• 刑法(各論)ー6.財産に対する罪
  • 8.強盗の罪
  • 強盗の罪
  • Sec.1

1強盗の罪

堀川 寿和2022/02/10 12:32

(単純)強盗罪(刑法236条)

 

刑法236条(強盗)

1.暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、5年以上の有期懲役に処する。

2.前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、前項と同様とする。

 

(1) 構成要件

暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取し、又は財産上不法の利益を得もしくは他人にこれを得させることである。強取があったといえるためには、犯人の暴行・脅迫による反抗抑圧と財物奪取との間に因果関係があることが必要である。

主体

限定なし。

客体

(イ)1項強盗

他人の財物である。ただし、自己の財物であっても他人が占有し、又は公務所の命令により他人が看守しているものであるときは他人の財物とみなされる。(刑法242条)

(ロ)2項強盗

財産上の利益である。例えば、暴行・脅迫を用いて、債務を免除させたり、肩代わりさせたような場合である。運転手に暴行・脅迫を用いてその料金を踏み倒すタクシー強盗がその典型である。

行為

(イ)1項強盗

暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取することである。

a) 暴行・脅迫

暴行・脅迫は相手方の反抗を抑圧する程度のものでなければならない。

相手方の反抗を抑圧する程度の判断基準は、社会通念上一般に被害者の反抗を抑圧する程度であるかという客観的基準により(最S24. 2.8)、それによって相手方が実際に精神及び身体の自由を完全に制止されたことを要しない。(最S23.11. 18)

判例は被害者側の事情、行為の状況、行為者側の事情を客観的・総合的に判断して、反抗抑圧程度のものか否かを判断する。暴行・脅迫は財物を強取する手段として加えられなければならない。

 

判例

(大S8.7.17)

 

当初は単なる暴行・脅迫の意思で行為し、相手方が反抗を抑圧された後、財物奪取の意思を生じてこれを奪取したときは暴行罪、脅迫罪と窃盗罪との併合罪にすぎない。

cf 暴行・脅迫は結果として財物奪取に役立てられただけでは足りず、あくまで手段とした場合でなければ強盗罪は成立しないからである。

b) 強取

強取とは、暴行・脅迫により相手方の反抗を抑圧し、その意思に反して財物を自己又は第三者の占有に移すことをいう。

(ロ)2項強盗

暴行又は脅迫を加えて財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させることである。

財産上不法な利益とは、不法に財産上の利益を得ることをいう。強盗利得罪も強盗罪である以上、被害者の意思に反して利益を得る行為であり、詐欺や恐喝のように被害者の意思に基づく処分行為は必要でない。

 

(2) 実行の着手時期(1項2項共通)

強盗の実行の着手時期は財物奪取の目的で(2項の場合は、利得の目的で)相手方の反抗を抑圧するに足りる暴行・脅迫を開始した時である。

 

(3) 既遂時期

窃盗罪と同じく 財物につき被害者の占有を排除し、自己又は第三者の占有に移したとき(財産上の利益が犯人又は第三者に移転したと認められるとき)に既遂となる。

 

(4) 故意

暴行・脅迫を用いて相手方の反抗を抑圧してその財物を奪取(又は財産上不法の利益を得る)ことの認識及び不法領得の意思が必要である。

 

(5) 刑罰

5年以上の有期懲役。未遂の処罰規定あり。(刑法243条)また、強盗罪については、予備についても処罰規定が設けられている。(刑法237条 強盗予備)

 

事後強盗罪(刑法238条)

 

刑法238条(事後強盗)

窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。

 

(1) 構成要件

窃盗犯人が財物を得てその取り返しを防ぎ又は逮捕を免れ、もしくは罪跡を隠滅するために暴行・脅迫をすることである。

主体

本罪の主体は、窃盗犯人である。窃盗の実行に着手していれば足り、既遂・未遂を問わない。

行為

事後強盗罪の行為は、暴行・脅迫である。ここでいう暴行・脅迫は、相手方の反抗を抑圧するに足りる程度のものであることを要する。(大S19.2.8

(イ)相手方

暴行・脅迫が加えられる相手力は、必ずしも窃盗の被害者であることを要しない。例えば、窃盗を目撃して迫跡してきた者や現行犯逮捕するために追跡してきた警察官も含まれる。

