• 供託法ー16.執行供託
  • 4.債権に対する仮差押えにおける供託
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  • Sec.1

1債権に対する仮差押えにおける供託

堀川 寿和2022/02/08 12:51

債権に対する仮差押えにおける供託

(1) 単発の仮差押えの場合

 金銭債権の全額または一部に対して仮差押えがなされたときは、第三債務者は、仮差押金額に相当する金額またはその全額を債務履行地の供託所に供託して債務を免れることができる(民保505項、民執1561項〔権利供託〕)。

(2) 仮差押えの競合の場合

 

 仮差押えの執行後に、二重に仮差押えがなされて、仮差押えの競合が生じた場合も同様に第三債務者はその全額を債務履行地の供託所に供託することができる(民保505項、民執1561項〔権利供託〕)。仮差押えの競合の場合、差押えの競合の場合と異なり供託義務を負わない。なぜなら、仮差押えは財産の保全手続にとどまり、さらに取立てや配当へ進むことはないため、供託させて供託所を通じて配当するといった必要性がないからである。しかし、第三債務者を仮差押えの拘束から解放してやる必要があるため、民執法1561項の規定の準用により、供託することができるとしたものある(民保法505項)。したがって、供託の根拠条項としては民保法505項の他に、民執法1561項を記載する必要がある。なお、この場合も第三債務者は執行裁判所に事情届することを要する。

 

先例

(平2.11.13民四5002号)

 

この供託は、執行供託の類型に含まれるが、供託所が本来の債務者Bに代わってAの債務者になるという意味で、弁済供託の一面をもつ。そこで、供託書には被供託者として仮差押債務者Aを記載し、供託通知書の発送を請求する場合は、A宛の郵券を貼った封筒を添付する必要がある。

 

(3) 仮差押えの執行による供託

 仮差押えを根拠として供託した場合は、債務者Aが仮差押え解放金を供託したものとみなされ(民保法503項〔みなし解放金〕)、仮差押えの効力がこのみなし解放金の上に移行し、債務者Aが有する供託金還付請求権の上にその仮差押えの執行がなされていることになって仮差押えの効力が維持される。cf. 後述する仮差押解放金

cf. 上記の事例で、AのBに対する100万円の債権に対し、80万円で仮差押えがなされ、第三債務者Bが100万円全額を供託した場合、80万円の部分がみなし解放金にあたり、この部分に対してはAが還付請求権をもつことになるが、仮差押えの効力が及んでいるため、Aはただちに還付請求をすることはできない。しかし、20万円の部分については仮差押えの効力が及んでおらず弁済供託であるため、Aは供託を受諾して還付請求ができ、また、供託者Bも供託不受諾を理由として取り戻すことができる(平2.11.13民四5002号)。

 

先例

(平2.11.13民四5002号)

 

供託金のうち、仮差押解放金の額を超える部分につき債務者(被供託者)から、供託金払渡請求書に仮差押解放金の額を証する書面を添付して還付請求がされたときは、これを認可して差し支えない。

⇒ この場合、申請書の記載から解放金を超える額は不明であるため、仮差押解放金の額を証する仮差押命令正本の添付が必要となる。

 

(4) 供託金の払渡手続

① 第三債務者の事情届

 仮差押えの執行に対し第三債務者が供託したときは、仮差押命令を発した裁判所(保全執行裁判所)に対し、事情届を出さなければならない(民保法505項、民執法1563項)。

 事情届には供託書正本を添付する必要がある。なお、複数の仮差押えにつき、発令裁判所が異なるときは、先に送達された仮差押命令の発令裁判所に対して事情の届出をすることとされている。

 

② 仮差押えの効力が及ばない部分の払渡し

 債権の一部につき仮差押えがなされ、全額が供託された場合、前述のとおり債務者Aは、仮差押金額を超える部分につき供託を受諾し、直接供託所に対し還付を受けることができるし、供託者Bも供託不受諾を理由として取り戻すことができる。

 

先例

(平2.11.13民四5002号)

 

金銭債権に対して仮差押えの執行がなされたことにより、第三債務者が供託した場合において、仮差押えの執行が効力を失ったときは、被供託者たる債務者は供託金の還付請求をすることができる。

 

③ 仮差押えの効力が及ぶ部分の払渡し

 仮差押えの効力が及んでいる供託金還付請求権に対しては、その後、仮差押債権者が債務名義を取得して本執行としての差押えをすることができるほか、他の債権者もこれを差し押え、また仮差押えをすることもできる。通常の金銭債権と同様である。この供託金還付請求権を、他の債権者が差押えをした場合、既に仮差押えがなされている債権に対し、他の差押えが入って競合した場合であり、第三債務者たる供託所は民執1562項により供託義務を負うことになる。しかし、供託所が供託する訳ではなく、そのまま供託を維持し、差押命令を発した執行裁判所へ事情届を出すことになる(平2.11.13民四5002号)。その後は、執行裁判所の配当等の実施としての支払委託に基づいて払渡しが行われる。

 

先例

(昭38.2.4民甲351号)

 

供託物還付請求権の仮差押債権者は供託受諾の意思表示をすることはできない。

⇒ 仮差押債権者は還付請求権の処分を禁ずる地位を有するにすぎず、供託受諾の意思表示をすることはできない。つまり本執行としての差押命令を得た後でなければならない。