- 刑法(各論)ー2.生命•身体に対する罪
- 6.堕胎の罪
- 堕胎の罪
- Sec.1
1堕胎の罪
■堕胎の罪
(1) 意義
① 意義
堕胎の罪は、自然の分娩期に先立って胎児を人為的に母体から分離、排出させる犯罪である。
したがって、胎児が死亡したか否かを問わない。
② 主体
限定なし。
③ 客体
妊娠中の女子(妊婦)及び胎児である。
④ 行為
堕胎することである。堕胎とは、前述のとおり、自然の分娩期に先立って胎児を人為的に母体から分離、排出させることである。
(2) 保護法益
一次的に胎児の生命•身体の安全、二次的に母体の生命•身体の安全を保護法益とする。
(3) 種類
堕胎の罪は、次の4つに分類することができる。
① 自己堕胎罪(刑法212条)
妊娠中の女子が薬物を用い、又はその他の方法により堕胎することである。妊娠中の女子のみの身分犯となる。つまり、妊婦自身の行う堕胎行為を罰する規定である。
② 同意堕胎罪、同意堕胎致死傷罪(刑法213条)
女子の嘱託を受け、又はその承諾を得て堕胎させることである。その結果女子に死傷の結果を生じさせると同意堕胎致死傷罪(結果的加重犯)となる。
③ 業務上堕胎罪、業務上堕胎致死傷罪(刑法214条)
医師、助産師、薬剤師、医薬品販売業者が、女子の嘱託を受け、又はその承諾を得て堕胎させることである。医師、助産師、薬剤師、医薬品販売業者等の身分犯となる。その結果女子に死傷の結果を生じさせると業務上堕胎致死傷罪(結果的加重犯)となる。なお、母体保護法による堕胎は法令による行為(刑法35条)として違法性が阻却される
④ 不同意堕胎罪(刑法215条)不同意堕胎罪致死傷罪(刑法216条)
女子の嘱託を受けないで、又はその承諾を得ないで堕胎させることである。その結果女子に死傷の結果を生じさせると不同意堕胎罪致死傷罪(結果的加重犯)となる。なお、未遂の処罰規定があるのは、この不同意堕胎罪のみである。
(4) 刑罰
① 自己堕胎罪(刑法212条)
2年以下の懲役。
② 同意堕胎罪、同意堕胎致死傷罪(刑法213条)
2年以下の懲役。
③ 同意堕胎致死傷罪(刑法213条)
3月以上5年以下の懲役。
④ 業務上堕胎罪(刑法214条)
3月以上5年以下の懲役。
⑤ 業務上堕胎致死傷罪(刑法214条)
6月以上7年以下の懲役。
⑥ 不同意堕胎罪(刑法215条)
6月以上7年以下の懲役。
⑦ 不同意堕胎罪致死傷罪(刑法216条)
傷害罪と比較して、重い刑により処断する。