(ロ)窃盗の機会

暴行・脅迫は必ずしも窃盗の現場においてなされることを要しないが、窃盗の機会になされる必要がある。具体的には、窃盗の現場又はそれと時間的・場所的に近接した範囲内で行われることが必要である。しかし、多少の時間的・場所的隔たりがあっても、犯人が犯行現場から引き続き追跡されているなど継続的延長があると認められるときは、なお窃盗の機会といえ、本罪が成立する。

 

判例

(最決H14.2.14)

 

指輪を盗んで天井裏に隠れていたところ、犯行の約3時間後に駆け付けた警察官に発見され、逮捕を免れるため、暴行を加えた場合であっても、本件の暴行は窃盗の機会に行われたといえる。

 

cf

判例

(最H16.12.10)

 

財布の窃取後、発見・追跡されることなく犯行現場を離れ、ある程度の時間経過後、被害者等から容易に発見される状況でなくなった後、再び窃盗目的で犯行現場に戻った際になした脅迫は、窃盗の機会の継続中に行われたものではない。

 

(2) 主観的要件(目的犯)

窃盗犯人がその財物を得て、その財物を取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ又は罪跡を隠滅するという目的が必要である。

 

(3) 既遂と未遂の基準

事後強盗罪の既遂・未遂は、窃盗が既遂か未遂かによって区別される。(最S24. 7.9)したがって、窃盗犯人が逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するため暴行・脅迫をした場合、財物を得たか否かで区別し、窃盗が未遂の場合は事後強盗も未遂となることになる。

 

(4) 刑罰

強盗罪(刑法236条)と同様に、5年以上の有期懲役。未遂の処罰規定もあり。(刑法243条)

 

(5) 罪数

事後強盗罪が成立するときは、窃盗罪は本罪に吸収され、別罪を構成しない。(大M43.11.24

cf 公務執行妨害罪と事後強盗罪の場合

窃盗犯人が逮捕を免れるために、窃盗の現場から追跡してきた警察官に対して暴行・脅迫を加えた場合には、事後強盗罪と公務執行妨害罪の観念的競合となる。(大M43.2.15

 

(6) 居直り強盗と事後強盗の比較

他人の財物を窃取した後、居直って暴行・脅迫を行い、さらに他の財物を奪う場合を居直り強盗という。居直り強盗は、財物奪取の後に暴行・脅迫が加えられる点で事後強盗と類似するが、事後強盗の場合は、逮捕や取戻しを防ぐ目的がある場合に限られる点で異なる。

 

昏睡強盗罪(刑法239条)

 

刑法239条(昏睡強盗)

人を昏睡させてその財物を盗取した者は、強盗として論ずる。

 

(1) 構成要件

人を昏酔させてその財物を盗取することである。

主体

限定なし。

行為

他人を昏酔させてその財物を盗取することである。昏酔させるとは、意識作用に一時的に、又は継続的に障害を生じさせることをいう。その方法に制限はない。したがって、睡眠薬や麻酔薬を用いることのほか、泥酔させる、催眠術をかけるといった場合も含む。完全に意識を喪失させる必要もない。(東京高S49. 5.10) 犯人自身の行為によって昏酔させることが必要である。他人が被害者を昏酔させたのに乗じたり、被害者が自ら昏酔又は熟睡してぃる間にその財物を奪取する行為は窃盗罪にすぎない。

 

(2) 実行の着手時期

昏酔強盗の場合も、通常の強盗の場合と同じく、昏酔させる行為を開始する時点で実行の着手が認められる。

  

(3) 既遂時期

財物の事実上の支配を得た時点で既遂となる。

 

(4) 刑罰

5年以上の有期懲役。未遂の処罰規定あり。(刑法243条)強盗の場合と同じく強盗として論じる。