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1窃盗の罪

堀川 寿和2022/02/10 12:30

窃盗罪(刑法235条)

 

刑法235条(窃盗)

他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

 

(1) 構成要件

主体

他人の財物を窃取することである。

客体

他人の占有する他人の財物である。しかし、自己の財物であっても、他人が占有し、又は公務所の命令により、他人が看守するものであるときは他人の財物とみなされ、本罪の客体となる。(刑法242条)例えば、人に賃貸している自己の財物を売却するために無断で持ち出せば、窃盗罪となる。

行為

窃取することである。つまり、暴行・脅迫によらず、財物に対する他人の占有を排除して自己又は第三者の占有に移すことである。

cf 自己の占有下にある他人の財物を領取した場合は、横領罪となる点と比較!     

 (ex)他人に貸している自転車を勝手に持ち帰った場合   窃盗罪

    他人から借りている自転車を奪い取った場合     横領罪

    他人が乗り捨てた自転車を勝手に乗って帰った場合 占有離脱物罪(遺失物横領罪)

    他人を騙して自転車を交付させた場合       詐欺罪

 

判例

(広島高S30.9.6)

 

顧客を装い衣類を試着したまま便所に行くと偽って逃げる行為は窃盗罪となる。

他人を騙して財物を交付ことから、詐欺罪とも考えられるが、欺網行為によって財物を交付させたわけではないことから、詐欺罪ではなく窃盗罪となる。

 

(2) 実行の着手時期

判例(大S9.10.19)によると、他人の財物に対する事実上の支配を侵すにつき密接なる行為をしたときに窃盗の実行の着手ありと考える。

住居侵入窃盗

単に他人の住居に侵入しただけでは足りず、金品物色のため財物の保管してあるタンス等に近づいた時点で窃盗の実行の着手ありとされる。

土蔵侵入

土蔵内の品物を窃取する目的で土蔵に侵入しようとした場合、窃盗の着手がある。(名古屋高S25.11.14)土蔵や倉庫といった財物が保管されている場所への侵入による窃盗の場合、判例は一足早く実行の着手が認められると考えるのである。

 

(3) 既遂時期

財物に対する他人の占有を排除して、自己又は第三者の占有に移した時に既遂となる。つまり、財物の占有を取得したときであり、客体たる財物の性状・被害者の財物に対する占有の状態・盗取行為の態様などを考慮して、自己の事実上の支配が確立されたか否かを基準とする。指輪や本のように小さい物は、犯人がポケット等に収めれば支配が確立され、占有が取得されたといえるが、ある程度の大きさ・重さのある物は、通常被害者の家屋の外へ運び出すことにより支配が確立され、占有が取得されたといえる。しかし被害者の監視が緩やかな状態の下では、室内で財物を搬出しやすいように荷造りしただけで支配が確立され、占有が取得されたといえる。

 

判例

(大T12.7.3)

 

浴場で発見した指輪を後日持ち帰るつもりですき間に隠したとき、窃盗は既遂になる。                                

 

判例

(福岡高S30.5.25) 

 

磁石を使って当たり穴に誘導し、パチンコ玉を取り出したとき、窃盗は既遂になる。                               

 

判例

(大阪高S29.5.4)

 

ブロック塀で囲まれて警備員により警備された敷地内にある倉庫に侵入し、中のタイヤ2本を倉庫外に搬出したところで、敷地内において当該警備員に発見された場合、窃盗罪は既遂とならない。                                

 

万引き

店頭にある靴下をポケットに入れた場合、店の外に出なくても実行の着手ありとされる。これに対して、スーパーマーケットでガムを万引きしようとしたが、一般の客を装うために商品棚から取ったガムをスーパーマーケット備付けの買物かごに入れ、とりあえずレジの方向に向かって一歩踏み出したところ、その場で店長に取り押さえられた場合、レジを通過する前であればガムを自己の支配下に置いたといえないから窃盗罪は既遂とはならない。

 

判例

(東京高H4.10.28)

 

ス一パ—マ一ケットの店内において商品を同店備付けの買い物カゴにいれ、レジを通過することなくその脇からレジの外側に持ち出した以上、被害者の支配状態を脱却するのがほぼ確実であり自己の事実的支配下に移したといえるので、窃盗罪は既遂となる。                                

 

構内窃盗

 

判例

(最S23.10.23)

 

工場などの構内に立ち入って盗む場合は、構外への搬出をもって既遂となる。

 

(4) 故意

財物に対する他人の占有を排除して自己又は第三者の占有に移すことの認識の他に不法領得の意思を要する。よって窃取した物を自分で使うかもしくは売却するかを考えていたが、どちらにするか確たる考えがなかったとしても、不法領得の意思が認められる以上、窃盗罪が成立する。

