- 刑法(各論)ー6.財産に対する罪
- 9.詐欺の罪
- 詐欺の罪
- Sec.1
1詐欺の罪
■詐欺罪(刑法246条)
刑法246条(詐欺)
1.人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2.前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを取得させた者も、前項と同様とする。
(1) 構成要件
人を欺いて財物を交付させ、又は財産上不法の利益を得、又は他人にこれを取得させることである。
① 主体
限定なし。
② 客体
(イ)1項詐欺
他人の財物である。財物には不動産も含まれる。ただし、自己の財物でも、他人が占有し、又は公務所の命令により他人が看守するものであるときは、他人の財物とみなされる。(刑法251条、242条)民法上返還を請求できない不法原因給付(民法708条)であっても、刑法上は財物や財産上の利益にあたる。
判例 |
(最S32.1.31) |
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人を欺網して銀行の預金口座に振り込ませる場合、振込みによって所得した預金債権が財産上の利益にあたる。 |
判例 |
(最S25.7.4) |
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麻薬の密輪目的を明かしながら資金を騙し取る行為は、詐欺罪にあたる。 |
(ロ)2項詐欺(詐欺利得罪)
財産上不法の利益である。財産上の処分、労務の提供、意思表示等がある。例えば、債権者を騙して債務を免除させたり、支払いを猶予させたような場合である。
判例 |
(最S43.10.24) |
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詐欺賭博の方法により賭客となった者を欺網し,金員を支払うべき債務を負担させた場合、詐欺利得罪が成立する。 |
③ 行為
(イ)1項詐欺
人を欺いて(欺罔して)財物を交付させる(騙取)ことである。人を欺くとは人を錯誤に陥れることをさす。欺く行為の手段は、言語・挙動・作為・不作為を問わない。機械は錯誤に陥らない以上、これに対する行為は窃取行為にあたり、窃盜罪は成立するが、詐欺罪は成立しない。したがって、例えば、磁石を用いて、パチンコの外れ玉を当たり穴に誘導し、これにより勝ち玉を落下させてパチンコ玉を取得する行為は、欺く行為がないので、詐欺罪ではなく窃盗罪が成立する。また、係員がチケットの提示を求めて料金の支払いを確認しているコンサート会場に裏口から忍び込む行為は、欺く行為がないことから、詐欺罪は成立しない。また、例えば、AがBから自転車を借りていたが、自分のものにしたくなったため、Bに対して盗まれたとうそをついて自転車を返さなかった場合、詐欺罪ではなく横領罪が成立する。欺罔行為によって錯誤に陥れ財物を交付させたとはいえないからである。
(ex) つり銭詐欺
つり銭が多いことに気付いたが、つり銭が多いことを告げずに黙って受け取る行為は、不作為による欺く行為となることから、詐欺罪が成立する。
cf つり銭を受け取ってしばらくした後、つり銭が多いことに気付いたが、そのまま持ち去った場合は、不作為による欺く行為がないことから詐欺罪は成立しない。ただ、占有を離れた他人の物を横領したといえることから、占有離脱物横領罪(遺失物横領罪)が成立する。
判例 |
(最決H14.10.21) |
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他人になりすまして預金口座を開設し銀行の窓口の係員から預金通帳の交付を受けた行為について、預金通帳はそれ自体として所有権の対象となり得るものであるにとどまらず、これを利用して 預金の預入払戻しを受けられるなどの財産的な価値を有するものと認められるため他人名義で預金口座を開設しそれに伴って銀行から交付される場合であっても刑法246条1項の財物に当たるとする。よって当該行為は詐欺罪が成立する。 |
判例 |
(最H15.3.12) |
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銀行の預金口座に誤った振込みがあることを知った受取人が、それを銀行に告知せずに払戻しを受ける行為は、欺く行為といえることから、詐欺罪が成立する。 |
判例 |
(最S27.12.25) |
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旅券の交付は国家が単に渡航許可の資格につき証明を与えただけであり、実質的に財産的利益の移転を伴わず財産的損害が生じたとはいえないため、外務省の職員に内容虚偽の申立てをして旅券の交付を受ける行為は詐欺罪にはならず、旅券不実記載罪(刑法157条2項)が成立する。 |
(ロ)2項詐欺
人を欺いて財産上不法な利益を得、又は他人にこれを得させることである。(刑法246条2項)
(ex) 乗り逃げ
例えば、料金を踏み倒すつもりでタクシーに乗り、目的地についたところで運転手の隙をみて逃げ出した場合、代金支払意思がないのにそれがあるように装ってタクシーに乗車する行為が挙動による欺く行為となることから、詐欺利得罪が成立する。同様に、タクシーの運賃の支払いを求められた際に所持金がないことに気づき、運賃を支払う意思がないのに、「友人から金を借りてきてすぐに支払う」とうそをついて、その支払いを免れる行為は、欺く行為となり詐欺利得罪が成立する。
(ex) 食い逃げ
当初より代金支払いの意思を持たずに、飲食物の注文をして飲食物を詐取した場合、注文する行為が挙動による欺く行為となることから、詐欺罪が成立する。
