- 刑法(総論)ー9.共犯論
- 5.狭義の共犯
- 狭義の共犯
- Sec.1
■共犯の従属性
教唆犯や従犯が成立するためには、被教唆者や被幇助者がその結果として実行行為に出たことを要するかどうかという問題が共犯の従属性の問題である。
(1) 共犯従属性説
共犯の成立には、正犯が実行の着手したことを必要とする説である。
(2) 共犯独立性説
共犯の成立には、正犯が実行の着手したことを必要としないとする説である。
例えば、AがBに「Cを殺せ!」とそそのかしたがBがCを殺さなかった場合、共犯従属性説によればAは処罰されないが、共犯独立性説によれば殺人罪の教唆未遂罪となる。
■従属性の程度
狭義の共犯が成立しかつ可罰性を帯びるためには、正犯が犯罪成立要件のどこまで具備することが必要かについて、次の説に分類される。つまり、共犯が犯罪として成立するためには、正犯行為はいかなる要素を具備する必要があるか。すなわち構成要件該当性・違法性・有責性・処罰条件のどの段階まで満たしていることが必要かの問題である。この問題は、間接正犯で処罰するか教唆犯で処罰するかの線引きとなっている。
(1) 最小限従属性説
正犯者が構成要件に該当する行為をすれば、共犯として処罰することができるとする説である。
(2) 制限従属性説
正犯者が構成要件に該当する行為をし、違法であれば共犯として処罰することができるとする説である。
(3) 極端従属性説
正犯者が構成要件に該当する行為をし、違法であり、有責であれば共犯として処罰することができるとする説である。
(4) 誇張従属性説
正犯者が構成要件に該当する行為をし違法であり責任を具備し、なおかつ可罰性の要件をも具備して初めて共犯として処罰することができるとする。可罰性の要件とは刑法244条1項や刑法257条1項(親族間の犯罪に関する特例)によって刑を免除されるかどうかということである。
従属の程度 正犯の犯罪性 |
最小従属性説 |
制限従属性説 |
極端従属性説 |
誇張従属性説 |
構成要件該当性 |
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共犯(教唆犯) |
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違法性 |
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有責性 |
間接正犯 |
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処罰条件 |
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従属性の程度 まとめ
従属性の有無 |
従属性の程度 |
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共犯 従属性説 |
教唆・幇助犯が成立するためには教唆・幇助行為が行われただけでは足りず正犯者が犯罪を実行したことを要する。 |
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構成要件 該当性 |
違法性 |
責任 |
可罰性 |
最小従属性説 |
○ |
× |
× |
× |
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制限従属性説 |
○ |
○ |
× |
× |
||
極端従属性説 |
○ |
○ |
○ |
× |
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誇張従属性説 |
○ |
○ |
○ |
○ |
||
共犯 独立性説 |
教唆・幇助犯が成立するためには教唆・幇助行為が行われれば足り、正犯者が犯罪を実行したことを要しない。 |
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(5) 判例の立場
判例は、従来極端従属性説に立つものとされてきた。刑事未成年者を利用する行為を教唆犯ではなく間接正犯とするのはその典型である。しかし近年、刑事未成年者であっても弁識能力がある者を利用した場合、利用者の誘致のまま動かず、道具とならないこともあり、教唆犯の成立の可能性を示唆する判例も出ており、制限従属性説に傾きつつあるといわれている。さらに、直近では、教唆犯ではなく利用した者も共同正犯とする判例(最決H13.10.25)も出ている。
判例 |
(最S58.9.21) |
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12歳の養女を連れて四国八十八カ所を巡礼中、日頃被告人の言動に逆らう素振りを見せる都度顔面にタバコの火を押しつけたり、ドライバーで顔をこすったりするなどの暴行を加えて自己の意のままに従わせていた同女に対し窃盗を行わせたような場合、たとえ同女が是非弁別の判断能力を有する者であったとしても、これを畏怖させその意思を抑圧していた場合は、窃盗罪の間接正犯が成立する。 |
判例 |
(最決H13.10.25) |
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被告人A子が生活費欲しさから強盗を計画し、12歳10か月の長男Bに対し、犯行方法を教示するとともに犯行道具を与えるなどして指示命令して強盗を実行させた場合、当時Bには是非弁別の能力があり、A子の指示命令はBの意思を抑圧するに足る程度のものではなく、Bは自らの意思により本件強盗の実行を決意したうえ、臨機応変に対処して強盗を完遂し、Bが奪ってきた金品をすべてA子が領得したなどの事実関係の下では、A子につき強盗の間接正犯又は教唆犯ではなく共同正犯が成立する。 |
⇒ 実行行為者の意思が抑圧されておらず、自らの意思で行っているため道具とはいえないため間接正犯は成立せず。では、この場合、教唆犯が成立することになるか?背後者が犯行を計画し、犯行道具を用意し与えるなど指示命令し、強奪した金品をすべて領得したような場合には正犯性があり、教唆犯ではなく共同正犯が成立するとした。