- 刑法(各論)ー5.名誉及び信用に対する罪
- 1.名誉に対する罪
- 名誉に対する罪
- Sec.1
1名誉に対する罪
■名誉棄損罪(刑法230条1項)
刑法230条1項(名誉棄損)
公然と事実を摘示し、人の名誉を棄損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役もし
くは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
(1) 構成要件
公然と事実を摘示して人の名誉を棄損することである。
① 主体
限定なし。
② 客体
人の名誉である。自然人のほか、法人や法人格なき団体も客体となる。ただし、人の支払能力、支払意思に対する社会的評価はここにいう名誉には含まれない。後述する信用毀損罪(刑法233条)の対象となる。
判例 |
(大T15.3.24) |
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九州人とか明治生まれの者といった不特定人の名誉の侵害は名誉棄損とならない。 |
③ 行為
公然と事実を摘示して人の名誉を棄損することである。
(イ)公然
ここでいう、「公然」とは、不特定又は多数人の知りうべき状態をさし、多数であれば特定していても公然となり、不特定であれば少数であっても公然ということになる。
(ロ)事実の摘示
ここでいう、「事実を摘示」するとは、人の社会的評価を低下させるに足る具体的事実を表示することである。非公知の事実であると公知の事実であるとを問わず(大T5.12.13)、また事実は真実であるか否かを問わない。
(2) 故意
本罪が成立するには自己の行為が人の名誉を棄損することの認識が必要である。
(3) 刑罰
3年以下の懲役もしくは禁錮又は50万円以下の罰金である。親告罪とされている。(刑法232条)
(4) 公共の利害に関する場合の特例(刑法230条の2)
① 意義
人の名誉を毀損する行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的がもっぱら公益を図ることにあったと認められるときは事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは処罰しない。(刑法230条の2第1項)
② 趣旨
前述のとおり摘示された事実が真実であっても、生存者の名誉毀損罪は成立し得る。その一方で、言論・表現の自由は人の名誉毀損を伴うことがあり、それを処罰すると逆に言論や表現の自由が確保できないことから、公共の利益のために、真実の公表を可能にするために戦後(昭和22年)にこの規定が設けられた。
③ 事実の証明の要件
(イ)原則
次の3つの要件を満たせば、人の名誉を毀損する行為であっても処罰されない。逆に、3つの要件をすべて満たさなければ同条の適用はなく名誉棄損罪が成立することになる。
a) 事実が公共の利害に関するものであること(事実の公共性) b) その目的が専ら公益を図るためのものであること(目的の公益性) c) 事実が真実であることの証明があったこと(真実性の証明) |
(ロ)証明の要件についての特例
a) 公訴提起前の犯罪行為についての特例
まだ公訴の提起されていない人の犯罪行為に関する事実は公共の利害に関する事実とみなされる。(刑法230条の2第2項)したがって、上記a) は証明する必要はなく、b) とc) のみ証明すれば名誉棄損とはならない。
b) 公務員又は公選による公務員の候補者についての特例
公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実はそれが真実であることの証明があれば罰しない。(刑法230条の2第3項)公務員に対する自由な批判を可能にするためである。したがって、上記a) 及びb) は証明する必要はなく、c) のみ証明すれば名誉棄損とはならない。しかし公務員に関する事実だからといって、公務員の資質、品位等に全く関係のない事実を摘示することまでが許される訳ではない。(最S28.12.15)
判例 |
(最S28.12.15) |
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片腕のない町会議員に対し「肉体的片手落は精神的片手落に通ずる」云々の新聞記事を掲載することは、公務員の職責と関係のない身体的不具の事実を摘示して公務員の名誉を毀損することであり、刑法230条の2第3項の適用はない。 |
■死者の名誉棄損(刑法230条2項)
刑法230条2項(死者の名誉棄損)
死者の名誉を棄損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
(1) 構成要件
公然と虚偽の事実を摘示して死者の名誉を棄損することである。
① 主体
限定なし。
② 客体
死者の名誉。
③ 行為
公然と虚偽の事実を摘示して死者の名誉を棄損すること。したがって、真実であれば本罪は成立しない。
(2) 故意
事実が虚偽であることを確定的に知りながら、死者の名誉を棄損することの認識が必要である。
(3) 刑罰
通常の名誉棄損罪と同様に、3年以下の懲役もしくは禁錮又は50万円以下の罰金である。親告罪とされている。(刑法232条)