
⇒ 本罪は日本国内における国民の性風俗の保護が目的だからである。
判例 |
(最決H18.5.16) |
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わいせつ画像データを記録した光磁気ディスクを製造・所持した場合、それが同データを記録したハードディスクから販売用コンパクトディスクを作成する際に備えたバックアップのためであったとしても、わいせつ物販売目的所持罪が成立する。 |
(2) 刑罰
2年以下の懲役もしくは250万円以下の罰金もしくは科料に処し、又は懲役および罰金を併科する。
■重婚罪(刑法184条)
刑法184条(重婚)
公然とわいせつな行為をした者は、6月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金もしくは拘留もしくは科料に処する。
(1) 構成要件
配偶者のある者が重ねて婚姻をすることである。その相手方となって婚姻した者も同様である。
① 主体
(イ)配偶者のある者
法律上の婚姻関係にある者を指し、事実婚は含まれないとされる。(通説)
(ロ)相手方となった者
相手方に配偶者があることを知りながら、これと婚姻した者をいう。
② 行為
重ねて婚姻することである。ここでいう婚姻も、法律上の婚姻をさし、事実上のものは含まない。(通説)。
(2) 刑罰
2年以下の懲役。その相手方も同様に処罰される。