- 刑法(各論)ー6.財産に対する罪
- 12.背任の罪
- 背任の罪
- Sec.1
1背任の罪
■背任の罪
刑法247条(背任)
他人のためにその事務を処理する者が、自己もしくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
(1) 構成要件
他人のためにその事務を処理する者が、自己もしくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えることである。
① 主体
他人のためにその事務を処理する者である。(身分犯)ここでいう事務とは、財産上の事務をさす。
自己の事務を処理する者は、ここでいう事務を処理する者に含まれない。
判例 |
(最S31.12.7) |
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抵当権設定者が抵当権設定登記に協力すべき義務は、抵当権者のための他人の事務であり、それを怠って第三者に更に抵当権を設定して登記することは、1番抵当権者に対する関係で背任罪となる。 |
cf 売買契約に基づき、売主が買主に目的物を引き渡す事務は、他人のためであっても、自己の事務であることから、これを怠っても単なる債務不履行に止まり、背任罪にはならない。
② 行為
任務に背いた行為をして、本人に財産上の損害を加えることである。任務違背行為の典型が不正貸付行為である。銀行員などが無担保もしくは十分な担保なしに貸し付ける行為は任務違背となる。ただし、銀行の支店長の場合、担保評価につき栽量権があり、その裁量の範囲内であれば不適切な貸付でも任務違背といえない。(最S 38. 3.28)栽量権の範囲を超えて権限を濫用したといえる場合に初めて背任となる
他人の事務を処理する者が自己の占有する他人の物を処分した場合、その処分が行為者の権限の範囲内で行われたときには背任罪が成立し、権限を越えて行われたときには横領罪が成立する。
③ 財産上の損害
背任罪が成立するためには、背任行為の結果、本人に財産上の損害が加えられたことが必要である。
(2) 故意
自己の行為が任務に背くものであること及びそれによって本人に財産上の損害を加えることについての認識が必要である。
(3) 目的(図利・加害の目的)
背任罪は、目的犯であることから、故意のほかに次のいずれかの目的が必要である。
① 自己又は第三者の利益を図る目的(図利の目的) ② 本人に損害を加える目的(加害の目的) |
それゆえ、本人の利益を図る目的で行為したときは、たとえ任務に違背したことによって本人に損害を加えても背任罪は成立しない。
(4) 実行の着手時期
任務違背行為に着手した時点が、実行の着手時期となる。
(5) 既遂時期
財産上の損害が発生した時点で既遂となる。したがって、本人に財産上の損害が発生していなければ未遂にとどまる。
(6) 刑罰
5年以下の懲役又は50万円以下の罰金。未遂の処罰規定あり。cf 横領罪
背任未遂罪は背任行為に着手したが、本人に財産上の損害が生じなかった場合に認められる。(大S7.10. 31)
(7) 罪数
背任罪も横領罪も共に他人の信頼に背いて財産的損害を与える点で共通性を有するが、横領行為には背任行為が含まれていることから、1個の行為について両罪が成立することはなく、横領罪が成立するときには、背任罪は成立しない。(大M45. 6.17)法条競合の関係に立つ。