- 刑法(総論)ー8.未遂論
- 4.中止未遂(中止犯)
- 中止未遂(中止犯)
- Sec.1
■中止犯の成立要件
(1) 犯罪の実行に着手したこと (2) 自己の意思によること(中止の任意性) (3) 犯罪を中止したこと(結果の防止) |
(1) 実行の着手
中止犯も未遂犯であるため、まず実行の着手があったことが必要である。
(2) 中止の任意性
実行の着手後に、自己の意思により犯罪の実行を中止したことが必要である。
① 自己の意思の判断基準
自己の意思によったか否かの判断基準について次の説にわかれる。判例は、客観説に立つものと主観説に立つものがある。
(イ)客観説 (ロ)主観説 (ハ)折衷説(フランクの公式) |
(イ)客観説
社会通念上、犯罪が実現できると考えられるのに止めた場合に任意性が認められるとする説である。
判例 |
(最S32.9.10) |
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殺意をもって実母の頭をバットで強打したところ、母が血を流して痛苦しているのを見て驚愕・恐怖して殺害行為を止めた場合、母の流血痛苦している姿を眼前にして、更に殺害行為を続行することは一般の通例ではなく中止犯は成立しない。 |
⇒ 一般通念を基準としており、客観説に立っている。
(ロ)主観説
外部の障害を認識せず、自発的に止めた場合に任意性が認められるとする説である。
例えば、早朝に留守の民家に盗みに入り物色を始めたが、玄関に近づいた新聞配達員を帰宅した家人と誤認し、犯行の発覚を恐れ何も盗まずに逃走したような場合、自発性が認められず窃盗罪の中止未遂は認められない。
判例 |
(大T12.3.6) |
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殺意をもって被害者の胸部を突き刺したが、流血がほとばしるのを見て翻然殺害行為を止めた場合、中止犯は成立しない。 |
⇒ 中止犯が成立するためには、外部的障害がないにもかかわらず、内部的原因により任意に実行を中止した場合でなければならず、血を見てびっくりして止めたような場合は含まれない。
(ハ)折衷説
やろうと思えばできるがやらなかった場合は自己の意思によるものとして中止犯、やろうと思ってもできなかった場合は自己の意思によったものといえず障害未遂であるとする説である。
この説によると、例えばAがBから金銭を強取しようと考え路上でBに襲いかかったが、Bがわずかな金銭しか持っていなかったことを知って落胆し実行を中止した場合、任意性が肯定され中止犯が成立することになる。その他、会社の金を盗もうとして金庫を開けたが、その日の当直である同僚に嫌疑がかかると思い、後日盗むつもりで何も取らずに帰宅したような場合にも中止犯が成立する。
(3) 結果の防止
中止犯の成立には、犯罪を中止したこと、すなわち犯罪の完成を妨げる行為が必要である。結果が発生してしまうと、既遂になるため、中止未遂の成立の余地はない。中止行為の内容は着手未遂の場合と実行未遂の場合とで異なる。
① 着手未遂
実行の着手後、その終了前の中止行為は、単にその後の実行継続を放棄すれば足りる。
② 実行未遂
実行未遂の場合には、すでに実行行為が終了しているため、実行行為を中止することはもはやできず、中止犯の効果が認められるためには、結果発生防止のための積極的な行為(真摯な努力)が必要であるとされる。
判例 |
(大S12.6.25) |
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叔父の家に火を放ってすぐに現場から離れ裏手の門前にさしかかった際に火の勢いをみて急に恐怖心を生じ、叔父に「放火したからよろしく頼む」と叫びながら走り去り、叔父が消火した場合、中止犯とならない。 |
⇒ 結果発生防止に他人の援助を受けてもよいが、その場合は自ら防止にあたったのと同視しうる程度の努力が払われなければ中止したものとはいえない。
判例 |
(福岡高判S61.3.6) |
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就寝中の被害者を殺害するため、バットでその頭部を数回殴打したが、被害者が血を流しているのを見て驚くと同時に悪いことをしたと思い119番通報して救助を依頼し、救急隊員の救命措置に より一命を取り留めた場合には、殺人罪の中止未遂が認められ得る。 |
⇒ 自ら119番通報をして救助を依頼しており、反省悔悟の情による結果発生防止の真摯な努力が認められるからである。
③ 中止行為と結果不発生の因果関係
中止犯が認められるためには、中止行為と結果の不発生との間に因果関係が認められなければならない。
④ 中止行為と結果の発生
中止犯が成立するためには中止行為によって結果の発生が防止されたことが必要である。真摯な努力が払われても、結果が発生してしまった場合は、中止犯は成立しない。既遂となった以上、もはや未遂ではあり得ないからである
■中止犯の効果
中止未遂の場合、必ず刑が減軽又は免除される。(必要的減免事由、刑法43条ただし書)
cf 障害未遂の場合は、任意的減免事由であったことと比較!
障害未遂と中止未遂の差異
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障害未遂 |
中止未遂 |
意義 |
犯罪の実行に着手して遂げなかった場合 |
自己の意思により犯罪を中止した場合 |
要件 |
① 犯罪の実行に着手したこと ② 既遂に至らないこと ・ 実行行為が修了しなかった場合 (着手未遂) ・ 実行行為は修了したが結果が発生しなかった場合(実行未遂) ・ 実行行為は修了し結果も発生したが両者の間に因果関係がない場合 |
① 自己の意思によること ② 真剣な中止行為がなされたこと ③ 結果が発生しなかったこと ④ 中止行為と結果不発生との間に因果関係があること |
処分 |
刑の任意的減軽 |
刑の必要的減免 |
未遂犯の処罰規定がある場合に限って処罰される |