• 刑法(総論)ー9.共犯論
  • 8.共犯と身分
  • 共犯と身分
  • Sec.1

1共犯と身分

堀川 寿和2022/02/10 11:01

身分犯の意義

刑法は、通常、犯罪行為の主体は限定していないが、犯罪の種類によって構成要件上、行為者が一定の身分を有することが要求されるものがある。これを身分犯という。

身分犯の種類

身分犯は、「真正身分犯」と「不真正身分犯」とに分類される。

 

(1) 真正身分犯(刑法65条1項)

行為者が一定の身分を有することによって犯罪が構成されるものを真正身分犯という。

ex)虚偽公文書作成罪(刑法156条)の公務員

収賄罪(刑法197条)の公務員

横領罪(刑法252条1項)の他人の物の占有者

 

(2) 不真正身分犯

行為者が一定の身分を有することによって法定刑が加重・軽減されるものを不真正身分犯という。

ex)常習賭博罪(刑法186条1項)の常習者

業務上横領罪(刑法253条)の業務上他人の物の占有者

保護責任者遺棄罪(刑法218条)の保護責任者

共犯と身分の問題

(1) 共犯と身分の問題の意義

身分のある者と身分のない者が共犯関係となった場合、身分のない者についても共犯として処罰すべきか否かの問題が共犯と身分の問題である。

 

(2) 真正身分犯と共犯

犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。(刑法65条1項)つまり、身分のない者も身分のある者に加功することによって共犯となる。

したがって、身分犯に加功した者は、教唆犯や幇助犯となる。問題は、共同正犯となり得るか否かであるが、判例・通説ともにこれを認めている。

 

判例

(大T7.5.11)

 

公務員でない者が公務員とともに賄賂を受け取った場合、収賄罪の共同正犯となる。

例えば、妻が公務員である夫とともに賄賂を受け取った場合、夫と妻は収賄罪の共同正犯となる。

 

(3) 不真正身分犯と共犯

身分のない者の身分のある者への加功

身分によって特に刑の軽重があるときは、身分のない者には通常の刑を科する。(刑法65条2項)

ここでいうところの「身分のない者には通常の刑を科する。」という意味の解釈の仕方については争いがある。例えば、BがAと結託してAの年老いた親を遺棄したような場合、単純遺棄罪として処罰するか、より重い保護責任者遺棄罪として処罰するかの問題である。

(イ)通説

刑法65条2項は、「…身分のない者には通常の刑を科する。」としていることから、非身分者には通常の刑が科される。したがって、前例をより具体的に当てはめると次のような結論となる。

 

事  例

成立する犯罪と罪名

1. AとBが結託してAの親を遺棄した場合

A:保護責任者遺棄罪の共同正犯

B:単純遺棄罪の共同正犯

2. BがAを教唆してAの親を遺棄させた場合

A:保護責任者遺棄罪の正犯

B:単純遺棄罪の教唆犯

3. AがBを教唆してAの親を遺棄させた場合

A:保護責任者遺棄罪の教唆犯

B:単純遺棄罪の正犯

 

(ロ)反対説

犯罪としては身分犯が成立するが、刑は通常の刑が科されるとする。

(ハ)判例

個々の判例によって結論が異なっている。

 

判例

(大T2.3.18)

 

賭博常習者の賭博行為を賭博の非常習者が幇助した場合、非常習者には単純賭博罪の従犯が成立するにとどまる。

 

判例

(最S32.11.19)

 

業務上横領罪につき、業務上の占有者である甲に、業務者でも占有者でもない乙が加功した場合に乙は業務上横領罪の共同正犯の成立を認め、科刑は単純領罪の限度によるとする。

例えば、会社の経理担当者とグルになってその友人がその会社の金を横領したような場合である。

この点について判例は占有者が業務上の占有者に加功した場合、65条2項で単純横領罪(刑法252条)で5年以下の懲役なのに、非占有者が業務上の占有者に加功したら65条1項で10年以下の懲役となりバランスが悪いことを理由とする。

 

身分のある者が身分のない者に加功した場合

例えば、教唆者や幇助者の方に身分があり、正犯者の方に身分がない場合である。この場合、身分のある共犯者には、刑法65条2項を適用して身分犯の共犯の成立を認めるか否かの問題である。判例(大T3.5.18)・通説は、身分犯の成立を認めている。

 

判例

(大T3.5.18)

 

賭博の常習者が非常習者の賭博行為を幇助した場合、常習賭博罪の従犯が成立する。