• 刑法(総論)ー13.刑の執行
  • 2.刑の一部の執行猶予
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1刑の一部の執行猶予

堀川 寿和2022/02/10 11:28

刑の一部の執行猶予

(1) 刑の一部の執行猶予の意義

近年、犯罪者の再犯防止が重要な課題とされ、犯罪者が再び犯罪に手を染めることを防ぐため、前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者等について、地域社会の利益の増進に寄与する社会的活動を行うことを保護観察の特別遵守事項に加えることその他所要の規定を整備することにより、刑の一部の執行を猶予することを可能とする制度を導入する執行猶予制度の改正行われた。(平成28年6月1日施行)

 

(2) 刑の一部の執行猶予の要件(刑法27条の2)

次に掲げる者が3年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けた場合において、犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるときは、1年以上5年以下の期間、その刑の一部の執行を猶予することができる。(刑法27条の2第1項)

前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者(1号)

前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者(2号)

前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者(3号)

刑の一部の執行猶予の規定によりその一部の執行を猶予された刑については、そのうち執行が猶予されなかった部分の期間を執行し、当該部分の期間の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から、その猶予の期間を起算する。(刑法27条の2第2項)

27条の2第2項の規定にかかわらず、その刑のうち執行が猶予されなかった部分の期間の執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなった時において他に執行すべき懲役又は禁錮があるときは、刑の一部の執行の猶予の期間は、その執行すべき懲役もしくは禁錮の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から起算する。(刑法27条の2第3項)

 

(3) 刑の一部の執行猶予と保護観察(刑法27条の3)

刑の一部の執行猶予の場合においては、猶予の期間中保護観察に付することができる。(刑法27条の3第1項)この保護観察は、行政官庁の処分によって仮に解除することができる。(刑法27条の3第2項)そして、当該保護観察を仮に解除されたときは、27条の5第2号の規定の適用については、その処分を取り消されるまでの間は、保護観察に付せられなかったものとみなされる。(刑法27条の3第3項)

 

(4) 刑の一部の執行猶予の必要的取消し(刑法27条の4)

次に掲げる場合においては、刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。(刑法27条の4第1項)

猶予の言渡し後に更に罪を犯し、禁錮以上の刑に処せられたとき(1号)

猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられたとき(2号)

猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないことが発覚したとき(3号)

ただし、この場合において、猶予の言渡しを受けた者が禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者であるときは、この限りでない。

 

(5) 刑の一部の執行猶予の裁量的取消し(刑法27条の5)

次に掲げる場合においては、刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。(刑法27条の5)

猶予の言渡し後に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき(1号)

刑の一部の執行猶予の期間中の保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守しなかったとき(2号)

 

(6) 刑の一部の執行猶予の取消しの場合における他の刑の執行猶予の取消し(刑法27条の6)

刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消したときは、執行猶予中の他の禁錮以上の刑についても、その猶予の言渡しを取り消さなければならない。

 

(7) 刑の一部の執行猶予の猶予期間経過の効果(刑法27条の7)

刑の一部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、その懲役又は禁錮を執行が猶予されなかった部分の期間を刑期とする懲役又は禁錮に減軽する。この場合においては、当該部分の期間の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日において、刑の執行を受け終わったものとする

 

(8) 刑の一部の執行猶予の言渡しを受け、その刑について仮釈放の処分を受けた場合における仮釈放の取消し等(刑法29条2項・3項)

刑の一部の執行猶予の言渡しを受け、その刑について仮釈放の処分を受けた場合において、当該仮釈放中に当該執行猶予の言渡しを取り消されたときは、その処分は、効力を失う。(刑法29条2項)

そして、仮釈放の処分が効力を失ったときは、釈放中の日数は、刑期に参入しない。(同条3項)