• 刑法(総論)ー9.共犯論
  • 2.間接正犯
  • 間接正犯
  • Sec.1

1間接正犯

堀川 寿和2022/02/10 10:50

間接正犯の意義

間接正犯とは、他人を道具として利用することによって犯罪を実現する場合をいう。間接正犯は他人を介して犯罪を実現する点において共犯と似ている。しかし、共犯の場合は、正犯者が実行行為をし、共犯は実行行為に関与しないのが原則であるが、間接正犯の場合は、他人を道具として利用する行為自体が実行行為であり、正犯そのものである点で共犯と異なる。

間接正犯の形態

(1) 是非弁別能力を欠く者を利用する場合

心神喪失者や幼児等の是非弁別能力を欠く者を利用して犯罪を実現するような場合である。

例えば、5歳の子供をそそのかして、盗みをさせたような場合である。

 

(2) 意思の自由を失っている者を利用する場合

例えば、是非弁別能力はあるが、暴行等でその意思を抑圧して犯行を強制したような場合である。

 

判例

最S58.9.21

 

12歳の養女を連れて四国八十八カ所を巡礼中、日頃被告人の言動に逆らう素振りを見せる都度顔面にタバコの火を押しつけたり、ドライバーで顔をこすったりするなどの暴行を加えて自己の意のままに従わせていた同女に対し窃盗を行わせたような場合、たとえ同女が是非弁別の判断能力を有する者であったとしても、これを畏怖させその意思を抑圧していた場合は、窃盗罪の間接正犯が成立する。

 

(3) 故意のない他人の行為を利用する場合

例えば、医者が事情を知らない看護師に命じて患者に毒薬を飲ませ、殺害する場合がこれにあたる。

 

(4) 他人の正当な行為を利用する場合

被利用者の正当行為、正当防衛、緊急避難等を利用する場合がこれにあたる。

 

判例

大T10.5.7

 

自ら堕胎手術を施した結果、妊婦の生命に危険を生じさせた者が、医師に胎児の排出をもとめ、医師の緊急避難行為を利用して、堕胎させたときは、堕胎罪の間接正犯が成立する。

間接正犯の実行の着手時期

被利用者が犯罪実現の現実的危険性を有する行為を開始した時点をもって実行の着手となる。

つまり、自分自身の行為でない他人の行為の時点で実行の着手が認められる点に特殊性がある。