- 供託法ー16.執行供託
- 6.仮差押解放金(仮処分解放金)の供託
- 仮差押解放金(仮処分解放金)の供託
- Sec.1
1仮差押解放金(仮処分解放金)の供託
■仮差押解放金(仮処分解放金)の供託
(1) 仮差押解放金の意義
保全命令発令に際し、当該保全命令による執行の停止を得るため、またはすでにされた執行の取消しを得るために債務者が供託すべき金銭の額が定められる。この金銭の額が解放金である(民保法22条1項)。債務者Aがこの仮差押解放金を供託し、供託したことを証する書面を保全執行裁判所に提出した場合、仮差押の執行を取り消さなければならない(民保法51条1項)。仮差押解放金の供託は、仮差押命令を発した裁判所または保全執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所にしなければならない(同条2項)。
cf. 保全命令の担保供託の場合には、裁判所の許可を得て債権者の住所地または事務所の所在地等を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に供託できる場合があるが、仮差押解放金の供託についてはこのような規定はない。
(2) 仮差押解放金の供託
仮差押解放金の供託は執行供託と解されているため、供託書には被供託者として債権者の記載も供託通知書の発送も要しない。供託通知は弁済供託ないしそれに準ずる場合になされるものだからである。
仮処分解放金の場合も同様に被供託者の記載を要しない。
(3) 第三者供託の可否
他の裁判上の担保(保証)供託においては、第三者による供託が認められる(昭18.8.13民甲511号)が、仮差押解放金は第三者による供託は認められない。また、仮差押解放金の供託は金銭に限られ、有価証券による供託は認められていない(昭42全国会同決議)。
(4) 仮差押解放金の効果
仮差押解放金が供託されると、仮差押執行の効果は、債務者Aの有する供託金取戻請求権の上に移行し、存続することになる。
(5) 仮差押解放金の払渡手続
① 差押えが競合しない場合
債権者Cが債務名義を取得したら、この供託金取戻請求権に本差押えをすることになる。供託官は他に差押えがなされていなければ、差押債権者の取立権に基づく払渡請求権に応じて差し支えない(平2.11.13民四5002号)。また、転付命令を得て払渡請求することもできる。なお、仮差押債権者がその後債務名義を得て供託金取戻請求権を差押えて直接払渡請求する際には供託書正本を添付する必要はない。
② 差押えが競合する場合
仮差押債務者Aに対する他の債権者もこの取戻請求権を差し押えることができ、差押えが競合すれば、第三債務者たる供託所は供託義務を負うことになる。しかし、供託はすでになされており、供託所が供託する必要がないことから、供託所は、そのまま供託を継続し、差押命令を発した裁判所に事情届をすることになる。この場合の払渡しは、執行裁判所の配当等の実施としての支払委託に基づいて行われる。
③ 仮差押えの効力が失効した場合
保全命令の申立てが取り下げられ、または本案訴訟において債務者の勝訴が確定したときは、供託金の払渡しは供託者(債務者A)の取戻請求による。この払渡請求書には、取戻しをする権利を有することを証する書面として、供託原因消滅証明書を添付しなければならない(平2.1113民四5002号)。
(6) 仮処分解放金
裁判所は、保全すべき権利が金銭の支払いを受けることをもってその行使の目的を達することができるものである限り、債権者の意見を聞いて、仮処分の執行の停止を得るために債務者が供託すべき金銭の額を定めることができる(民保法25条1項1号)。仮差押解放金の仮処分バージョンである。
執行債務者が仮処分解放金の供託を証明したら、執行裁判所は仮処分の執行を取り消さなければならない。供託後、仮処分の効力は仮処分解放金の取戻請求権の上に存続することになり、仮処分債務者は解放金の取戻しはできない。仮処分解放金は、仮処分の執行の目的物に代わるものであるから、金銭により供託すべきであり、仮差押解放金と同様に有価証券による供託は認められない。