• 刑法(総論)ー8.未遂論
  • 3.障害未遂
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  • Sec.1

1障害未遂

堀川 寿和2022/02/10 10:44

障害未遂の意義

未遂のうち、行為者の意思に基づかない外部的障害で犯罪が完成しなかった場合を障害未遂という。

 

未遂犯の成立要件

未遂は、犯罪の実行に着手して、これを遂げなかった場合であることから、次の2つの要件を満たす必要がある。

(1) 犯罪の実行に着手したこと

(2) その犯罪を遂げなかったこと(結果が発生しなかったこと)

 

(1) 実行の着手があること

実行の着手とは、実行行為を開始することをいう。実行の着手が予備と未遂の分岐点となる。

実行の着手時期については、実行行為すなわち犯罪を実現するについての現実的危険性を含む行為を開始した時に認められると解されている。

殺人罪の実行の着手時期

それぞれ殺意をもって次の行為に及んだ時に実行の着手があると解される。

(イ)斬殺

日本刀を振りかぶったとき

(ロ)撲殺

金槌を振り下ろしたとき

(ハ)銃殺

弾の入った銃の銃口を向けたとき

(ニ)毒殺

毒の入った飲食物を手渡したとき、もしくはいつでも飲食できるような状態でテーブル等の上に置いたとき

 

判例

大T7.11.16

 

殺人の目的で毒物の入った飲食物を発送した場合、到着時に実行の着手が認められる。

したがって、知人を毒殺しようと考え、毒入りの菓子を小包郵便でその知人宅宛てに郵送したものの、知人がたまたま既に転居していたため、転居先不明により返送されてきた場合には、殺人の実行の着手は認められない。

窃盗罪

(イ)住居侵入窃盗

住宅に侵入しただけでなく、財物の物色行為を始めたとき(ex 金品物色のためタンスに近づいたとき)

cf 土蔵内での窃盗の場合には、土蔵に侵入しようとしたとき実行の着手ありとされる。財物を保管している土蔵の特殊性によって、実行の着手時期が早められている。(名古屋高S25.11.14

(ロ)スリ

スリの目的でポケットの外側に手を触れたとき

cf 人込みの中であらかじめ犯行の相手方を物色するため、他人のポケット等に手を触れ金品の存在を確かめるいわゆるあたり行為では未だ実行の着手はない。

(ハ)万引き等

例えば、宝石店で宝石を窃取する目的でショーウインドーの中に手を入れて指輪をつかんで取り出そうとした時点で実行の着手が認められる。

放火罪

客体又は導火材料に点火した時点で実行の着手が認められる。したがって、媒介物を利用して放火した場合には、その媒介物に点火した時点で実行の着手が認められる。また、自働発火装置によって10分後に発火するようにセットしたような場合には、自働発火装置を置いた時に実行の着手がある。

詐欺罪

一般に詐欺罪の実行行為とは、人を欺いて錯誤に陥れその錯誤に基づいて財物を交付させその占有を取得しもしくは財産上の利益を得る行為をいい、そのような欺く行為を開始した時点で実行の着手が認められる。

cf 保険金詐欺の場合

保険金騙取の目的で自己所有の家屋に放火したような場合、火をつけたときではなく、保険会社に保険金の請求をしたときに実行の着手がある。

cf 訴訟詐欺の場合

金員騙取の目的で虚偽の債権に基づいて裁判所に訴えを提起したとき(訴状を提出したとき)に訴訟詐欺の実行の着手がある。

cf 偽造手形による詐欺の場合

偽造手形を利用して現金を詐取する場合、その偽造手形を相手方に提示しなくても割引を依頼する時点ですでに欺く行為が開始されており、実行の着手がある。

強盗罪

強盗の場合、手段たる暴行・脅迫の開始をもって実行の着手がある。(最S23. 6.26)暴行・脅迫が開始されない限り強盗の実行の着手はない。よってタクシーの売上金を強取しようと考え、出刃包丁をバッグに入れてタクシーに乗車し、虚偽の行き先を告げてタクシーを発車させたものの、怖くなったためタクシーが赤信号で停車した際に逃げ出した場合には、暴行•脅迫が加えられておらず、強盗罪の実行の着手は認められない。

強制性交罪(旧強姦罪)

強姦の実行の着手は暴行・脅迫を手段とするときはそれが開始されたとき、その他の場合は姦淫行為が開始されたときに認められる。したがって、車内で強姦する意思で通行中の婦女をダンプカーの運転席へ引きずり込もうとしたとき、未だ姦淫行為に及んでいなくても実行の着手が認められる。(最S45.7.28

 

(2) 結果が発生しなかったこと

犯罪の未完成

犯罪を遂げないことが必要である。完成してしまえば既遂であり、完成したか否かが未遂と既遂の分岐点となる。

障害未遂のパターンには、次の2つの場合がある。

(イ)着手未遂

実行行為そのものが終了せず、遂げない場合である。

(ロ)実行未遂

実行行為は終了したが、結果が未発生で遂げなかった場合である。

 

(3) 因果関係の欠缺

実行行為があり、結果が生じても、その行為と結果との間に因果関係がない場合はやはり未遂である。

例えば、金をだまし取る目的で相手を騙そうとしたが騙されず、必死にウソをついているのを哀れに思った相手方が金をめぐんでやったような場合は、詐欺は未遂にとどまる。

障害未遂の効果

(1) 未遂の処罰規定

未遂犯は、刑法各本条で未遂の処罰規定がある場合にのみ処罰される。(刑法44条)

 

(2) 任意的減軽事由

既遂犯と同じ法定刑によって処罰されるが、情状によってその刑を減軽することができる。(刑法43条)