• 刑法(各論)ー6.財産に対する罪
  • 5.占有の奪取、移転の有無による分類
  • 占有の奪取、移転の有無による分類
  • Sec.1

1占有の奪取、移転の有無による分類

堀川 寿和2022/02/10 12:27

占有の意義

刑法における占有とは、刑法における「占有」とは、財物に対する支配の意思をもって財物を事実上支配することである。

 

(1) 支配の意思

支配の意思とは、財物を実力的に支配しようとする意思をいう。

包括的支配意思

この意思は、包括的支配意思で足りるとされている。したがって、常に現実的に支配している必要はなく、例えば留守中の自宅内にある財物については、一般的に占有の意思が認められる。

事実的支配意思

この意思は、事実的支配意思で足りるとされている。したがって、占有している者は必ずしも意思能力を有している必要はなく、睡眠中であってもこの事実的支配意思を有する。

 

(2) 事実上の支配

事実的支配とは、財物が社会観念上、占有者の事実的支配下にあることである。常に財物を握持・監守している必要はない。

占有の帰属による分類

(1) 占有の奪取、移転の有無による差異

前述のとおり、占有の奪取もしくは移転も有無によって、「奪取罪」と「横領罪」に区別できる。

例えば、他人の占有下にある財物を盗んだり騙し取ったような場合には、それぞれ奪取罪たる「窃盗罪」や「詐欺罪」が成立するが、既に自己の占有下にある他人の財物を領得した場合には、「横領罪」が成立する。

共同占有の場合

(イ)数人が共同で占有している財物について、

共同占有者の1人が勝手に自己の単独占有に移せば、他の共同占有者の占有を侵害することになり窃盗罪が成立することになる。(最S 25. 6.6)

(ロ)共有物を一人で保管している場合

共有物を共有者の1人が保管している場合、その者が勝手に処分すれば横領罪が成立することになる。

占有の奪取や移転を伴わないからである。

上下・主従関係にある者の間の場合

上下・主従の関係にある者の間、例えば経営者と従業員の間で、従業員が現実に物を握持していても、占有は主人にあり、従業員は単なる占有補助者であることから、下位者が上位者を排して勝手に財物を取得すれば横領罪ではなく窃盗罪となる。(大T.2.6

cf 下位者に処分権限がある場合

しかし、上位者と下位者との間に高度な信頼関係があり、下位者に処分権が委ねられている場合は下位者の占有が認められ、したがってその者の財物処分行為は窃盗罪ではなく、この場合、業務上横領罪が成立する。例えば、支配人や財物の処分権限を与えられている店長等の場合である。

包装物の占有

封印や施錠を施した包装物の配送を委託した場合、その物の占有は委託者に属するか、受託者に属するのかが問題となる。例えば、郵便集配人が書留郵便から現金を抜き取ったような場合、その現金の占有が誰にあるかの問題である。

 

(2) 判例の立場

判例は、包装物全体については受託者に占有があり、内容物については委託者に占有があるとする。したがって、包装物全体を横領すれば、横領罪(大T7.11.19)となり、中身だけを抜き取れば窃盗罪(最S32.4.25)という結論になる。ただ、単純横領罪の法定刑が5年以下の懲役であり、窃盗罪の10年以下の懲役の半分であることから、全部を領得したほうが刑が軽くなるという結論となってしまい、批判されるところである。

 

判例

(大M45.4.26)

 

郵便集配人が配達中の信書を開披して在中の小為替証書を取り出した場合は、窃盗罪が成立する。

 

判例

(東京高判S59.10.30)

 

預かったかばんを領得するのは横領であるが、預かったり、見張っていろと言われたかばんをこじ開けて中身を奪う行為は窃盗である

 

死者の占有

死者には財物に対する支配の意思も支配の事実も認められない。したがって形式的に考えると、死者が生前に有していた財物を奪取しても窃盗罪等の奪取罪の成立は否定されるはずである。しかし、判例・通説は次にみる一定の場合、奪取罪の成立を認めている。

 

(1) 人を殺して財物を奪った場合

財物奪取の意思で人を殺害し、殺害後に現実に財物を奪った場合

強盗殺人罪が成立する。(大T2.10.21

殺害後に財物奪取の意思が生じて奪った場合

この場合、窃盗罪になるとする説と、遺失物横領罪(占有離脱物横領罪)となるにとどまるとする説に分かれるが、判例(最S41.4.8)は、犯人との関係では被害者の死亡によって占有はただちに失われるものではなく、被害者の死亡と時間的・場所的に近接した範囲内にある限り、生前の被害者の占有がなお継続して保護されるとして、窃盗罪説の立場に立つ。

 

判例

(最S41.4.8)

 

帰宅中の女性を自動車に乗せ、墓地内に連れ込み強姦したのち殺害し、その直後死体を埋める際に腕時計をもぎとった場合、窃盗罪が成立する。

 

(2) 殺害にかかわっていない者が死者の身に付けていた財物を奪った場合

判例(大T13.3.28)・学説とも遺失物横領罪(占有離脱物横領罪)が成立するにとどまるとする。