• 刑法(各論)ー6.財産に対する罪
  • 4.不法領得の意思
  • 不法領得の意思
  • Sec.1

1不法領得の意思

堀川 寿和2022/02/10 12:26

不法領得の意思の意義

不法領得の意思とは、判例(大T4.5.21)によると、権利者を排除し、他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い、利用又は処分する意思とされる。

領得罪における不法領得の意思

窃盗、強盗、詐欺、脅迫、横領等の領得罪が成立するには、故意のほか不法領得が必要か否かについて、必要説と不要説の両説があるが、判例は必要説に立つ。

不法領得の意思は、「自己の所有物として利用・処分するという意思」と、「その経済的用法に従って利用・処分するという意思」の2つの要素に分けることができる。

 

(1) 自己の所有物として利用・処分するという意思

「自己の所有物として利用・処分するという意思」の有無について、例えば、窃盗罪の場合、これを必要とするが、使用窃盗の場合は、不要である。使用窃盗とは、使用後に元に戻す意思で他人の財物を無断で一時使用することをいう。

 

判例

(大T9.2.4)

 

自転車の無断使用につき、所持を取得したときに単に一時使用の意思しかなければ不法領得の意思が欠け窃盗罪を構成しない。

cf 乗り捨ての場合

単に一時使用のため自己に自転車の占有を移すことは窃盗罪にならないが、当初から破壊かつ乗り捨ての意思があれば領得の意思があることから、窃盗罪が成立することになる。(最S26.7.13

cf 自動車の無断使用の場合

自動車を数時間乗り回す行為は、たとえ、使用後に元の場所に戻しておくつもりであったとしてしても、不法領得の意思があったといえるため窃盗罪が成立する。(最S55.10.30)自動車は価値が高く、燃料を消費することから、自転車を無断使用する場合と質が異なるからである。

 

(2) 経済的用法に従って利用・処分するという意思

「その経済的用法に従って利用・処分するという意思」の有無については、窃盗罪の場合、これを必要とするが、後述する毀棄罪や隠匿罪の場合は、不要である。したがって、毀棄・隠匿の意思で他人の占有する財物を奪った場合、窃盗罪等の領得罪は成立せず、毀棄・隠匿罪が成立するにすぎない。

 

判例

(大T4.5.21)

 

校長にうらみをもつ教員が、紛失の責任を校長に負わせようとして教育勅語を小学校の奉置所から取り出し、自己の受持教室の天上裏に隠した場合、不法領得の意思を欠き、窃盗罪は成立しない。

 

判例

(仙台高判S46.6.21))

 

嫌がらせのために勤務先の同僚が毎日仕事に使う道具を持ち出して水中に投棄した場合、不法領得の意思が認められず窃盗罪は成立しない。この場合も「経済的用法に従って利用・処分する意思」を欠くため毀棄・隠匿罪が成立するにすぎない。

 

判例

(大阪地判S63.12.22)

 

商店から商品を無断で持ち出した場合、その直後に返品を装って当該商品を商店に返還し代金相当額の交付を受ける目的で持ち出したときは不法領得の意思が認められ窃盗罪が成立する。

 

判例

(最S33.4.17)

 

特定の候補者の氏名を記入して投票に混入する目的で投票用紙を持ち出した場合につき、投票用紙として利用する意思(本来の用法に従った利用意思)があれば、経済的効用を目ざさなくても不法領得の意思が認められる。