cf 当初は代金支払いの意思があったが、飲食後にお金がないことに気が付いて逃走した場合、注文する行為に故意がないことから詐欺罪にあたらず、また逃走する行為も欺く行為とはいえないので、不可罰となる。
同様に、旅館を出る直前になって初めて宿泊代金を踏み倒そうと思い、逃走した場合、宿泊時には故意がないため詐欺罪は成立せず、また逃走する行為も欺く行為とはいえないことから不可罰となる。
判例 |
(福井地裁S56.8.31) |
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遠方の甲インターチェンジからではなく、近くの丙インターチェンジから有料道路を通行したように装い、丙インターチェンジからの通行券と乙丙間の通行料金を乙インターチェンジ出口の係員に差し出したAの行為は高速道路の通行についてキセル利用したことになるから詐欺罪が成立する。 |
(ハ)欺く行為と財産的処分行為
欺く行為は、相手方の財産的処分行為に向けられていることを要する。人を錯誤に陥れる行為であっても、それが相手方の財産的処分行為に向けられたものでなければならない。したがって、他人を欺いてその注意をそらして、そのすきに財物を奪う行為は、被害者の財産的処分行為に向けられた欺く行為がないことから、詐欺罪は成立せず、窃盗罪となる。
また、客を装い商品である衣類を試着したまま便所に行くと偽って逃走した場合も同様に、詐欺罪は成立せず、窃盗罪となる。いずれの場合も、相手に財物や利益を自ら処分させるような行為ではなく、単に相手方の意思に反して奪っているにすぎないからである。
(2) 実行の着手時期
財物や利益を処分させる目的で欺く行為が開始された時点で、実行の着手が認められる。欺く行為が存在しても、被害者がそれに気づいて錯誤に陥らなかった場合、詐欺罪は未遂にとどまる。例えば、被害者が詐欺を見破ったが同情して財物を交付してやったような場合も、詐欺未遂である。
(3) 刑罰
10年以下の懲役。未遂の処罰規定あり。(刑法250条)
■電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)
刑法246条の2(電子計算機使用詐欺)
前条に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報もしくは不正な指令を与えて財産権の得喪もしくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪もしくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、10年以下の懲役に処する。
(1) 趣旨
電子計算機使用詐欺罪は、詐欺罪の規定では処罰することが困難な電子計算機の悪用による財産上の利益の取得を罰する目的で規定された。例えば、他人のキャッシュカードをATMに差し込み、その者の口座から自己の口座へ預金を振り替える行為については、現金を引き出した訳ではないことから、窃盗罪にはあたらず、また相手が機械なので欺罔といえず詐欺罪にもあたらない。そこで昭和62年改正により新設された規定である。行為態様が最も詐欺に類似することから、詐欺罪の一類型とされている。
(2) 構成要件
人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報もしくは不正の指令を与えて財産権の得喪・変更にかかる不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪・変更にかかる虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させることである。
① 主体
限定なし。
② 客体
財産上の利益である。
③ 行為
不実の電磁的記録の作成又は虚偽の電磁的記録を人の事務処理に供することである。
(3) 刑罰
10年以下の懲役。未遂の処罰規定あり。(刑法250条)
■準詐欺罪(刑法248条)
刑法248条(準詐欺)
未成年者の知慮浅薄又は人の心神耗弱に乗じて、財物を交付させ、又は財産上不法の利益を得、又は
他人にこれを得させた者は、10年以下の懲役に処する。
(1) 趣旨
未成年者等知慮不十分な者に財物を交付させ、又は財産上不法な利益を得る行為は、欺罔行為を用いないとしても、相手方の意思の瑕疵を利用する点で詐欺罪と同視できる。そこでこれを詐欺罪に準じて処罰することにしたものである。例えば、高価な時計を身に付けている知慮浅薄な未成年者に、お菓子と交換しようといって時計を交付させたような場合である。
(2) 構成要件
未成年者の知慮浅薄又は人の心神耗弱に乗じて財物を交付させ、又は財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させることである。詐欺罪と異なる要件はその行為である。詐欺罪には、欺網行為の存在が必要であるが、準詐欺罪の場合、欺網行為がなされていない点で異なる。したがって知慮浅薄な未成年者に対して返すつもりがないのにすぐ返すと欺いて現金の交付を求め、現金を交付しようとしたところに親が現れたため受け取れなかった場合には、準詐欺罪ではなく詐欺罪の未遂となる。
① 主体
限定なし。
② 客体
財物又は財産上の利益である。
③ 行為
未成年者の知慮浅薄又は人の心神耗弱に乗じてその財物を交付させ、又は財産上不法な利益を得、又は第三者に得させることである。
(イ)未成年者
未成年者とは満20歳未満の者である。
(ロ)知慮浅薄者
知慮浅薄とは知識が乏しく思慮の足りないことをいう。
(ハ)乗じて
乗じてとは、つけ込むこと、利用することである。