- 刑法(総論)ー8.未遂論
- 5.不能犯
- 不能犯
- Sec.1
1不能犯
■不能犯
(1) 意義
不能犯とは、行為者の主観においては犯罪の実行に着手したつもりであったが、現実には結果の発生が不可能である場合をいう。例えば、砂糖に殺傷能力があると信じて、他人を殺傷する目的で飲料水の中に混入したような場合である。
(2) 不能犯の処罰
不能犯は結果発生の危険はなく、処罰の必要がないため、明文の規定はないが、不可罰とされる。
cf 未遂は、その行為が結果発生の危険性をもつことから放置することができず、処罰されることと比較。
判例 |
(大T6.9.10) |
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硫黄の粉末には消化器管を通して人を殺害する力がないのに、それを知らずに殺意をもって他人に飲ませる行為は、傷害罪は成立するが、殺人罪について不能犯である。 |
判例 |
(最S24.1.20) |
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被告人が殺人の意図で、被害者方の炊飯釜中に青酸カリを入れた場合は、臭気を放っているからといって、何人も食べることは絶対にないとは断定できないことから、殺人の未遂犯となる。 |
判例 |
(最S37.3.23) |
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殺人の意図で他人の静脈内に空気を注入した場合は、空気の量が致死量以下でも被注射者の身体的条件等如何によっては、死の結果発生が絶対にないとはいえないため、殺人の不能犯にはならず、未遂罪となる。 |
判例 |
(最S27.8.5) |
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青酸カリが致死量に達していなくても、人の死の危険性があるため、殺人の不能犯とはならず、未遂犯となる。 |
判例 |
(大S7.3.25) |
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他人の着衣のポケットに手を入れて在中物を窃取しようとしたが、在中物がなかった場合、窃盗の不能犯ではなく、未遂犯となる。 |
判例 |
(福岡高判S28.11.10) |
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勤務中の警官から拳銃を奪って発射したが弾が装てんされていなかった場合、勤務中の警官の拳銃には常時弾丸のあるのが通常であることから、殺人の不能犯ではなく、未遂犯となる。 |