• 刑法(総論)ー10.罪数論
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  • Sec.1

1本来的一罪(単純一罪)

堀川 寿和2022/02/10 11:08

法条競合

法条競合とは、1つの行為が数個の構成要件に該当するようにみえるが、構成要件相互の関係から、そのうちの1つの構成要件だけが適用され、他の構成要件の適用が排除される場合をいう。法条競合は、さらに(1) 特別関係、(2) 補充関係、(3) 択一関係、(4) 吸収関係に分類でき、吸収関係には、不可罰的事前行為と不可罰的事後行為がある。

 

(1) 特別関係

1つの構成要件が他の構成要件と普通法・特別法の関係にある場合、特別法のみが適用される場合である。ex 殺人罪と同意殺人罪)

 

(2) 補充関係

1つのある構成要件と、これを補充する意味しかない構成要件とに該当するようにみえる場合は、前者のみが適用される場合である。ex 傷害罪と暴行罪)

 

(3) 択一関係

相互に両立しない関係にある構成要件は、1つだけ適用され、他は適用しない場合である。ex 横領罪と背任罪)

 

(4) 吸収関係

1つの構成要件が他の構成要件に該当する事実を含んでいると考えられるため、他の構成要件にあたる事実を別罪として取り上げない場合である。(ex 現住建造物放火未遂罪と非現住建造物放火罪)

不可罰的事前行為

例えば、殺人予備と殺人のように、後行行為が成立すると独立して処罰する必要がない場合である。

この場合、殺人予備は殺人罪に吸収され、殺人罪のみが成立することになる。同様に、通貨偽造予備の場合もその後通貨偽造行為に及べば、通貨偽造罪のみが成立する。

不可罰的事後行為

例えば、窃盗犯が盗んだ物を壊した場合、人の物を壊す行為は器物損壊罪の構成要件に該当するものの、窃盗罪の構成要件によって評価し尽くされていることから別罪を構成しない。このような場合を不可罰的事後行為という。

 

cf

判例

(最S25.2.24)

 

窃取した預金通帳を使用して預金を引き出す行為は、窃盗罪で予想・評価される限度を超えた新たな法益侵害があり、単なる事後処分とは同視できないため、別途詐欺罪も成立する。

 

 

cf

判例

(最H15.4.23)

 

他人の不動産に無断で抵当権を設定する行為は横領罪にあたるが、さらにその不動産を無断で売却する行為は、さらに別の横領罪が成立する。

 

広義の包括一罪

(1) 意義

(広義の)包括一罪とは、数個の行為がそれぞれ独立して構成要件を充足するが、全体として結局1個の構成要件によって包括的に評価され一罪とされる場合である。

 

(2) 種類

(広義の)包括一罪は、次の4つに分類することができる。

結合犯

集合犯

接続犯

狭義の包括一罪

 

(3) 結合犯

それぞれ独立しても犯罪となる数個の構成要件を結合して別の新たな構成要件としたものを結合犯という。例えば、強盗が強盗の機会に被害者を殺害した場合、「強盗殺人罪」一罪で処罰されるのがその例である。

 

(4) 集合犯

集合犯とは、構成要件の性質上、数個の同種の行為が予定されている犯罪である。

さらに、常習犯、職業犯、営業犯の3つに分類することができる。

常習犯

一定の行為を常習とすることによって成立する犯罪である。

 

判例

(大T12.4.6)

 

賭博常習者が賭博をした場合、ただ1回であっても常習賭博罪であるが、数回にわたる場合であっても1個の常習賭博罪(刑法186条1項)が成立するにすぎない。

 

職業犯

業として一定の同種行為を反復することを予定した犯罪である。

 

判例

(大S10.11.11)

 

わいせつ文書をただ1回有償で頒布した場合でも反復の意思をもって行う以上、わいせつ文書有償頒布罪(刑法175条)が成立するが(営業犯)、異なった相手方に対して数回にわたってこれを有償で頒布しても1個のわいせつ文書有償頒布罪が成立するにすぎない。

 

営業犯

営業の目的で一定の犯罪を反復することを予定した犯罪である。

 

判例

(広島高岡山支部S29.4.13)

 

医師でない者が何年もの間反復して診療行為を続けていたとしても包括的に一個の無免許罪が成立するだけである。

 

(5) 接続犯

時間的・場所的にきわめて接近した条件のもとに数個の同種行為が行われたとき、全体を包括して1個の罪とされる場合を接続犯という。例えば、同一の機会に連続して行われた数回の殴打によって1個の傷害罪となる。

 

(6) 狭義の包括一罪

同一の構成要件のうちに、同一の法益侵害に向けられた数個の行為が規定されている場合、これら数種の態様にあたる一連の行為は包括的に単純一罪となるにすぎない。

 

判例

(大S28.6.17)

 

人を逮捕し、引き続き監禁したときは1個の逮捕監禁罪(刑法220条)が成立するのみである。