- 供託法ー18.供託物払渡請求権に対する差押え・仮差押え
- 2.供託金払渡請求権に対する強制執行
- 供託金払渡請求権に対する強制執行
- Sec.1
1供託金払渡請求権に対する強制執行
■供託金払渡請求権に対する強制執行
(1) 差押えの競合がない場合
① 差押債権者による取立て
上記のように、供託金払渡請求権に対して差押えがなされた場合、①単発の差押えであるか、②2つ以上の差押えであっても差押金額の合計額が債権額以下であるときは、供託官は差押債権者の取立権に基づく払渡請求に応じて差し支えない(昭55.9.6民四5333号)。
cf. 供託官が供託物払渡請求書に払渡しを認可する旨の記載した後でも、請求者への小切手交付前に当該払渡請求権に差押えがあった場合、請求者は払渡しを受けることはできない。
② 供託所の払渡手続
差押債権者が直接取立てできるのは、差押命令が債務者に送達された日から1週間経過した後である(民執法155条1項)。しかし、第三債務者たる供託所はいつ債務者に差押命令が送達されたか不明であることから、供記金払渡請求書には還付または取戻しをする権利を有することを証する書面として、「差押命令が債務者に送達された日から1週間が経過したことを証する書面」を添付する必要がある。差押えが競合しない限り、供託官は執行裁判所に事情届を出す必要はなく、払い渡してよい(昭55.9.6民四5333号)。なお、裁判所の支払委託は不要であることから、通常の金銭債権執行の場合と異なる。
(2) 差押えが競合した場合
① 差押えの競合
上記のように、供託金払渡請求権に対する差押えが競合したとき、第三債務者たる供託所は供託義務を負い、差押債権者の取立てに応ずることはできない(民執法156条2項)。
② 供託所による供託
しかし、供託所に供託義務があるといっても、供託所が改めて供託することは無意味であることから、そのまま原状の供託を継続することになる。
③ 供託金の払渡し
供託義務が生じたときは、供託官は、執行裁判所に事情届を出し(昭55.9.6民四5333号)、この事情届により執行裁判所は配当等を実施し、供託金は執行裁判所の支払委託により払い渡されることになる。この事情届は、最初に送達された差押命令を発した裁判所に対してする必要がある(民執規138条3項)。
(3) 転付命令の確定
① 転付命令
差押債権者が転付命令を取得したときは、差押えの対象たる払渡請求権が、執行債務者(払渡請求権者)の債務弁済に代えて、その券面額をもって差押債権者に強制的に移転する(民執法159条1項)。
② 転付命令が確定したとき
転付命令が確定したときは、転付命令が第三債務者に送達された時に遡って債権の転付の効力が生ずる(民執法160条)。その時に還付請求権または取戻請求権が転付債権者に移転するため、転付債権者は、供託物払渡請求権者として通常の払渡請求の手続に従って供託金の還付または取戻しをすれば足りることになる。この場合、転付命令確定証明書を添付しなければならない。
しかし、転付命令が第三債務者(供託所)に送達される前に、当該払渡請求権に対し、他の債権者が強制執行(差押え等)をなされていた場合には、転付命令が確定したとしても、その効力発生前に差押え等の競合があったことになるため、当該転付命令は無効となり、供託所は転付債権者に供託金を払い渡してはならない。
先例 |
(昭55.9.6民四5333号) |
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なお、供託金還付請求権について転付命令を得た場合であっても、他に差押えまたは仮差押えの執行がされておらず、転付命令が確定していなければ、単に金銭債権に差押えがされているのみであるため、差押債権者は、「差押命令が債務者に到達してから1週間経過したことを証する書面」を添付して直接供託所に対し、差押命令に基づく取立権(民執155条1項)を行使することによって、供託金の払渡しを請求することができる。 |