- 刑法(総論)ー9.共犯論
- 3.共同正犯
- 共同正犯
- Sec.1
1共同正犯
■共同正犯の意義
2人以上の者が共同して犯罪を実行する場合を共同正犯という。例えば、AとBが2人で甲を殴ってけがをさせたような場合のほか、Aが他人の住居に盗みに入りBが入り口で見張りをした場合のように役割分担をしたような場合も共同正犯となる。共同正犯者はすべて正犯として処罰される。
■共同正犯の本質
2人以上の者が共同して犯罪を実行したとは、何を共同したのかについて次のように考え方が分かれている。例えば、Bは窃盗のみのつもりで見張りをしていたが、盗みに入ったAはもし家人がいれば強盗も辞さないつもりで被害者宅に侵入し、実際に強盗行為まで働いたような場合、AとBに共同正犯の成立を認めてよいのか?仮によいとすれば窃盗罪のみの共同正犯にとどまるのか?強盗の共同正犯となるのか?といった問題である。
(1) 行為共同説
共同正犯とは、行為を共同にするものと考える説である。従って関与者が何らかの犯罪行為を共同にしていれば、異なった犯罪の間でも共同正犯となる。この場合、同一の故意も共同も不要であり、成立する罪名も各別となる。
(2) 犯罪共同説
共同正犯とは、特定の犯罪を共同して実行するものである。この犯罪共同説はさらに、常に同じ犯罪の間でしか共同正犯は成立しないとする説(完全犯罪共同説)と、構成要件の重なり合いがある場合は、その限度で共同正犯の成立を認めるとする説(部分的犯罪共同説)に分類される。
部分的犯罪共同説からは、異なる犯罪間では共同正犯は成立し得ないが、異なる犯罪間でもその一部が重なり合うときはその限度で共同正犯が認められる。例えば、強盗と窃盗では窃盗の限度で、殺人と傷害致死では傷害致死の限度で共同正犯が成立する。
行為共同説と犯罪共同説の異同
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行為共同説 |
犯罪共同説 |
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完全犯罪共同説 |
部分的犯罪共同説 |
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内容 |
実行行為の共同のみならず行為の共同で足りるとする |
実行行為の共同が必要となる |
異なる構成要件間でも重なり合う限度で実行行為の共同が認められる |
Aは窃盗の故意 Bは強盗の故意で 共同した場合 |
Aは窃盗の共同正犯 Bは強盗の共同正犯 |
共同正犯不成立 |
Aは窃盗の共同正犯 Bは窃盗の共同正犯 強盗の単独犯 |
Aは強盗の故意 Bは放火の故意で 共同した場合 |
Aは強盗の共同正犯 Bは放火の共同正犯 |
共同正犯不成立 (強盗と放火では重なり合いがないから) |
■共同正犯の成立要件
(1) 成立要件
共同正犯が成立するためには、次の要件が必要である。
・共同実行の意思(共同加功の意思) ・共同実行の事実(共同加功の事実) |
① 共同実行の意思のみで、共同実行を欠く場合
後述する教唆犯又は従犯(幇助犯)になる。
② 共同実行の事実のみで、共同実行の意思を欠く場合
単なる同時犯である。同時犯とは、意思の連絡のない2人以上の者が同時に、又は時を同じくして同一の偶成要件に該当する行為を行うことをいう。例えば、偶然AとBが甲を殺そうとピストルで発射したような場合である。この場合、AとBそれぞれが単独正犯となる。仮にAの弾があったって甲が死亡したがBの弾は外れた場合、Aは殺人罪となりBは殺人未遂罪にとどまる。
(2) 共同実行の意思
共同実行の意思とは、2人以上の者が共同して犯罪を実行する意思連絡をいう。この意思の連絡は、暗黙の意思の連絡でもよいとされている。(東京高S40.6.7)また、意思の連絡は、実行行為の際にあれば足り、事前に共謀し、打ち合わせ等がなされたことは必要でない。(最S23.12.14)
(3) 共同実行の事実
共同実行の事実とは、共同して犯罪を実行したことをいう。共同実行の事実は、原則として2人以上の者が実行行為を分担する場合に認められる。ただし、後述する共謀共同正犯の場合は除く。分担する実行行為は不作為であってもよく、不作為による共同正犯も成立しうる。