- 刑法(総論)ー10.罪数論
- 4.科刑上一罪
- 科刑上一罪
- Sec.1
1科刑上一罪
■科刑上一罪の意義
科刑上一罪とは、1人に数罪が成立するが、刑罰の適用上一罪として扱われる場合をいう。つまり、犯罪の成立上は数罪であるが、刑罰の適用上は一罪となる場合である。さらに「牽連犯」と「観念的競合」に分類することができる。
■牽連犯
(1) 牽連犯の意義
複数の犯罪行為が、手段と結果の関係に立つときを牽連犯という。(刑法54条1項後段)この場合、実質的には数罪であるが、科刑上は一罪として扱われる。つまり、「行為も数個、罪名も数個で、数個の行為が手段・結果の関係にある」のが牽連犯の定義である。
(2) 牽連犯の要件
・ 犯罪の手段・結果の関係に立つ数個の行為が存在すること ・ 犯罪の手段・結果たる行為が他の罪名にふれること |
① 犯罪の手段・結果の関係に立つ数個の行為が存在すること
(ex)住居侵入罪と窃盗罪
住居侵入罪と強盗罪
住居侵入罪と放火罪
住居侵入罪と強姦罪(強制性交罪)
公正証書原本不実記載罪と不実記載公正証書原本行使罪
公正証書原本不実記載罪と不実記載公正証書原本行使罪と詐欺罪
私文書偽造罪と偽造私文書行使罪
私文書偽造罪と偽造私文書行使罪と詐欺罪
有価証券偽造罪と偽造有価証券行使罪
有価証券偽造罪と偽造有価証券行使罪と詐欺罪
② 犯罪の手段・結果たる行為が他の罪名にふれること
上記の例のように、手段・結果たるそれぞれの行為が複数の構成要件に該当する場合である。
■観念的競合
(1) 観念的競合の意義
観念的競合とは、1個の行為で2個以上の罪名に触れる場合である。(刑法54条1項前段)
つまり、1個行為が数個の構成要件に該当する場合であり、実質的には数罪であるが、行為は1個であるため、科刑上は一罪として扱うものである。
(2) 観念的競合の種類
次の2つの場合がある。
・異種類の観念的競合 ・同種類の観念的競合 |
① 異種類の観念的競合
1個の行為が異なる種類の2個以上の構成要件に該当する場合である。
(ex) ・ 職務執行中の警察官に暴行を加えて負傷させた ⇒ 公務執行妨害罪と傷害罪の観念的競合
・ 公務の執行を妨害する意図で公務執行中の公務員を監禁 ⇒ 監禁罪と公務執行妨害罪の
観念的競合
・ 盗品と知ってこれを賄賂として収受 ⇒ 収賄罪と盗品等無償譲受罪の観念的競合
② 同種類の観念的競合
1個の行為が同種類の2個以上の構成要件に該当する場合である。
(ex) ・ トラックの運転中に不注意でバスに衝突しバスの乗客数人を負傷させた場合
・ 連れだって歩いている3人を脅迫し、順次金品を強奪した場合
・ 連れだって歩いている2人に1回発砲し、2人とも負傷させた場合
(3) 観念的競合の要件
① 行為が1個であること ② 1個の行為が数個の罪名に触れること |