• 刑法(各論)ー5.名誉及び信用に対する罪
  • 2.信用及び業務に対する罪
  • 信用及び業務に対する罪
  • Sec.1

1信用及び業務に対する罪

堀川 寿和2022/02/10 12:21

信用棄損罪(刑法233条前段)

 

刑法233条前段(信用棄損)

虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を棄損した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

 

(1) 構成要件

① 主体

限定なし。

② 客体

人の信用である。ここでいう「人」とは、自然人のみならず法人、法人以外の団体を含む。

「信用」とは、人の支払能力又は支払意思に対する社会的な信頼に限定されるべきものではなく、販売される商品の品質に対する社会的な信頼も含む。(最H15. 3.11)

行為

虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて人の信用を毀損することである。「虚偽の風説を流布」するとは、事実と異なるうわさを不特定又は多数人に伝播させることをいう。直接不特定又は多数人に告知する必要はない。「偽計を用いる」とは、人を欺く一切の手段をさす。

「信用を棄損する」とは、人の信用を低下させるおそれのある状態を発生させることをいう。現に低下させたことは必要がない。(大M44. 4.13)

 

(2) 刑罰

3年以下の懲役又は50万円以下の罰金である。なお、信用棄損罪は親告罪とはされていない

 

偽計業務妨害罪(刑法233条後段)

 

刑法233条前段(偽計業務妨害)

虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の業務を妨害した者は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

 

(1) 構成要件

虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の業務を妨害することである。

① 主体

限定なし。

② 客体

人の業務である。ここでいう「人」とは、自然人のみならず法人、法人以外の団体を含む。

「業務」とは、人が社会生活上の地位に基づいて反復・継続して行う事務をいう。ただし、業務上過失致死罪と異なり、危検性のある業務に限られない。つまり、人の生命・身体に危険を及ぼす業務に限らない。ただ、職業その他継続して従事することを要すべき事務又は事業を総称するため、人の睡眠を妨害しても業務の妨害には当たらない。

刑法上保護に値しない違法な業務は除かれるが、業務の基礎となっている契約の無効や行政上の免許を欠いていても、なお保護に値する業務である。

 

判例

(東京高S27.7.3)

 

所有者の承諾なく転貸しされ、かつ知事の営業許可のない浴場でも本罪の業務にあたる。

 

行為

虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて人の業務を妨害することである。「虚偽の風説の流布」、「偽計」の意義は、信用毀損罪の場合と同じである。「業務を妨害する」とは、人の業務の遂行を阻害する一切の行為をさす。判例(最S28.1.30)によると、現実に妨害の結果が生じたことは要せず、妨害の結果を発生させるおそれがある行為をすれば足りるとする。

 

(2) 刑罰

3年以下の懲役又は50万円以下の罰金である。なお、偽計業務妨害罪も親告罪とはされていない

 

威力業務妨害罪(刑法234条)

 

刑法234条前段(威力業務妨害)

威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。

 

(1) 構成要件

威力を用いて、人の業務を妨害することである。

① 主体

限定なし。

② 客体

偽計業務妨害罪と同様に人の業務である。

行為

威力とは、人の意思を制圧するに足りる勢力を示すことをいう。暴行・脅迫を用いた場合のみならず、自己の地位や権勢を利用した場合も含まれる。

 

(2) 刑罰

3年以下の懲役又は50万円以下の罰金である。なお、威力業務妨害罪も親告罪とはされていない

 

(3) 業務と公務の関係

業務妨害罪でいうところの「業務」に公務が含まれるか否かについて、次の3つの説がある。判例がどの説を採用するかについては必ずしも明らかでないが、④の説に立つものが多い。

公務も業務に含まれるとする説

公務は業務に含まれないとする説

公務員の行う公務は業務に含まれないが、非公務員が行う公務は業務に含まれるとする説

権力的公務(ex 警察)は業務に含まれないが、非権力的公務は業務に含まれるとする説

 

判例

(最決S62.3.12)

 

県議会委員会の条例案審議の事務は権力的公務ではないので、威力業務妨害罪における「業務」にあたり、委員に暴言を浴びせるなどした上、委員長らの退室要求を無視して同室内を占拠して委員会の審議採決を一時不能にさせれば、業務妨害罪が成立する。

 

判例

(最決H14.9.30)

 

東京都が都道である通路に動く歩道を設置するため、通路上に居住する路上生活者に対して自主的に退去するよう説得して退去させた後、路上生活者の意思に反してダンボール小屋等を撤去することなどを内容とする環境整備工事は、強制力を行使する権力的公務ではないから業務妨害罪にいう「業務」に当たる。よってこのような業務を威力でもって妨害すると威力業務妨害罪が成立する。