• 刑法(総論)ー2.刑法の適用範囲
  • 3.場所的適用範囲(土地に関する効力)
  • 場所的適用範囲(土地に関する効力)
  • Sec.1

1場所的適用範囲(土地に関する効力)

堀川 寿和2022/02/10 09:58

どの場所で行われた犯罪行為に対して刑法(刑罰法規)が適用されるのかについては次の4つの主義がある。日本の刑法は属地主義を原則とし、属人主義と保護主義を補充的に併用している。

 

属地主義

(1) 属地主義の意義

属地主義とは、犯罪が自国内で行われた限り、何人に対しても刑法の適用があるとする主義をいう。

刑法は日本国内(領土・領海・領空)及びそれに準ずる日本国外にある日本船舶、日本航空機内で行われた犯罪に適用がある。(刑法1条)刑法はこの属地主義を原則とする。

日本国内である限り、外国人にも日本の刑法の適用があり、日本国内で外国人が外国人を殺した場合や、外国の領空を飛行中の日本の 航空機内で窃盗をした場合いずれの場合も日本の刑法が適用される。

 

判例

(大T7.12.16)

 

日本にある外国の大使館、行使館も日本の一部である。

したがって、日本の刑法が適用されることになる。しかし、治外法権の問題であるから、処罰できるかどうかとは別の問題である。

 

(2) 属地主義の適用

犯罪地が日本国内であるというためには、犯罪構成事実の一部が日本国内にあれば足りる。構成要件の一部が日本国内で行われれば、その地が犯罪地であることから、その結果が外国で発生してもなお刑法の適用はある。(大M44. 6.16)

逆に犯罪が国外で行われ、その結果が国内で発生した場合も日本の刑法の適用がある。

また、日本国内が犯罪の中間影響地となっているに過ぎない場合でも日本の刑法が適用される。

例えばアメリカから日本に郵送されてきた毒入りハンバーガーをイタリア人が日本国内で食べ、その後に飛行機でイタリアに帰ったあとに毒が回って死亡した場合、中間影響地として日本の刑法が適用される。

 

判例

(最H6.12.9)

 

幇助行為が外国で行われた場合でも、正犯の実行行為が日本国内で行われたときは、従犯(幇助犯)は日本国内で罪を犯した者に該当する。

cf これに対して、幇助行為が日本国内で行われた場合には、正犯の実行行為が日本国外で行われたとしても日本の刑法が適用される。属地主義による。

 

属人主義

(1) 属人主義の意義

属人主義とは、犯人が自国民である限り、犯罪地の内外を問わず刑法の適用があるとする主義をいう。

 

(2) 日本国民の国外犯の処罰

刑法は属人主義を補充的に認め、日本国民が国外において殺人、傷害、放火等の刑法3条で列挙する罪を犯した場合にも適用される。犯人が日本国民だから日本の刑法を適用するものである。

 

(3) 属人主義の適用

刑法3条で列挙されている重要な社会的法益又は個人的法益に関する犯罪に限られており、列挙されていない犯罪類型については、日本の刑法は適用されない。

 

属人主義の適用の有無 まとめ

適用あり

適用なし

現住建造物等放火

他人所有の非現住建造物等放火

上記の未遂

 

 

殺人

傷害傷害致死

業務上堕胎・不同意堕胎

名誉毀損

窃盗

強盗

詐欺・背任・恐喝

業務上横領

盗品等有償譲受罪

   運搬罪

   保管罪

   処分斡旋罪

 

 

強制わいせつ

 

自己所有の非現住建造物等放火

建造物等以外の放火

延焼

放火予備

 

殺人予備・自殺関与罪

暴行・脅迫・強要

同意堕胎・自己堕胎

侮辱罪

 

強盗予備・身代金略取予備

 

単純横領・遺失物等横領

盗品等無償譲受罪

 

 

 

 

公務執行妨害

公然わいせつ

 

その他 過失犯

 

保護主義

(1) 保護主義の意義

保護主義とは、犯人の国籍及び犯罪地のいかんを問わず、自国又は自国民の利益を害する行為に対して自国の刑法を適用するとする主義をいう。

 

(2) 日本国の国家的利益を害する国外犯の処罰

刑法は、保護主義を補充的に認め、内乱(刑法77条)、外患(刑法81条)、通貨偽造等の刑法2条列挙の犯を犯した者は、何人が国外で犯した場合でも、日本の刑法を適用するとして、日本国の重大な国家的、社会的法益を保護しようとしている。内乱とは暴動をおこして国の統治機構を破壊し又は領土において国権を排除して権力を行使し、統治の基本秩序を破壊した場合であり、外患とは外国と通謀して日本国に対し武力を行使したりその援助をおこなった場合である。

 

(3) 国民以外の者の国外犯(刑法3条の2)

かつては日本国民が国外で犯罪の被害者になった場合に日本の刑法を適用する規定が置かれていたが、昭和25年の改正により削除されていた。しかし近年、交通の発達によって国際的な人の移動が日常的になり、国外で日本人が犯罪の被害に遭う事件が増えてきたので、日本国民の保護の観点から刑法3条の2の規定が設けられた。この条文により、強制わいせつ、強姦、殺人、傷害、逮捕・監禁、誘拐、強盗などの本条1号から6号に掲げられた重要な犯罪については、国外で行われたものでも、またどこの国民が犯したものでも、その被害者が日本国民である場合には、日本の刑法が適用される。

 

(4) 日本国公務員の国外犯の処罰

日本の公務員が国外で偽公文書作成、守者逃走援助、賄、公務員権濫用等の刑法4条列挙の行為を行った場合も刑法を適用する。(公務員の国外犯)公務の適正という日本国の法益を保護するものとして保護主義に立つ。公務員の国外犯の規定は公務員に限って適用する趣旨であり、公務員以外の日本人の共犯には適用がないと解される。

 

日本国公務員の国外犯 語呂合わせ

                     「(きょ) (かん) の (しゅう) (しょく)