- 刑法(各論)ー8.公共の信用に対する罪
- 3.有価証券偽造の罪
- 有価証券偽造の罪
- Sec.1
1有価証券偽造の罪
■意義
(1) 趣旨
有価証券は権利・義務に関する文書の一種であることから、これを偽造することは本来、文書偽造罪となるはずであるが、有価証券が経済取引上特に重要な作用を果たすものであることから、これを公文書偽造よりは軽く私文書偽造よりは重く処罰する。
(2) 種類
① 有価証券偽造・変造・虚偽記入罪(刑法162条1項2項) ② 虚偽有価証券行使・交付・輸入罪(刑法162条3項) |
(3) 保護法益
有価証券偽造の罪の保護法益は有価証券に対する公共の信用である。
■有価証券偽造・変造・虚偽記入罪(刑法162条1項2項)
刑法162条(有価証券偽造等)
1.行使の目的で、公債証券、官庁の証券、会社の株券その他有価証券を偽造し、又は変造した者は、3月以下10年以下の懲役に処する。
2.行使の目的で、有価証券に虚偽の記入をした者も、前項と同様とする。
(1) 構成要件
行使の目的で有価証券を偽造・変造すること(1項)、行使の目的で有価証券に虚偽の記入をすること(2項)である。
① 主体
限定なし。
② 客体
公債証券、官庁の証券、会社の株券その他の有価証券である。
③ 行為
行使の目的をもって有価証券を偽造又は変造し、又は虚偽の記入をなすことである。
偽造とは、作成権限のない者が、他人の作成名義を冒用して有価証券を作成することをいい、変造とは、権限がないのに真正な他人名義の有価証券に変更を加えることをいう。冒用された名義人は実在する必要がなく、架空人名義でも成立する。(最S30.5.25)虚偽記入とは、有価証券に真実に反する記載をする一切の行為をさす。自己名義でも他人名義でもよい。(最S32.1.17)
④ 行使の目的
真正な有価証券として使用する目的が必要であることから、目的犯である。
(2) 刑罰
3月以下10年以下の懲役。
■虚偽有価証券行使・交付・輸入罪(刑法163条)
刑法163条(偽造有価証券行使等)
1.偽造もしくは変造の有価証券又は虚偽の記入がある有価証券を行使し、又は行使の目的で人に交付し、もしくは輸入した者は、3月以下10年以下の懲役に処する。
2.前項の罪の未遂は、罰する。
(1) 構成要件
偽造・変造・虚偽記入の有価証券を行使し、又は行使の目的をもってこれを人に交付し、もしくは輸入することである。
① 主体
限定なし。
② 客体
偽造・変造・虚偽記入した有価証券である。
③ 行為
(イ)行使
真正な有価証券として使用することである。必ずしも流通に置く必要はない。
例えば、偽造した手形を銀行員に提示し手形の割引を受けようとする行為は、偽造有価証券行使となる。これに対して、単に保管を依頼して情を知らない者に交付したにすぎない場合は真正なものとして使用したとはいえず、偽造有価証券行使罪に当たらない。
(ロ)交付
行使の目的をもって情を明かし、又はあらかじめ情を知っている者に交付することである。
(ハ)輸入
行使の目的をもって国外より我国内へ陸揚げすることである。(大M40.9.27)
(2) 刑罰
3月以下10年以下の懲役。未遂の処罰規定あり。(刑法163条2項)
(3) 罪数
有価証券偽造・変造・虚偽記入と虚偽有価証券行使・交付・輸入罪とは牽連犯である。(大M42.2.23)また、行使を手段として人を欺罔し財物を騙取した場合、虚偽有価証券行使・交付・輸入罪と詐欺罪とは牽連犯となる。(大T3.10.19)