- 刑法(総論)ー2.刑法の適用範囲
- 2.時間的適用範囲(時に関する効力)
- 時間的適用範囲(時に関する効力)
- Sec.1
1時間的適用範囲(時に関する効力)
■刑の変更
(1) 原則
刑罰法規不遡及の原則によると、刑法の適用は行為時の法によるのが原則である。
(2) 例外(犯罪後の法律による刑の変更)
前述のとおり、刑法6条は、「犯罪後の法律によって刑の変更があったときは、その軽いものによる。」としている。
① 軽く変更
行為時の法律と裁判時の法律とを比べて、裁判時の法律の刑の方が軽ければそれを遡及して適用する。
刑罰不遡及の原則は、それを認めると行為者の不利となるから禁止されるものであって、有利な遡及まで禁ずるものではないことから、問題ない。
② 重い変更
新法が旧法よりも刑を重くしたときは、刑罰法規不遡及の原則によって旧法が適用される。
③ 犯罪後
刑法6条でいうところの「犯罪後」とは、実行行為の終了後を意味する。したがって、結果犯の場合も結果発生時ではなく、実行行為の時が標準とされる。犯罪行為が新・旧にまたがって行われた場合は、犯罪中の刑の変更であって犯罪後の変更ではないため、行為終了時である新法の適用による。
例えば、継続犯に当たる逮捕・監禁罪(刑法220条)は、被害者が逮捕されて監禁状態が続いている間は犯罪行為が継続しており、その間に刑の変更があったとしても犯罪後の刑の変更に当たらず、刑法6条の適用はなされない。常に新法が適用されることになる。
その他、単純一罪、包括一罪、牽連犯の場合も、常に新法が適用されることになる。
(3) 刑の変更
刑の変更とは、刑を加重し又は軽減するための変更をいう。
① 主刑の変更
刑の変更とは、主刑の変更をいい、付加刑である没収を含まない。よって没収に関する規定の変更があった場合、新法の刑が旧法の刑より軽いときでも新法は適用されない。なお付加刑とは主刑を言い渡すときだけに科すことができる刑罰で現行法上は没収のみが付加刑として規定されている。
② 執行猶予の条件に関する規定の変更
刑の執行猶予の条件に関する規定の変更も、特定の犯罪を処罰する刑の種類又は量を変更するものではないことから、刑の変更とはいえない。(最S23.11.10)
③ 刑の時効・公訴の時効・親告罪としての性質の変更
刑法6条でいう刑とは、犯罪に対する制裁である刑のことをさすことから、刑の時効・公訴の時効・親告罪としての性質の変更は、刑の変更には当らない。
④ 労役場留置
労役場留置は、財産刑の執行方法の一種であって形式的には刑の変更そのものではないが、実質上刑の変更と同視されるため、その期間の変更があったときは、刑法6条の精神にのっとり、軽い刑が適用される。(大S16.7.17)