- 刑法(各論)ー6.財産に対する罪
- 11.横領の罪
- 横領の罪
- Sec.1
1横領の罪
■単純横領罪(刑法252条)
刑法252条(横領)
1.自己の占有する他人の物を横領した者は、5年以下の懲役に処する。
2.自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた場合において、これを横領した者も、前項と同様とする。
(1) 構成要件
自己の占有する他人の物又は公務所から保管を命ぜられた自己の物を横領すること。
① 主体
(イ)1項
他人の物の占有者である。(身分犯)
(ロ)2項
公務所から保管を命ぜられた自己の物の占有者である。(身分犯)
② 客体
(イ)1項
自己の占有する他人の物。物とは財物のことであって、動産・不動産を問わない。
(ロ)2項
公務所から保管を命ぜられた自己の物。例えば、執行官から保管を命ぜられた自己の物がこれに当たる。
判例 |
(最S30.12.26) |
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登記済不動産の登記上の所有名義人はその占有者である。 |
⇒ 例えば、真の所有者でないにもかかわらず、架空の登記名義を有する者は、第三者に処分し得ることから、当該不動産の占有者となる。
前記の事例で、CがAと共に横領罪の共犯となるか否かについて、
a) Cが単純悪意の場合
Cは横領罪の共同正犯にも教唆犯にもならないとするのが判例である。(最S31.6.26)
b) Cが背信的悪意者の場合
Cの関与の度合いによっては、横領罪の共同正犯もしくは教唆犯となるとするのが判例である。(福岡高S47.11.22)
判例 |
(大M42.4.2) |
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仮想売買により登記上の所有名義を有するに至った者は、当該不動産を処分しうる状態にあることから、その不動産の占有者である。 |
⇒ したがって、自己に登記名義があることに乗じて、他人の不動産を売却したり、担保を設定する行為は横領罪となる。
(ハ)共有物
共有物も他人の物にあたる。
a) 共有物を単独で管理する場合
共有物を単独で管理する者が他の共有者に無断で売却した場合、横領罪が成立する。(最S30.4.5)
自己の占有下にある他人の物といえるからである。
b) 共有物を共同で管理する場合
共同占有下にある共有物を他の共有者に無断で売却した場合、窃盗罪が成立する。他人の占有を奪うことになるからである。
(ニ)委託に基づく占有
横領罪における占有は、委託信任関係に基づくものでなければならない。委託は契約によるのが通常であるが、事務管理、慣習、条理に基づくものでもよい。
したがって、乗り捨てられた自転車を乗り回す行為は、委託信任関係が認められず横領罪ではなく、後述する遺失物(占有離脱物)横領罪が成立することになる。
判例 |
(大M43.4.15) |
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AはB所有の未登記建物を自己の建物と偽って勝手に自己名義に保存登記をし、1か月後にこれをCに売却し、その旨の移転登記をしたとしても、横領罪は成立しない。委託信任関係が存在しないからである。 |
⇒ これに対して、AはBから依頼されて、B所有の未登記建物をBの同意の下に使用支配していたところ、その建物につき自己名義で所有権保存登記をした場合、Aに横領罪が成立する。
(ホ)不法原因給付と横領罪
例えば、XがZに対して交付する予定の贈賄資金をYに預けたところ、Yが預かった金銭を費消したような場合、不法原因給付(民法708条)となり、Xは原則としてYに返還を請求することができない。では、この場合、Yに横領罪が成立するのか否かについて、判例は給付者に返還請求が認められなくても、所有権まで失ったことにはならないことから、受託者にとって給付された物は「自己の占有する他人の物」であり、預かった金銭を着服する行為は、横領罪になるとする。
判例 |
(大M43.7.5) |
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賄賂資金を費消した場合、横領罪が成立する。 |
③ 行為
横領することである。横領するとは、「不法領得の意思の発現とみられるすべての行為をさし、判例(S28.12.25)によると「不法領得の意思」とは、他人の物の占有者が委託の趣旨に背いて、その物につき権限がないにもかかわらず、所有者でなければできない処分をする意思をさす
(イ)法律上の処分行為
自己の占有する他人の物を無断で売却、贈与、賃貸、抵当権等の担保を設定する場合がこれにあたる。
仮に引渡しをしていなくても売買契約等を締結したら横領罪が成立する。
(ロ)事実上の処分行為
自己の占有する他人の物を無断で費消、着服、拐帯、隠匿等すること。
(ハ)民事訴訟の提起
自己の占有する他人の物について、不当に自己の物だと主張して民事訴訟を提起することも横領に当たる。
(ニ)欺罔行為と横領
横領するために欺罔手段を用いた場合は、横領罪が成立するのみで別途詐欺罪は成立しない。
例えば、借りている物を返すのが惜しくなり、泥棒に盗まれたと嘘をついて返さなかったような場合、横領罪のみが成立し、詐欺罪にはならない。
(2) 実行の着手と既遂時期