また、性欲を満たすため、隣家に住む女性がベランダに干していた下着を持ち帰り自宅で保管する行為は、毀棄•隠匿の意思以外の意思を有することから、不法領得の意思が認められ窃盗罪が成立する。

 

判例

(最S31.8.22)

 

パチンコ店内ですぐに景品交換をするつもりで、パチンコ台に誤作動を生じさせる装置を携帯してパチンコ店に行き、大当たりを出しパチンコ玉を排出させた場合、不法領得の意思が認められ窃盗罪が成立する。

 

(5) 刑罰

10年以下の懲役又は50万円以下の罰金。未遂の処罰規定あり。(刑法243条)

不動産侵奪罪(刑法235条の2)

 

刑法235条の2(不動産侵奪)

他人の不動産を侵奪した者は、10年以下の懲役に処する。

 

(1) 構成要件

他人の不動産を侵奪することである。例えば、他人の土地を不法に占拠して建物を建てるような場合である。本罪は不動産窃盗を処罰する規定であることから窃盗罪とは単にその客体が異なるだけで同一罪質の罪であり、保護法益や不法領得の否等は両者とも同一の解釈が導かれる。

主体

限定なし。

客体

不動産とは、土地及びその定着物をいう。自己所有の不動産でも、他人が占有し又は公務所の命令によって他人が看守するものは他人の不動産とみなされる。(刑法242条)

 

判例

(福岡高S37.8.22)

 

土地は地面だけでなく、地上の空間および地下も含み、家屋の一部のように、不動産の一部も客体となる。

 

判例

(大阪地S43.11.15)

 

自己所有の家屋の2階部分を隣家の庭の上に張り出して増築することも、侵奪である。

 

判例

(大阪高S41.8.19)

 

他人所有の畑に囲いを設置しその畑の中で野菜を栽培した場合、畑の所有者の占有を排除して自己の占有を設定しているため不動産侵奪罪が成立する。

cf 他人所有の畑に生育している作物を抜き取る行為は器物損壊罪を、その地表の肥土を持ち去った場合は動産と化しているから、窃盗罪の客体となる。

 

行為

不動産に対する他人の占有を排除して、自己または第三者の占有を設定すること(侵奪)である。

 

判例

(大阪高S41.8.9)

 

侵奪は他人の占有を排除することだから、新たな占有設定でなければならず、賃貸借終了後、賃借人がそのまま居すわっただけでは不動産侵奪にはならない。

 

(2) 実行の着手時期

権利者の占有を排除するための行為を開始した時である。

 

(3) 既遂時期

不動産の占有を取得した時である。

 

(4) 故意

他人の占有する不動産を、その意に反して自己又は第三者の占有に移すことの認識及び不法領得の意思が必要である。

 

(5) 刑罰

10年以下の懲役。未遂の処罰規定あり。(刑法243条)

 

親族間の特例

(1) 親族間の特例の意義

配偶者・直系血族・同居の親族の間で窃盗罪、不動産侵奪罪及びその未遂罪が犯されたときはその刑を免除する。(刑法244条1項 必要的免除)詐欺・恐喝・横領等にも準用されていることから、上記の親族間で詐欺・恐喝・横領等があった場合も同様に刑が免除される。

その他の親族の間でそれが犯されたときは告訴がなければ公訴を提起することができない。(同条2項 親告罪)例えば、甥っ子が同居関係にない叔父の財物を盗んだ場合には、親告罪となり、叔父の告訴があって、はじめて処罰できることになる。

 

判例

(最決H18.8.30)

 

内縁の配偶者は刑法244条1項の親族には入らない。 

 

この親族間の特例は親族ではない共犯者には適用されない。(刑法244条3項)例えば、息子を教唆又は幇助して、その父親の財物を窃取させた者は、窃盗教唆又は窃盗幇助として処罰することは可能である。

また、親族関係は犯人と誰との間に必要かについて、現在の判例(最H6.7.19)・通説は、財物の所有者と占有者と犯人との間(つまり三者間)に親族関係が必要であるとする。財物の所有者又は占有者のいずれかが他人であれば、家庭内のこととはいえないからである。例えば、息子が父親の部屋から盗んだ物が、父親のものではなく、父の友人の物であったような場合である。

 

(2) 親族間の特例の趣旨

「法は家庭に入らず」という趣旨から認められている。親族間の財産犯については、親族内部で解決すべきと考える。しかし、強盗罪には準用されない。強盗は暴行・脅迫を手段とするため、身体を害することも予想され、単なる財産罪にとどまらないからである。

 

 

窃盗罪

強盗罪

詐欺罪

恐喝罪

横領罪

遺失物

横領罪

背任罪

毀棄罪

盗品等に

関する罪

親族間の特例

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刑法257条に

別規定