- 刑法(各論)ー2.生命•身体に対する罪
- 5.遺棄の罪
- 遺棄の罪
- Sec.1
1遺棄の罪
■遺棄の罪の総説
(1) 総説
遺棄の罪とは、扶助を要する者を保護されない状態に置くことによって、その生命・身体を危険にさらす罪である。
(2) 類型
次の3つに分類される。
① 単純遺棄罪(刑法217条)→ 狭義の遺棄 ② 保護責任者遺棄罪(刑法218条) → 広義の遺棄(作為による移置+不作為による置き去り) ③ 遺棄致死傷罪(刑法219条) |
■単純遺棄罪(刑法217条)
刑法217条(遺棄)
老年、幼年、身体傷害又は疾病のために扶助を必要とする者を遺棄した者は、1年以下の懲役に処する。
(1) 構成要件
老年、幼年、身体傷害又は疾病のために扶助を必要とする者を遺棄すること。
① 主体
限定なし。
② 客体
老年、幼年、身体傷害又は疾病のために扶助を必要とする者。
③ 行為
遺棄すること。単純遺棄罪における遺棄とは、被遺棄者をその生命・身体に危険な場所に移すことをいう。つまり、移置を意味し、作為による遺棄のことである。不作為による遺棄は含まない。
(2) 刑罰
1年以下の懲役。
■保護責任者遺棄罪(刑法218条)
刑法218条(保護責任者遺棄)
老年者、幼年者、身体傷害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、3月以上5年以下の懲役に処する。
(1) 構成要件
老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしないこと。
① 主体
老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者(身分犯)。
過失によって通行人に重症を負わせた自動車の運転者は「病者を保護する責任のある者」にあたる。
② 客体
老年者、幼年者、身体障害者又は病者。
③ 行為
遺棄すること。保護責任者遺棄罪における遺棄とは単純遺棄罪における遺棄よりも広く解し、積極的に被遺棄者を危険な場所に移す場合のみならず、危険な状態にある人を放置して立ち去ること(置き去り)や保護が必要な人に必要な保護をしない(不保護)も含む。
(2) 刑罰
3月以上5年以下の懲役。