横領行為の開始が実行の着手であり、それによって既遂となる。したがって、横領行為が開始されるとその完了を待たずに既遂となる。(大M43.12.2)
判例 |
(大T2.6.12) |
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動産の売却については、行為者がその占有する他人の物を第三者に売却しようとしてその申込みをすれば、相手方の買受の意思表示がなくても横領罪は既遂となる。 |
(3) 故意
自己の占有する他人の物又は公務所から保管を命ぜられた自己の物を横領することの認識及び不法領得の意思が必要である。
(4) 刑罰
5年以下の懲役。未遂の処罰規定なし。実行の着手によって即既遂となるからである。
■業務上横領罪(刑法253条)
刑法253条(業務上横領)
業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する。
(1) 構成要件
業務上自己の占有する他人の物を横領することである。本罪は、単純横領罪の加重類型である。
① 主体
他人の物を業務上占有する者である。ここでいう業務とは、社会生活上の地位に基づいて反復又は継続して行われる事務をさす。他人の委託に基づいてその物を保管占有することを内容とする業務に限る。業務外で占有している場合は含まれない。
② 客体
業務上、自己が占有する他人の物である。
コンビニの雇われ店長がオーナーに無断で店の商品を無断で持ち帰った場合、店長には商品に対する占有があるため、業務上横領罪が成立し得る。
cf コンビニのアルバイト店員が店の商品をオーナーに無断で店の商品を無断で持ち帰った場合
⇒ 窃盗罪となる。アルバイト店員には店の商品の対する占有権限はないからである。
③ 行為
横領すること、つまり不法領得の意思に基づき自己の支配下の置くことである。
研究開発に従事した技術者(業務上の占有者)が、その機密資料を複写して他社に売却する目的で許可なく持ち出す行為には、不法領得の意思が認められ、業務上横領罪を構成する。
cf 会社員が会社の機密資料を無断で社外に持ち出して転職先の会社に譲渡する意図でコピーを作成して約2時間後に原本を元の保管場所に戻した場合、不法領得の意思があるとして窃盗罪が成立する。
(2) 故意
業務上、自己占有している他人の物を横領することの認識及び不法領得の意思が必要である。つまり、本罪の故意には自己の占有する物が他人の所有物であることと、それを業務上占有していることの認識が必要である。
(3) 刑罰
10年以下の懲役。業務上占有物と、そうでない占有物とを混同して保管中これを横領した場合、業務上横領罪のみが成立し、単純横領罪はこれに吸収される。(大T3.2.12)
■遺失物(占有離脱物)横領罪(刑法254条)
刑法254条(遺失物等横領)
遺失物、漂流物その他の物を横領した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金もしくは科料に処する。
(1) 構成要件
① 主体
限定なし。
② 客体
占有を離れた他人の物である。例えば、遺失物や占有離脱物がこれに該当する。ただ遺失物、漂流物はその例示にすぎない。なお、所有者のない無主物は本罪の客体とならない。つまり、占有者の意思によらないでその占有を離れ、まだ誰の占有にも属していない物又は委託関係によらずに行為者の占有に帰した物である。
(イ)他人の支配の及ぶ場所内の遺失物の場合
忘れ物は、置き忘れた場所が他人の管理下にある場合は通常その者の占有に属し、遺失物(占有離脱物)とはならない。しかし一般人の出入りが頻繁な場所への忘れ物は管理者の排他的実力支配も不十分であることから遺失物となる。例えば、走行中の電車の網棚に置き忘れた荷物は、一般人の出入りが頻繁であるため遺失物(占有離脱物)であり、乗客がこれを持ち帰れば遺失物(占有離脱物)横領であるが、電車が車庫に入れば荷物の占有は鉄道会社に移るため、その後に車掌が持ち帰れば窃盗となる。
同様に人の出入りが頻繁である大型ホテルのロビーの忘れ物は遺失物(占有離脱物)であるが、人の出入りが頻繁とはいえない小さな旅館の忘れ物は旅館主の占有に移り、他の宿泊客がこれを盗めば窃盗罪となる。
判例 |
(最決S62.4.10) |
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ゴルフ場の池に落ちたまま放置されていたロストボールの占有は客がその所有権を放棄してもロストボールはゴルフ場の占有に帰属しかつゴノレフ場の管理者においてこれを占有しているものであり、無主物ではない。したがってこれを盗めば窃盗罪となる。 |
(ロ)自己の支配の及ぶ範囲内の忘れ物
置き忘れた物が占有者の支配の及ぶ範囲内にあるときは、まだその占有は失われないが、酩酊等により目的物の所在を失念したときは遺失物となる。例えば、百貨店の屋上で買い物した商品を置き忘れて、1階に下りた時点で気付いて取りに戻ったような場合、未だ占有は失われておらず、この商品を無断で持ち帰った者は窃盗罪となる。
③ 行為
横領すること、つまり不法領得の意思に基づき自己の支配下の置くことである。
(2) 故意
客体が遺失物(占有離脱物)であることを知りつつこれを横領することの認識及び不法領得の意思が必要である。
(3) 刑罰
1年以下の懲役又は10万円以下の罰金もしくは科料。